第三話 学園生活『出会いと始まり』
「見た?この動画?」
「あーみたー。ヤバいよねー。てか、あの宣言なんなん?俺より強いのが後百人いるぞーとか」
「これヤベーよな。つーか、彼奴、これだけの強さを見つけて何がしたいんだよ?」
「あー。てか、調子こいてイキってるだけっしょ?いわゆるネトウヨっていうかー」
街頭では、今日も又そう言う言葉が行き交っている。
話題になっているのは、今から一週間も前に起こった大事件だ。
世界最初の家庭用VRゲーム機が一万人限定で発売された同時に、電脳世界に一万人もの人間の意識が取り残された状態でゲーム機の開発者である茅歳に拉致され、命を懸けたデスゲームを強要された、通称『INGテロ未遂事件』。
今世紀最大規模のサイバーテロ事件にして、そして最大規模のネット愉快犯。
何しろ、デスゲーム開始から五時間後にはゲームはクリアされてしまい、チートを使ってまでプレイヤーと対戦したボスキャラは、一方的にぼっこぼこ。
そしてその頭のイカレタプレイヤーの宣言を聞いた茅歳は、ビビッてケツ巻いて電脳世界に取り残された全プレイヤーを解放してしまった。
その後、茅歳はそのまま警察に自首し、犯行の全てを自供した。
唐突に起こったデスゲーム宣言に、嘘か本当か半信半疑だった世間と警察もこれには驚きを隠せず、本当のデスゲームによって死にかかった一万人のプレイヤーを救ったそのクリアプレイヤーは、メディアによっては『有志の一般人』評価されたのだったが、それに対す世間の評価は冷ややかだった。
何しろ、ボスを倒した時に『バトルロワイヤルをしろ』と逆に茅歳を焚きつけ、素手になって敵をぶん殴る舐めプまでしたのだから、世間的には評判が悪い。
世間一般の意見は、「本当に命がかかっているとは思わずに、大口を叩いているだけの少しゲームが上手い単なるアマチュアゲーマー」というのが大方の認識だ。
まあ、その当人が俺なわけだが。
どこにでもある様な交差点で、通学途中の学生たちがスマホを片手に好き勝手なことを言い合いながら、薄ら笑いを張り付けるのを横目に、俺は青に変わった信号機を見て歩き出す。
まあ、こいつらの人気を買いたくてあんなことを言ったわけじゃないんだが、それでもやっぱりこう思わずにはいられない。
「………やっぱ、現実はクソだな」
俺は口の中で噛みしめるようにそう呟きながら横断歩道を渡り終えると、そのまま通学路を歩き続ける。
人斬りの世界は最高だ。さっさと地下に籠って殺しまくりたい。
☆☆☆☆☆
学校に着いた俺は、適当に授業を寝て過ごすことで昼休みになるのを待つと、購買で買った焼きそばパンをかじりながら昼休みの校舎裏に来て、ぼんやりと裏庭に植えられた花壇を眺める。
桜の木は表通りに並木道を作る様に植えられているが、花壇に植えられた草花だけは裏庭に隠す様に植えられるのは何故だろう?
そんな下らないことを考えながら、ぼんやりと咥えた焼きそばパンを咀嚼していると、不意に裏庭に女子の数名が喧しい声を上げながら近づいて来る気配がする。
パンを喰い終わっても終わらないその喧騒に、少し苛立ちを覚えて俺はその場面に顔を出すと、そこには一人の冴えない女子を取り囲んで、女子が薄気味悪い笑顔を浮かべながらその冴えない女子を目掛けて殴り掛かっている光景があった。
どうもいじめをしている女子の方は、この学校でもマドンナというか、アイドル的な人気を誇る女の様だ。
確か、俺と同じ一年の赤城・可憐とか言ったかな。
何というか、見るからに完璧なプロポーションをしている、白い肌と少し茶髪がかった黒髪が特徴的な、お嬢様然とした美少女だ。
それに対して、いじめられている女子の方は、名前は知らん。ただ、胸だけはやたらとデカいくせに、分厚いメガネと三つ編みにしたおさげ髪の所為で野暮ったく見えるが、俺の場所から見える限りはブスという感じはしない。
どこの学校でもよくあるイジメの風景だろう。
聞くに堪えない言葉を流しながら、物陰に隠れて一人の女を蹴り飛ばす様は見ていて不快だ。
いつも、どんな時でも、弱い奴を踏みにじるしか能のない奴ってのはいる。
しかも、そう言う奴らに限って、何故だか知らないが保身の術には長けているので、誰かに責められるということも無い。本当に強い奴の下について、ばれさえしなければ、どんな悪事でもしてもいいと思っている。思考が完全に寄生虫だ。
そんな奴らを見ていると、殺したくなる。
だから俺は、
イジメられている方の女を殴った。
「……へ?」
突然のことで、目を丸くする冴えない女に向かって、俺は俺はわざとらしく手首を鳴らしながら、俺は瞳孔を開きながら言う。
「昼飯時に俺の邪魔をする。イコール、殺してくれって話だろ?安心しろよ、長引かせることはしねえから」
「ちょ、ちょっと!いきなり横から出てきて、なにぐっ!」
そんな俺に向かっていきり立ついじめの主犯格の女を、俺は首元を握りしめて持ち上げる。
自然と喉が閉まり、いきなり窒息寸前となったその女は、口の端に泡を吐きながら俺の手を取り払おうと必死に喉元を掻きだした。
「ウルセエな。別に、こいつだけを痛めつけるつもりは無いから安心しろよ。この女を殺し後に、お前もじっくり確実に殺してやるからよ。それでおあいこだ?いいだろう?」
そう言う俺のを目を見たその女は、恐怖で顔を青ざめさせ、喉元を掻き毟る速度を上げた。
今はこの場にいる俺以外の全員が、思考が完全に停止している状態だ。
いきなりの乱入者。圧倒的な暴力。そして何よりも、自分達が隠していたことがばれたというこの状況。
そんな中で、何をするのかもわからない。何をしてもおかしくない、圧倒的にヤバい奴である俺を認識したその女の様子を見て、俺はうすら笑いを浮かべながらその女を解放する。
「……ぐ、はっ!あ、はあはあ」
「やばいよ、ちょっと。あの子なんて、放っておこうよ」
「巻き込まれない内に逃げよう。ね?」
俺に解放されたその女に、取り巻きの女どもはヤバいのを感じたのだろう。
荒い呼吸をするだけで精いっぱいそのその女を連れて、俺から逃げる為にその場から離れだした。
俺は、いそいそとその場を逃げ去る女達を見て軽く鼻を鳴らすと、俺に殴られて地面に蹲っている冴えない女に向けて話かける。
「おい。財布持ってるか?お前」
「あ、は、ハイ!持ってます!お金持ってます!、だから、殺さ」
「何勘違いしてんだ?馬鹿かてめー」
俺の言葉の何を早とちりしたのか、いきなり俺に向けて財布を差し出しながら命乞いじみた泣き声を上げるその女を見て、俺は呆れた声を上げる。
「財布持ってねえんだったら、取りに行かそうと思ってたけど、丁度良い。今日はこの後の授業は休んで、そのまま帰れ。そしたら、あいつらはアイツらはお前がボコボコにされたと勘違いして、明日からは話しかけねえよ。後は、暫くは俺のパシリになっとけ。そうしたら、俺に目を点けられているってことで、二度と絡んでこねえよ。分かったら、帰れ」
「え?……あ、あの。それだけですか?」
「あ?これ以上何を言う必要あるって言うんだよ?分かったら、帰れ」
キョトンとした顔をする女を見てそう言った俺に、女は尚も縋りつくように質問した。
「……あの!どうして、私みたいなのを、助けてくれたんですか?別に、貴方とは接点も無いですよね?」
そんなことを言う女子の言葉を聞いて、俺は軽く頭を沸騰させた。
俺が助ける?誰が?この女を?ふざけるな!
「はあ?調子に乗るなよ、クソアマ?誰がお前を助けたよ?」
俺は怒りに任せるままに、その女のセーラー服の襟元を掴んでにじり上げると、そのまま射殺さんばかりに女の顔を睨みつけて話しかける。
「いいか。よく覚えとけ。俺はな、誰かから何かを奪おうとする奴らが大っ嫌いなの。嫌いな奴らの都合のいい様に動いている様を見るのが、死んでも嫌なの。だから、わざわざ労力を割いて、お前に話しかけただけだ。後、つ出でに言えば、お前みたいに、ただ弱いだけで地面に蹲っている事しかできねえ奴も嫌いだ。分かったら二度と俺に話しかけるな。今からとっとと消え失せろ」
そう言って、地面にたたきつけるように解放した女は、そのまま悲鳴を上げる様に逃げ去っていた。