第十一話 ゲーム『プレイヤー座頭市VSプレイヤー此花咲良&プレイヤー夕焼け final battle』
地面に叩きつけられた俺は、咳き込みながらふらふらと立ち上がると、とりあえず二人との間合いを図る為にその場を離れる。
致死量ギリギリで弾丸を食らった身体には激痛が走り、手にした刀を一瞬杖がわりに仕掛けるが、それをすんでの所で堪えると、茜からの銃撃が来ない場所をふらふらと探す。
まだ死んでない以上、俺のゲームは終わっていない。これから立て直す。
しかっし、今のマジで死ぬかと思ったな。咲良の対応自体は一応計算に入れていたが、いざやられるとやっぱ怖いな。一瞬頭がパニックになって、下から来る弾丸を避ける事に集中してしまったが、これからは出来るだけ道連れにされる時は相手を盾にする様に心がけよう。
そうして、俺は得難い教訓を胸に刻みながらもその場を離れようとしたが、足元に力が入らず思わず膝をついてしまった瞬間のことだった。
「「辞世の句なら聞いてあげるけど、覚悟はいいかしら?」」
茜こと『夕焼け』は俺の額に大口径のマグナムを突きつけ、『此花咲良』は俺の首筋に煌く白刃を添えながら、色気のある笑みを浮かべて揃って口にする。
美少女二人に囲まれながら、優しい笑顔を向けられるってのはどこか憧れるシチュエーションではあるが、そこに凶器を持った状況が加わると、単なるホラーになるもんだなぁ。
俺は我ながら妙な事に感心しつつも、二人に警戒心を抱かれない様にあらゆる動作に気を張りながら、けれども右手に握る刀は決して放さずに口を開く。
「できれば見逃してくれるってのは、ありですかねい?」
「「問♡答♡無♡用♡」」
「だと思った!」
やたらと色気のある声で俺の降伏が拒否された瞬間、俺はギリギリで袖口に仕込むこと成功した小太刀を抜き放って、俺の頭に突き付けられた咲良の白刃を弾いた。
「「!?」」
余りの事に一瞬硬直しつつも攻撃してくる咲良の剣戟は寸でのところで弾いたが、逆にそれで硬直していた筈の茜はすぐに気を張り直し、俺に向けて銃撃する。
流石に扱い慣れていない小太刀では、種類の違う連撃に合わせきれずに小太刀を落してしまうが、それでも次の瞬間の咲良が俺に一撃を入れるギリギリに合わせて、俺は逆刃ながらも残った刀を抜きはらうことに成功していた。
ギリギリのところで攻撃を防がれた咲良は忌々しく舌打ちをするが、直ぐに俺を睨みつけながら、一見すると両手をだらりと下げただけのやり投げな、しかし其の実、自然体となった臨戦態勢をとりながら、さりげなく俺との間の間合いを図り始める。
ふふん。全く嫌になるねぇ、俺たちは。実際のところ、そういう所がこのゲームのいい所なんだがな。
「その小太刀、何時仕込んだのよ?」
「咲良が俺に抱き着いた瞬間だよ。あの時、俺は背中側に隠していた小太刀を鞘ごと袖の中に入れたんだ。お前ら二人の死角を作らなきゃ、流石に背中に手をまわした瞬間に隠し武器の存在に気付かれちまうからな」
「成程、あの一言は私にアンタを取り押さえさせるための罠だったって訳ね。でも、それにしちゃ少しばかり遠回り過ぎない?その言葉で私がアンタの思い通りに動くとは限らないじゃない?」
「だから、賭けだっつっただろうが。お前が俺の言葉を聞いているかを含めて、俺の思い通りに動く保証がなかったからな。策でも罠でもなく、賭けとしか言えねえだろう?」
そもそも、思い通りに動いたところで、俺より格上である咲良が刺し違える事を覚悟の上で斬り込んで来れば、俺が刀を抜くまでもなくやられていたのは確実だ。実際、落下中に茜から背後で撃たれた時は死ぬと思ったしな。だがまぁ、結果的に全て上手く行って良かったぜ。
俺は逆刃に抜いた左手の刀を順手に握り直すと、右の刀の『桜吹雪』で軽く肩を叩きながら、左の刀『焔紅葉』の鋒を二人に向けて、口角を上げる。
「さて、これで俺は二刀を抜いた。此処から俺とお前等の戦いの本番って訳だ」
身体中に弾丸を食らって満身創痍になりながらも、刀を構えて余裕を見せる俺に対して、二人は何処か冷徹な笑みを浮かべて俺の挑発を受けて立つ。
「上等。どうせ殺すなら、ただ殺すんじゃつまらないと思っていたところよ。地べたに這い蹲って許しを乞うまで撃ち尽くす」
「はっ!余裕こくのも大概にしときなさい!アンタに本当の格の差って奴を脳髄に直接叩き込んでやるわ!」
戦況、甚だしく悪し。されど戦力は万全なり。我、死地にあれども、尚も戦意は衰えず。って、所か。
改めて銃と刀、夫々の得物を握りしめる二人と、二刀を握る俺は睨み合い、
そして。
――∸∸∸∸∸ただいまより、サヴァイブが開始されます。
その言葉と同時に、再び世界が転変する。