第八話 ゲーム『プレイヤー座頭市VSプレイヤー此花咲良&プレイヤー夕焼け』
「へー。結構な色男ぶりで妬けちゃうじゃない。私以外にもアンタから恨みを買っている女がいるなんてね」
その声が聞こえた瞬間、俺は咄嗟に此花咲良の斬撃を無理矢理弾き飛ばしてその場を飛び跳ねた。
無理やりに動いたせいで大きな隙を作ってしまい軽く俺の脇腹が咲良の刀に抉られるが、その判断はギリギリで正解だった様だ。銃声から刹那を数えた瞬間に俺の左耳が抉られた。あっぶねええ、一瞬判断が遅ければ確実に頭が吹き飛んでいた。
「あーもう、何で避けるのよ?私が考える最高のラブコールだったんだけど?」
そう言って再び俺の前に現れ出たPN『夕焼け』こと東雲茜は、小悪魔っぽい口調でその口元に艶然とした微笑みを浮かべながら俺の前に立った。
一応顔は笑っているんだが、その瞳は異常なまでに冷たく笑みが一切感じられなかった。
こういう女の態度は嫌いじゃないんだけど、今はちょっと遠慮したいな。流石に厄介な爆弾を二発同時に抱えたくはない。
今の茜は、確実に俺を殺しに来てる。それはさっきとは明らかに違うキャラの服装からも分かる。
具体的には装備が違う。服装は先ほどと同じく、男物の袴と着物を着こんでその上に新撰組の羽織を羽織っているのはおなじだが、先ほどまでとは武装の規模が違う。
その武装は、腰元には二丁のリボルバー式の大型拳銃を納めたガンホルスターを下げ、左手にウィンチェスターライフルのレバーアクション式を握り、右手に銃口から硝煙を上げるH&KのMP5を構えている。
その右肩にはウィンチェスターライフルのボルトアクション式が背負われており、左肩にはアサルトライフルのウージーをぶら下げている。
そんだけ全身を銃器で固めていると大分動きづらいと思うんだが、そういうことを感じさせない茜の動きに、殺意の高さを感じられるな。
女の服装とか髪型の違いとかには余り気付かないタイプの男だが、見た目は文学少女系の美少女が此処までイメチェンすれば流石に気付くわ。
「……随分とまあ気合いが入っているみたいだけどさ。お前にそういうファッションは似合わねえと思うけど?少しは場に合わせてオシャレを押さえるべきだと思うなあ」
「褒めてくれてありがとう♡ただ、私はこの世界に合わせておしゃれをしたんじゃなくて、貴男に合わせておしゃれをしたのよ?………貴方を殺せる最高の状態にね……。」
やべーな。ただでさえ格上を相手にして手を焼いている時に、未知数の実力を持つ初心者が乱入か。……個人的には、一番厄介で苦手なパターンだな。つーか茜の奴、口調というかキャラ変わってねーか?
瞳から光を消して俺ににじり寄る茜の姿に俺は思わずビビって後ずさりをすると、不意に今まで無視されていた咲良の奴が声を上げた。
「何をいきなり痴話喧嘩おっ始めてるのか分からないけどさぁ。横から人の獲物をかっさらおうとか、いくら何でも常識知らずにもほどがない?こちとら、この日の為にいくら使ったと思ってんのよ?」
「は?そっちこそどう言うつもりでこの馬鹿の脳天を叩き割ろうとしているのよ?こいつは私が殺すのよ?何の因縁があるのかわからないけど、そっちの方こそいきなり横からしゃしゃり出てんじゃないわよ?」
すごいなこいつ等。何で出会って五秒でいきなり喧嘩できるの?まあ、いい。これは好都合だ。厄介なやつらが潰しあってくれるなら、俺はその隙を突いて。
俺がそう思った瞬間。
「よくわかった。あんた、私の敵だな?」
「そうね。私も貴女のこと、嫌いだわ」
不意に二人は示し合わしたように一瞬、沈黙する。そしてーーー
「「あのバカを殺した後にきっちり殺してあげるわよ!!」」
その言葉と同時に二人の悪女の攻撃が俺に向かって降り注いだ。
左手のライフルを背負い直し、手持ちの銃器を二丁拳銃ならぬ二丁機関銃に持ち替えた茜の銃撃を避けながら俺は弾丸を弾くように斬っていく。
弾斬りはこのゲームの必須技能だ。出来ねえ奴から死んでいく。だからこの程度の攻撃は問題じゃない。
問題なのは寧ろ。
「くははは!!今度こそ鮮血を飛び散らせて無様な屍を晒しなさい!!刀の借りは刀で返してやるわ!!!」
「本当にお前はジャイアニズム全開過ぎて嫌になるな!!こんなことならあの時容赦せずに全裸になるまで装備を剥ぎ取るべきだったぜ!!」
一斉掃射を切り抜けながら二刀流で攻め寄せてくる『此花咲良』の猛攻を防ぐことの方だろう。
正直、茜の銃撃は簡単に切れるし、何なら見た後で避けられる。
あいつの攻撃はどちらかというと、数うちゃ当たるの戦法よりも正確に狙い撃つことを目的にしてやがる。その所為で逆に狙いが分かりやすく、弾道の軌道に刃を置くだけで弾が斬れるし、発砲の瞬間に首を動かすだけで弾が避けられる。
何よりも、誤射や流れ弾による被害を避ける為にあえて挟み撃ちにすることを避け、常に咲良の後ろからこちらを攻撃する様は、ベテランの風格さえ感じられる。
機関銃の利点を殺しているようだが、寧ろ手数の多い剣術を操る咲良の支援としては最適だ。
そんな茜の支援を受けながら攻め寄せて来る咲良の攻撃は、時おり瞬閃と組み合わせながら振り回される二刀を捌き斬るのにもそろそろ限界が見え始める。
しかし茜の奴、このゲーム初めてやったってわりには銃の取り扱いや援護の仕方とかうまくねえか?リアルで人を殺しているんじゃなかろうな。
余りにも見事な連携に、戦いながらも俺は心中感心してしまう。
「ダメガネ女!!何私ごとこのバカを撃ち殺そうとしてんのよ!!初心者にしても銃の心得無さ過ぎでしょ!いくら無能でも狙うことくらいはできないの!?」
「半裸女!!貴女が射線の上に入ってんのが悪いんじゃない!!てか、ランクが貴女の方が上なのに何結構いい感じにやられてんのよ!!さっさとあのバカの手足を斬り落としなさいよ!!!」
……やっぱ、俺の評価は単なる気の所為かなあ。
「喧嘩するなら、お前ら二人で勝手にやっといてくれねえか?何なら俺暫く消えといてもいいけど?」
「「うるさい!アンタを殺す為に手を組んでのよこっちはああ!」」
ホント、何でそんなに急に仲良く成ってんだよお前ら。
しかし、こうして呑気にしているばかりでも居られないな。
一刀流だけで粘り勝つには、茜と咲良を同時にするには相手が悪すぎる。
「……そろそろ賭けに出る頃あいか」
俺は敢えて小さく呟くと、咲良の刀を弾きながら茜の弾丸を避け、二人から大きく距離を取る。
一刀流でこれ以上戦うのはもう限界だ。だが、二刀を抜けばその瞬間に殺されるだろう。
だから、此処で多少の勝負に出る。
俺の言葉が聞こえているかいないかが勝負だ。