第六話
間が大きく空いてしまい申し訳ありません。その関係上、前の話との齟齬が生まれている可能性がありますので、その場合にはご指摘いただければと思います。
◇◇
「……おじさんがあの二人を殺したってことなのか?」
「ああ、だから何度もそう言ってるだろう」
かれこれ六度は説明したというのに未だに信用してもらえない。言葉の端々に疑いが含まれているのがよくわかる。
「……どうやって?」
子どもはそう言うなり遠山の右足へと向けて無言で語り掛けてくる。魔導義足をしまった現在、そこには何もない。ゆえに、足の片方がないお前がどうやって駆け出しだとはいえ大人の冒険者二人を殺すことができるのだと言いたいのだろう。
「秘密だ。それよりも君のことを教えてほしい。これからは俺が面倒を見てやる。勝手だとは思うが、決定事項だ」
別に素直に言うことはない。これからこの子と生活することになる上で、秘密をいろいろと教えなければならないが、徐々にということにでいいだろう。
しかし、なおも警戒を解かない子ども。
「はあ、首を触ってみろ。首輪がないだろう?」
子どもは言われた通り首を触り驚きの表情を浮かべる。
「俺がとってやったんだ。あれがあるといろいろと都合が悪いしな」
薄汚い姿の遠山が奴隷なんかを持っていれば疑われるに決まっている。特段高いわけではないが、その日暮らしでやっている冒険者がそんな貯蓄を用意しているはずもない。見つかれば速攻冒険者組合による監査が入ることになるだろう。
「……とってくれたことには感謝するよ。だけど、どうして? どうして助けてくれた上に解放してくれたの?」
大概の国では法律として奴隷は物という扱いになっている。傷めつけようが殺そうが罪に問われることはない。そして、手にした奴隷を開放するなんていう酔狂なことをするやつなんてまずいない。それにもかかわらず遠山は助け、解放した。子どもにとっては疑問でしかないのであろう。さまざまな修羅場を潜ってきたに違いないこの子にとって、裏にきっと何かあると考えずにはいられないのだろう。
(どうして、か。自分の贖罪の一助になると思ったから、なんてそのまま言えないよな)
遠山はふけでたくさんの頭をごしごしと掻いてからおどけたように答える。
「……子どもが痛めつけられているのを見るのは好きじゃないんだ。それに俺みたいなやつが奴隷を持っていると怪しまれるだろう?」
当たり障りのないことを言って本心を隠す。どうせ嘘を言ってることなど気づかないだろうと考えて。
子どもは真っ赤な瞳で遠山に真っすぐな視線を送る。真偽を判断しようとしているのだろう。しかし、彼にとって心の内を読まれないようにポーカーフェイスを保つなど朝飯前だ。
そして子どもは言った。
「おじさんは……とても悲しい目をしてるね」
その言葉を聞いて、眉をピクリと動かした程度に止めた彼は称賛されるべきであろう。
遠山は考える。二〇年近くものブランクのせいで読まれてしまったのか。否、たとえ鈍っていたのだとしても子どもにでも読み取れるほどに落ちぶれた覚えはない。では全身からそういう雰囲気が出てしまっていたのか。これはあり得そうだ。こんな姿になってしまうものなど何か大きなことが契機となってしまったのだなと考えるしかないだろう。
でも、本当にそうなのか。この子は目で読み取ったんだぞ。
遠山は納得することができなかった。
「どうしてそう思う?」
「さあね、なんとなくかな」
本当になんとなくわかった、それだけなのだろうか。魔法で人の感情を読み取るものもあるが、それであれば遠山がわからないはずがない。では技能か。技能の《鑑定》で確かめてみたが、この子は技能自体一つも持っていなかった。
釈然とはしないものの、遠山は話を進めることにした。
今の会話の中で、子どもがそこそこリラックスしてきているように思えた。この流れのままでいろいろ聞いてみることにする。
「そうか。で、話を戻そう。君のことなんだが、いや、君というのもなんだかな。まず名前を教えてくれ」
今度こそ答えてくれるかと期待していると、数秒の空白があったものの答えてくれた。
「……アイザック。俺の名前はアイザックだ」