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イマジナリー・ニューロネット・グローブ ー The iNG ー  作者: 九蓮 開花
第一部 第二章 ゲーム&サヴァイブ
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第五話 ゲーム『腐れ縁』


 東雲しののめあかねに張り手をかました俺は一先ず床の上から立ち上がると、未だに床の上にへたり込む茜に右手を差し出したが、俺のその手を無視して茜は床の上から自力で立ち上がる。

 まあ、予想通りっちゃ予想通りだが、予想通り過ぎるその反応に、逆に俺の心を見透かされているような気がして少しばかり気持ち悪くなる。

 

 とは言え、これがこの女なのだろう。


 目の前の相手の心を読んで、その相手の望み通りに振る舞うことで相手を掌に乗せて操り、利用する。

 その実、心の中では常に何かに対する反感と反抗心だけがある。些細な同情心や、気まぐれな親切心は侮辱だとして、拒絶する。


 実際のところはどうなのか知らないが、そこまで的外れな人物評価では無いように思う。


 まあ、本当にこいつが俺の知り合いと同類だったとすればの話しだし、本物かどうかってのはその時にならなきゃ理解できないものだ。それに、そんなことは今はどうでもいい。取りあえずは、このぱっと見でヤバい状況を何とかしなきゃな。


「とりあえずはその服は直しとけ。顔を腫らした女の服が乱れていたら、俺がお前を襲ったみたいに見えて気持ち悪い」


「そうね。貴方みたいなやたら理想の高い童貞に襲われたと勘違いされるのは、流石に業腹だわ。それと、あの花畑お嬢様から助けてくれたお礼がまだだけど、一体何をすればいいのかしら?」


 この状況を何とかしようとする俺に対して、東雲は余計なことを言いながらも意外にも素直に俺の言うことを聞いて緩めた服装を直しながらそんなことを言う。

 俺は思わず眉間に皺を寄せながら首を傾げた。


「一言多いな。ってか、その話はもう終わってるだろ?一応二発ビンタ入れてやったし、それでチャラだろ?つーか、お前みたいな女だったら、ビンタかましたことを利用して俺を脅しかけるとか思ったんだけど?俺は別にそれでもかまわねーんだけど?」


「ビンタに関しては、後でちゃんと慰謝料を請求します。少なくとも治療費は払ってもらうわ。でも、それとこれとは別よ。怨みは怨み、お詫びはお詫び。そういうところは律儀にすることにしているの。そうすれば、それを理由にまたあなたを利用できるでしょ?というか、童貞の下りは否定しないのね」


 俺の疑問に悪びれなく答える東雲の姿に、思わず苦笑する。


「……まあ、あながち間違いじゃねえからな。お前相手に性癖を暴露するつもりはねえけど、少なくともお前みたいなあばずれを抱いて自慢できるほどは神経太く無えわ」


「あら、酷い。私はこれでも、一途で純情で通っているのよ?もらう物を用意して来れば、理想の女になって妄想通りの事を何でもしてあげるって言う事で有名なのに」


「そう言うのをあばずれって言うんだろ?」


 俺の言葉に不機嫌そうに口を曲げる東雲に、俺は薄く笑いながら適当な誰かの机の上に腰を下ろす。


 考えてみれば、いや、考えてみなくても異常な状況だ。


 東雲、いや、此処まで面白い奴に心の中でとは言え、名字呼びは失礼だろ。茜は、いきなり礼とか言いつつ、俺の元に抱かれに来たかと思えば、本性剥き出しにされてぶん殴られて、それでも別に誰かに助けを呼ぶでもなく、普通に俺と話している。


 別に今まで何かしら関係があったわけでもねえ。それなのに、殴った方と殴られた方の対応としては、明らかに異常だ。


 お互いに普通じゃねえ。どっかしら頭が逝かれているんだろう。


 だが、悪くない気持ちだ。


 何というか、こっち側の人間って言うのかな?


 肌で感じる。嗚呼、こういうタイプなんだ。って。正午の昼休みに入ったから一旦殺し合いを止めて、一緒に飯を食いに行き、飯を食い終わったその瞬間に殺しを再開するような。そんな殺伐とした心落ち着く居心地の良さを感じるのだ。


 少なくとも、演技とは言え校舎の裏側で見かけた時の、弱弱しい、いかにもいじめられっ子ですって雰囲気よりも大分清々しい。

 いや、まあ、要は単純に俺に向けて開き直っているだけなんだろうけど、それでも悪い気はしない。

 

 俺は顔を赤く腫らしながらも、不機嫌そうに眉間に皺を寄せながらも、平然と俺に話しかける茜の様子に思わず顔を緩めて笑ってしまう。


 リアルでこんなに楽しい会話をしたのは、一体何年ぶりだろう?つーか、この学校に入ってからまともに会話が成立したのは、今日が初めてじゃないか?

 

「くく、最悪だな。結局は他人を利用することしか考えていねえのかよ。クズじゃねえか」


「いきなり笑い出して気持ち悪いわ。大体、それの何が悪いのかしら?というか、此の世に他人を利用していない人間なんて、ただの一人もいないでしょ?社会の基本となる親子関係でさえも、子供と親の利用し合いなのに、一滴として同じ血が流れていない人間を目の前にして、利用すること以外を考えられないのは、私には理解できないわ」


 まるでどこぞの漫画の三流悪役の様な科白を口にする東雲に、俺は思わず口笛を吹く。

 此処まで開き直った言葉はそうは聞かないが、それだけに此処まで堂々と言い放たれると、最早、清々しいを通り越してカッコよさしかないな。スガカッコいい!

 純粋に称賛の意味を込めて口笛を鳴らしたのだが、冷やかされたと思ったのだろうか?茜は少し怖い眼つきで俺を睨みつけると、何かを諦めたような或いはただ単純に呆れたような態度で軽く肩を竦めた。


「別にわざわざ理解してもらおうと思わないけど、よく言うでしょ?人という字は、助けあっているように見えて利用しているだけだって。それと同じよ。長い棒が短い棒に寄りかかり楽をしていると。でも私には短い棒が長い棒を盾にしている様にも見えるのよ。そして人という字の本質はきっとそこなのよ。楽をさせてもらっている人間は、その分率先して危険地帯に突っ込まされる。そうやって、お互いに利用しあうことで互いに利益を提供し合う。それこそが本当の助け合いでしょ?」


「物は言いようだな。此処まで心に響かねえ助け合いって初めて聞いた。ってか、その理論で言ったら、人を一方的に利用しているお前はどうなんだよ?」


「あら?私みたいな美少女に一から十までお相手してもらえるくせに、利用されることにさえ満足できないなんてとんだ贅沢者ね。いっそのこと死ねばいいと思うわ。ただ純粋に」


「……お前、一辺マジで地獄に落ちたほうがいいと思うよ?」


 ドヤ顔をかましながらそう言う茜の姿は腹立たしいが、実際に眼鏡を外して髪型変えただけでかなりの美少女になる。確かに、こいつの言う通りにこいつを好き放題できるんだったら、こいつに何かしら利用されることは正当な対価だといわれるのは、あながち間違いじゃないと思う。

 けれども、だからと言って『自分に利用されない奴は存在価値がない』と平然と言い切れる辺りは、マジで人間的に終わっていると思う。多分、こいつと友達になれる人間は、重度のサイコパスか、生粋のマゾヒストだけだと思う。


 まあ、いい。そこまで言うなら、お前のその本性ってのがどこまでの物か確かめてみるのも手だ。


「なあ、茜。ちょっと帰り道に付き合えよ。このまま少し遊びに行こうぜ?」


「あら?デートのお誘い?」


「まあ、そうとは言えるかな?つっても、代金全部お前のおごりだけど。それでお前の言う借りを返したことにしてくれよ。ついでに、お前の顔の治療費も払うよ。それで一度何もかもチャラにしようぜ?」


「あら?気前がいいのね。私はもらえる時は限界までふっかけるけど、それでも構わないの?」


「チャラにしようぜって、話しでそんなこと言ってるんじゃねえよ。まあ、その分はきちんと払ってもらうから安心しろよ」


 この期に及んで未だに挑発じみた態度を崩さない茜に若干呆れながら言うと、流石に茜も角を引っ込めて


「分かったわ。慰謝料云々は諦めるけど、その代わりに思わず料金払いたくなるくらいに楽しませてあげるから覚悟しないさいよ?その時はきっちり搾り取るから」


 そう言って茜は、今までどこかに隠していた荷物を取るために俺に背を向けた。


 そんな後ろ姿を見て、俺は思わず笑みを浮かべてしまう。


 どうやら俺は、マゾヒストの気があるらしい。







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