第九和 ゲーム『プレイヤー夕焼け&プレイヤー此花咲良』
話数の部分の和は、最初は誤字だったんですが、なんか自分の中でツボに入ったんでこのまま和数カウントの一つとして使います。一応、次話からは話に戻しますが、自分の中で気に入った話にはこれから和を使います。
どうでも良いこだわりで前書き使ってすいません。
……母ちゃん、今日俺はどうやら女の子の追っかけを二人見つけました。それも二人とも美少女です。熱い思いを胸に抱いて俺に向かってやってきます。
息子が童貞であることを心配していた母ちゃんはどう思いますか?嬉しいですか?俺としては二人の思いには答えられないヘタレなので、当分の間は男の純潔を守りぬくことになりそうです。
少なくとも、殺されるのも痛めつけられるのも勘弁なので。
「待ちなさい!!」
「さっきからずっと待てって言ってるでしょ!!」
「「いい加減、さっさとくたばりなさいよ!!」」
「……こんなモテ期って嫌だなあ」
俺の軽口に合わせて、二人の攻撃が俺に殺到する。
俺は近くに合った大八車の荷物を蹴り落として咲良と距離を取りつつ、そこらへんにいた町民のNPCを茜からの銃撃の盾にしつつ 銃撃の豪雨と剣戟の烈風を切り抜けると、死んだ町民を重りにしててこの要領で大八車を使って江戸の町を跳ね上がる。
何かの大店の屋根瓦の上に立って、大通りから俺を睨む二人を眺めつつも、俺は腰の刀は抜かずに片手で刀を握りしめる。
此処まで距離を取れば、普通なら二刀を引き抜く程度の時間なら稼げるはずなんだが、あの二人の連携がそれを許してはくれない。
茜の連射を捌く最中に咲良が俺と同じ場所に上るのは目に見えている。そうなれば、先に二刀を握っているあいつが俺より有利だ。確実にやられる。
やっべえな。正直、どっちか一人だったら結構余裕でぼっこぼこに。……流石にランカーやってる咲良の方は余裕は無いな。『夕焼け』の方ならぼっこぼこにできるんだけど、中々二人の連携を断ち切れない。
まあ、良い。どちらにせよ既に賭けは始まってるんだ。後は出目がどう出るかを見守るだけだ。
☆☆☆☆☆
左手に握った機関銃の連射を躱して宙に跳ね上がった剣志浪を見て、私はすぐさまにウージーを投げ捨てると、今まで背負っていたレバーアクション式のライフルを引き抜くと同時に左手だけでレバーを操作して、宙に浮いた剣志浪を狙い撃つ。
完璧にヘッドショットを決めたはずの私の渾身の一撃は、しかしあっさりと剣志浪に躱されてしまい、そのまま大店の瓦屋根の上に降り立ったその姿に鋭く舌打ちする。
やたらとすばしっこくて、確実に撃ったと思った瞬間には既に逃げ延びている。
何だかハエとゴキブリを足し合わせたみたいなやつね。
……多分、私と一緒に剣志浪と戦っているこの半裸女がアイツを足止めして、その後ろ姿ごと撃ち抜けば確実に当たるはずなんだけど、正直私の腕では乱戦に持ち込んだ二人を射程圏に入れるができない。まさしくジレンマね。
そんなことを考えて屋根の上の剣志浪を睨んでいると、不意に同じようにあいつを睨みつけていた半裸女が口を開いた。
「ダメガネ女、話があるわ」
「何?」
「さっきあいつ、『座頭市』は私との剣戟の際に小さく呟いたのよ」
「なるほど、一体何を?」
「そろそろ賭けに出る頃合いだってね」
「……それは問題ね」
半裸女の言葉を聞いて、私は思わず眉をしかめた。
「ええ、あいつは賭けに出ると言った。これはつまり、あいつは私達に対して逆転できる秘策があるという事」
「だけど問題はそこじゃない」
そこまで言った半裸女の言葉を継いで、私は言う。
「ええ、重要なのはわざわざそれを呟いた事」
その言葉に半裸女はこちらを見ずに首肯した。
「わざわざご丁寧に敵に策があることを知らせるような間抜けな真似をするわけがないわ。つまり、あいつはわざわざあんな一言を呟いたと言う事は、それは私に聞かせなければ策にならないというものよ」
「……それでどうするつもり?あいつの策に乗る気?」
「無論乗るわ。乗った上で叩き潰す。それがこの世界での流儀よ。何より、そうする事が最大の復讐だしね」
半裸女はそこで一度言葉を切ると、だから。と、一拍おいて私に言う。
「私がアイツの足を止めるから、アンタは私ごとあいつを撃ち殺しなさい」
迷いなくそう言う半裸女の姿に、一瞬言葉が詰まる。
「……馬鹿なの?普通に考えて今日会ったばかりの人間に頭撃ち抜かせる?」
「このゲームは、撃たれたからって死ぬわけじゃない。何よりも、アンタの射撃を当てるのはその程度じゃなきゃ当たらないってことはわかるでしょ?それに、」
半裸女は私が薄々と感じていたことをあっさりと言ってのけると、一度言葉を切ってから楽しそうに喉の奥をくつくつと鳴らした。
「アンタムカつく奴だけど、そのムカつく所が嫌いじゃないのよ。アンタからは同じ匂いがする」
「同じ匂い?」
「ええ。このゲームをしている奴は大概同じ匂いをさせているのよ。血に飢えた匂いを、力を求める匂いを、ね。求める力ってのは、純粋に暴力だったり、金だったり、策謀だったり、プレイヤーにとって色々だけど、ひとつだけ言えることがあるわ」
そこまで言うと、半裸女は心底嬉しそうに微笑を浮かべた。
その笑みはどこか狂気を秘めた儚さを漂わせており、半裸の羽織袴という姿と相まって何処か退廃的で幽玄な芸術性を感じさせた。
そして。
「このゲームをやってる奴は、全員が全員、戦う力を求めるってことよ」
狂気的な笑みを浮かべたまま、そう言った。
「ここに居るのはそう言う奴らなのよ。全員、自分の我を通すこと以外に興味がないの。関心がないの。自分を殺そうにも殺せない。世界に有るのは、自分か、敵か。そんな生き方してるから、社会って奴に従ったり、権力って奴に頭下げたり、そう言う真っ当な生き方って奴ができないのよ。社会のねじになれないから、頭のねじを外すのよ。だから戦うしかない。だから力を求めてしまう」
自嘲するように自虐するように、しかし気高く誇り高い笑みを浮かべながら、言葉を続ける。
「バカ以外の何者でも無いわ。どうしようもなく間違った生き方で、あり得ない程に頭の悪い生き方で、半端じゃないキツイ生き方だってのも分かってる。でも、抗うしか出来ないのよ。逆らうしか出来ないのよ。そう言う風に生まれついてるから。それでもそんな風にしか生きられない。……あんたからは、そう言う匂いがする」
そう言うと、半裸女は剣志浪を視界に留めながら、流し目になって私を見た。
「歓迎するわ。ようこそ、人斬りの世界へ」
そう言った後、半裸女は思い出したように私を見た。
「それと、アンタ名前は?」
そう言われた私は、剣志浪に向けて銃を撃ちながら肩を竦める。
「普通はそういう時、自分から名乗るが礼儀でしょ?でもいいわ。こっちの名前では夕焼け。本名は、東雲茜よ」
「私は此花咲良。リアルでは、黛さくらって名よ。一応、アイドルやってまーす」
「何その口調?気持ち悪い」
「くはは。よく言われるわ!でもこれくらい気持ち悪くないとアイドルってやってられないのよねー」
「はあ。今の言葉の何がムカつくって、貴女の気持ちがわかるところよね」
「そう言ってくれてありがとう。後でケリつけてやるから覚悟しときな」
「上等」
その悪態が、剣志浪との決戦の合図だった。