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イマジナリー・ニューロネット・グローブ ー The iNG ー  作者: 九蓮 開花
第一部 第二章 ゲーム&サヴァイブ
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第十二話 サヴァイブ『発生-スタンピード-』


 ――∸∸∸∸∸ただいまより、サヴァイブが開始されます。


 そのアナウンスが聞こえた瞬間の咲良の行動は迅速だった。


「チッ!百八位!!手を貸しなさい!後、茜は今すぐに一番得意な得物を用意しな!!」


 言いながら咲良は、俺が落とした小太刀を拾って投げ返す。


「おいおい、物を返すのに投げるのはよせよ。危ないじゃねえか」


「軽口言ってる暇があるなら今すぐに準備しな!この時間のサヴァイヴは、ヤバイわよ?」


「……俺乱戦苦手なんだけど、数に入れて大丈夫か?」


「なら、そのまま死ね。茜、説明している暇が無いから二つだけ言っておくわ。『私の言う事に従いなさい』、『嫌なら死になさい』OK?」


 何一つ説明になっていない咲良の言葉に対し、茜は怪訝な顔をしながらも何かしら大変な事が起こっている事は感じたのだろう。

 溜息を一つつきながら、今まで構えていた銃を引っ込めて軽く肩をすくめる。


「……色々と飲み込めない所があるんだけど、要するにあのバカを肉盾にするって事でいいのかしら?」


「理解が早くて助かるわ。それと、これから起こる全ての事は自己責任だから、そこら辺の事は勘違いしないで」


 自分の言う事は聞けと言っておきながら、その舌の根も乾かぬうちにそれとは真逆の事を口で斬る当たり、やっぱりこいつはランカーなんだなと思う。


 そんな桜の言葉を聞きながら、茜は大人しく今まで構えていたリボルバーを下ろすと、新たに背負っていたウィンチェスターライフルを手にしてボルトを操作して銃弾を装填する。


 次の瞬間だった。


 真昼の江戸の街並みは途端に消え失せ、周囲は夜の闇に包まれる。


 建ち並ぶ建物は江戸の木造長屋では無く、瓦葺の屋根と白漆喰の塀が建ち並ぶ武家屋敷。


 それは数百年前の京都を再現した、完全なる幕末の世界。




 そして。




 

「見つけたぞああああああ!!九十三位いいいいいいい!!!」


「百八位もいるぞおおおおおおおおおおお!!囲め囲め!!」


 奇奇怪怪な奇特な格好をしまくった奴らが無数の群れをつくって何処からとも無く現れ出ては、そいつらが無尽蔵に襲い掛かって来る、人外魔境の修羅場の始まりであった。

 


 


 ☆☆☆☆☆



真夜中の京都の町には、明らかにゲームのモブとは違う特異な格好をしたキャラクターが溢れかえり、時に刀を振り回し、時に銃声を鳴らして、古都の夜には似つかわしくない血なまぐさい騒ぎを巻き起こしている。


 その中の一人、絶叫を上げながら咲良に襲い掛かって来た新撰組の恰好をした剣士の頭を撃ち抜くと、剣志浪が私の背後から忍び寄って来ていた忍者姿の男を叩き斬って、自分に襲いかかる剣士たちをいなしながら私に怒鳴り声で話しかける。


「オイ!背中を任せて大丈夫か?ここから暫く激しくなるぞ!?」


「業腹だけど、しょうがないわ!サクラ!!もう少し下がって、土塀に隠れる様に行動して!そこからだと遠くから狙われるわよ!!」


「了、ッ解!ットああああ」


 私の指示に従って咲良が動いた途端、一瞬遅れて咲良の近くにいた剣士の胸が撃ち抜かれ、次の瞬間に私はその射線の延長線上に向けてライフルを撃つ。

 けど、その狙撃に手ごたえの無さを感じて舌打ちを鳴らし、咲良に声を掛けつつ背後の剣志浪の服を掴んでその場を移動する。

 しかし、昔取った杵柄って奴は大きいわね。まさか、男を落すための手段がこんな形で役に立つとは思わなかったわ。この事を知ったら天国のお姉ちゃんはどう思うかしら。

 

 唐突に巻き起こった激闘と乱戦に、私はとにかく目につく限りのプレイヤーどもを撃ちまくる。

 次いでに何発か剣志浪に向けて撃っていると、不意に剣志浪が私に向かって襲い掛かって来た。

 次の瞬間、私の後ろにいたプレイヤーが剣志浪に袈裟斬りに切り裂かれる。


「取りあえずこれが礼替わりってことでいいか?」


「は?本気で礼を言いたかったら今すぐ死んでくれない?」


 私がそう言うと、剣志浪は「はは。言ってくれるな」と軽く笑いながら、手にした刀についた血を払った。

 どうでもいいけど、これゲームなのにどうしてこう言う所までリアルなんだろう。


「とりあえずサヴァイブについて教えるから、この場は逃げるぞ」


 そう言うと、剣志浪はサクラに軽く合図を送り、二人は同時に走り出した。

 私もそんな二人の後を追うようについていく。

 

「簡単に言えば、サヴァイブってのは、一日に四回、ランダムで起る時間制限の着いた生き残り合戦だ。取りあえず、目につく奴らを切り刻んで居たら生き残れる」


「それなら、今すぐ貴方の頭を撃ち抜けば生き残れるってことかしら?」


「そう思うならやったらどうだ?止めはしねえよ!!」


 剣志浪の軽口に私は舌打ちで応えると、左手に呼び出したウージーを撃ちまくって周囲のプレイヤーを牽制する傍ら、スコープも見ずに遠距離の敵を狙撃して咲良の援護に回る。


「さっすが!このゲームの本質を理解してくれてありがてぇぜ!やっぱりお前、このゲームに適正あるよ!」


 私の対応に剣志浪は口笛を吹きながら褒め称えてくるが、どう言う訳か褒められている気がちっともしない。


 私はたしかに剣志浪の言う通りに、この生き残り合戦が言葉にするほど単純に生き残れるものじゃなく、必勝法も攻略法も無いものであろう事を肌で理解していた。その上で、それでもある程度生き残りやすい作戦の傾向がある事も、何となく察している。


 この生き残り戦、簡単に言えば弱い奴と強い奴から狙われる。だから、総合的に見て自分の実力が常に中の上をキープするように動くことがセオリーになっている。

短い間ながらも、この激しい乱戦に叩き込まれて分かったのは、突出した実力でもない限り自分よりも強い奴の区別というのは案外難しいと言うことだ。

 だから、相手の実力を確かめる為の方法というのは、純粋に刀を抜いて斬りかかり、自分と周りの様子を見比べて何となくの判断を下すしかない。

 そうして、乱戦の中で総合的に一番強そうな奴が、周囲の二、三人のプレイヤーから袋叩きに遭い、そこからさらに、その中で一番強そうな奴に全員で群がる。という形で、強者を見つけ出すというのがこの生き残り合戦における正攻法となっている。

 要は、強い奴らは袋叩きにして皆で倒そう。という理論だ。


 そんな中、百九人しかいないランカーは全国のプレイヤーが共通して分かる圧倒的な強者であり、同時にそれはランカー以外のプレイヤーにとっては、サヴァイヴにおける恰好の的でもあることを示している。


つまり、全てのランカーはサヴァイブが行われると同時に狙われる。


 そして私の様な初心者や弱い奴は単純に殺しやすいから狙われる。


 此処にいるのは、ランキングの中でも百八位と九十三位であり、実力者揃いのランカーの中では比較的にポイントを狩りやすい奴らであり、同時に近くにいるのは初心者である『夕焼け』だ。

 強い奴が弱い奴と共闘しているというこの状況は、プレイヤーにとっては絵に描いた様な鴨葱状態。


多少のリスクは何のその、と言うわけだ。


とりあえず馬鹿を殺す為だけに機関銃を装備したのは正解だったわ。

 異様に隠れて近づくのが上手いプレイヤーの群れを相手に、とりあえず撃ってれば何発か当たる機関銃の掃射は、明らかに戦闘の技術で劣る私にはプレイヤーの足止めや牽制を行えるという点で初心者に剥いた武器と言える。

 とは言え、詳しい専門知識が無ければ、此処まで銃を扱えていた自信も、生き残れていた自信も無い。


「――――思考に耽る暇すら無いって、どんだけ喧しいのよこのゲームは!!」


「ははは!!感想を言えるとか、随分と余裕のある態度だなあ茜よ!ってか、本当にマジで本気で銃の撃ち方に躊躇とか迷いが一切無いな」


「昔取った杵柄よ!!それ以上知りたいんだったら、此処から無事に生き残る方法を教えなさいよ!!」


 私は悪態をつきながら隣で剣を振るう剣志浪を睨み付けると、サクラの近くに向けて銃を撃つ。


 チクショウ!もどかしいわね!なんかもうビックリ超人の集まりとしか思えないようなプレイヤーの攻撃を切り抜ける為には、サクラと剣志浪の助けがいる。

 斬撃に剣志浪とサクラが対応している瞬間に、私は隙を狙って襲い来るプレイヤーを狙い撃っているが、私の銃が銃声を幾ら鳴らしても、此処のプレイヤーはそんな銃撃を全部躱せたり切り捨てたりしているから、ここのプレイヤーって頭がおかしいと思う。


 最初のチュートリアルの説明では、基本的に全ての武器は現実世界に準拠しており、刀でさえも現代の現実世界に合わせた調整を施しているので、演出面での美しさ以外は現実に起こり得ることだという説明だった。


 つまり、この人達全員、現実世界で機関銃を避けられるし、弾を斬れるってことよね?


正直、全然勝てる気がしないんですけど。



「……キリが無い。本当にどうやったら生き残れるのよ」


私はまるでゾンビの軍団の様に攻撃が止まることの無いプレイヤーの集団を眺め、思わず弱音を呟いてしまう。


この世界ゲームの夜はまだ始まったばかりだと言うのに。


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