第十話 ゲーム『プレイヤー座頭市VSプレイヤー此花咲良&プレイヤー夕焼け second battle』
最初はこの話と次の話とを合わせて一本の話だったのですが、少し長くなってしまったので二話に切ってみたところ、作者的にはいい感じにまとまったので二話に分割して連続投稿します。
電子の世界に作られた江戸の太陽が少しだけ傾き始め、今までただ丸い円のように落ちていた影が少しだけ伸びた形を創り出し始める。
仮想世界である『人斬り』の世界では時間の流れが極端に変わる。
或る時は一年間の激闘を三分間だけで体感し、或る時はほんの二、三秒の交錯が十時間の激闘にもなる。
なので、今こうして俺が二人のやり取りを眺めている時間の流れは本当に長いのか、短いのかは分からない。
ただ、確実に言えるのは、この二人の話し合いが終ると同時に、俺と二人の戦いに決着をつける時が来るという事だ。
俺は右手の刀は握りしめつつも、左手は何があっても対応できるように微妙な力加減で空けておく。
そうして二人の動向を窺う為に何かの大店の長屋の屋上に立って二人のやり取りを眺めていたが、どうやら話は終わったらしい。
何が決まったかは分からねえが、不敵な笑みを浮かべて俺の足元に歩み寄る二人を見れば、此処で決着をつける気になったのだけは理解できる。
いやしかし、何か青春だなー。出会ってすぐに喧嘩していた奴らが、共通の敵を前にして団結するとか、少年漫画の王道中の王道じゃねーか。
さて、そんな青春ドラマ真っ盛りの二人には悪いが、こうして睨み合ってるのも飽きてきた。
悪いがそろそろ賭けの結果を見るとしようか。
俺は腰元に残った刀に向けて再び手を伸ばしかけるが、それを阻止するために茜から銃撃が繰り出され、俺はその銃弾を残らずに叩き斬ると、次の瞬間には俺と同じ要領で屋根の上にまで跳び上がって来た此花咲良の剣戟が差し迫る。
「ま、そう来るわなあ!」
「さっさと私の刀を全て寄越しなさい!今から土下座して刀を差しだしたら、半殺しくらいで許してやるわよ」
俺と此花咲良は互いに剣戟を弾いて瓦屋根の上で距離を開けると、一気に場所取りに動く。
大店の瓦屋根は破風づくり、日本建築式の所謂三角屋根の御屋敷だ。つまりは、有利な場所取りが決まっている。
三角の頂点に当たる梁の部分は足場は狭く踏ん張りがきかない代わりに、高地になって刀を差し込む分には有利だ。それ以外の部分は低地になってしまい梁部分からの攻撃に不利になる代わりに、足場はしっかりとしているので刀での攻撃は、梁部分から繰り出されるよりもしっかりとしたものになる。
こうしてみると一長一短の様に見えるが、実際には高地を取れることの利というのは大きく、更に足場の悪さも梁部分に直接乗らなければよいだけなので、実質的にはそこまでデメリットと言うの訳でもない。
つまり、この屋根の上での戦いはどちらが高台を取れるかで決まると言っても過言では無い。
俺は両手で握りしめた刀を構え直して此花咲良と向き直ると、足元の瓦屋根を叩き壊して空中に浮かしたその残骸を此花咲良に向けて弾き飛ばす。
此花咲良はそんな目くらましの攻撃を当然の様に躱して斬ると、二刀流の斬撃に蹴りまで加えたやたらとアクロバティックな動きで攻撃してくる。
「おいおい。いきなりサーカス団員みたいなことをし腐りやがって!歌って踊れるアイドルってのは雑技団の事だったのかよ?!」
「此処までしなけりゃ、今時は踊りとは言わないんでねえ!アンタの方こそ、私の蹴りは避けないで大丈夫なの?アバラの二三本に罅を入れた感覚遭ったけど?」
「武士は食わねど高笑い、男は黙ってやせ我慢ってね!!骨にひびが一つ二つ入ったところで、何一つ問題にはならねえよ!!」
俺はそう強がりつつも、咲良の蹴りを受けた場所を庇いつつその場を移動する為、どうしても戦闘は防御一辺になってしまう。
ち!あくまでも刀剣のダメージをゼロにするためにあえて蹴りでの攻撃はノーガードに徹することにしたけど、咲良の蹴りは予想以上にしっかり痛い。
俺は改めて両手で握りしめた刀を振るいつつ咲良の剣戟を捌くが、徐々に二人の立ち位置は変化していき、俺は咲良の剣戟に押し込まれる様に低地に追いやられていく。
そしてその瞬間を狙っていたかのように。否。実際にその瞬間を狙っていたのであろう夕焼けの狙撃を済んでのところで躱しながら、俺は咲良の剣を弾いて距離を取る。
……ふむ。二人とも、どうやら俺をこのまま挟み撃ちの形にして削り切るつもりらしいな。まぁ確かに、夕焼けのプレイヤースキルと合わせて考えてみれば、妥当な作戦ではある。
けど残念。咲良と違って夕焼け、茜はドンだけ銃の扱いが上手かろうが、所詮は初心者だ。
茜の銃撃は速くて正確だが、逆に言えばそれは攻撃の軌道が決まっていて、読みやすいという事だ。
狙撃できるポイントは常に最初に押さえている。その周辺の場所で警戒していれば、おのずと狙撃のタイミングは分かる。そこから急所を捻れば簡単に銃弾を避ける事は可能だ。
とは言え、避けられる事と、無意味である事とは別の問題だ。
「チッ!鬱陶しいなぁぁさっきから!!」
「はは!そう思うんだったら、アンタの彼女に頼んでみなさいよ!!そろそろ殺される覚悟がついたから撃つのはやめてくださいってね!!」
高らかな哄笑と共に軽口を叩く咲良の言葉を無視して、俺は舌打ちと同時に時折り死角から飛来する弾丸を回避する。
銃撃を避けつつ剣戟を躱すってのは、思っている以上に神経を使う。何しろ、このゲームは普通のゲームと違って、痛みや死すらもプログラムされたガチもんだ。ゲージ的にはダメージが無くとも、擦れば痛いし、その痛みは判断や動作の遅れにつながる。
「クソが!!」
俺は短く吐き捨てながら茜の弾丸と咲良の剣戟を捌き切ると同時に、完全に瓦屋根の端に追い詰められてしまい、足場の様子を伺う為に一瞬だけ意識が足元に取られてしまった。
次の瞬間だった。
「はっ!!隙ありね!!」
「なっ?!」
茜の弾丸を避けたせいで態勢が崩れた俺に向かって咲良が飛び込み、俺は腰元に組みつかれる様にして咲良に抱きつかれると、その勢いのままに屋根の上から一気に転がり落ちる。
そうして屋根の上から落ちる俺たち二人に向かって、茜の握り締める銃からは一斉に銃火と銃声が鳴り響き、大量の弾丸が俺の背後から上に向かって襲いかかる。
「こンなくそッ!!!舐めんな!!」
俺は怒鳴り声を上げながら無理やり体そのものを回転させて空中で半身になって、襲い来る弾丸の半分でも避け様とする。
「はっ!!それで終わらせる訳ないでしょ!!!」
だかしかし、それは咲良にとっても計算の範囲内の事であり、咲良は俺に抱きつきつつも俺を道連れにしようと少しでも弾丸を避けようとする俺の動きを阻害する。
ああ、クソ!やっぱこのゲームやってる連中の、目的の為には手段を選ばない所って厄介すぎるだろ!!