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うららかな春の前日

 



 世界という言葉を聞くとどういうものをイメージするだろうか。世界地図のような大陸と海の場所だったり、地球という惑星の形だったりをイメージしたり、するかもしれない。

 俺、波野暮人なみのくれとの場合は人生をイメージする。人生とは、今まで関わった人や物、得た知識や歴史などの自己を形成するに至った道のりだ。 その道のりの違いによって、個人が把握する世界観というものにも違いが出てくるのだ。

 ここで重要なのは”把握する”という点である。個人が把握できる範囲には限界がある。

 例えば、テレビで事件のニュースを見ても、関わりがなければ実感できないため、気にとどめ続けることはないだろう。それは、その人物の把握する世界に入っていないのだ。 結局のところ、世界とは個人の認識の範囲内にある事柄という訳だ。

 長々と世界について考えるなどということをしてみた訳だが、ただの現実逃避だ。

 目の前には止まっている目覚まし時計、テレビに表示されている時刻は午前10時ジャスト。そしてカレンダーの日付は4月8日、入学式の日である。遅刻とか、欠席なんて経験しすぎて今更なのだが、今年からは少しばかり面倒事が発生するので憂鬱だ。



 俺の住んでいる町、明払町は北は山、南は海、駅を中心に円状に都市群、住宅街、郊外といった配置になっている。町の中央から少し西に寄ったところに川があり、その川辺に通っている明払高校がある。俺の住んでいるアパートは町の東側にあるため、自転車通学をしている。

 既に遅刻したことは消せないのでゆったりと自転車を漕ぎながら学校まで来た。

 来たのだが、学校内が妙に静かなのだ。入学式って騒いだりはしないが、外にもある程度音が出るものではなかったか。自転車置き場にたどり着くも、自転車の数が少ない。これはもう確定だろうと思いつつも校舎に向かう。すると、見知った顔が校舎から出てきた。


「何してんの、暮人。部活もやってないアンタが休日に学校に来るなんて」

「やっぱりか」


 先端の方にウェーブの掛かっている茶髪が特徴の少女、美空彩音みそらあやねは意外なものを見たという様で尋ねてくる。同時に俺が日付を間違えているということを確定させた。スマホを取り出し日付を確認すると、表示された日付は4月7日、日曜日である。意外にも遅刻したと思って気が動転していたらしい。思い返してみれば昨日の夜にカレンダーを破きすぎて9日になっていたのだ。ついでに、家のカレンダーは日めくり式である。


「たまには、学校に行くのも悪くないと思ったからな」

「冗談でしょ、アンタがそんなことするわけないでしょうが、問題児」


 彩音の言う通り、俺は我が校の誇る問題児だ。去年の学生生活はひどいものだった。自分でもどうかと思うくらいだ、他人から見ればそれはひどいものに映っただろう。

 遅刻、欠席に始まり、ひどい時には大怪我をして包帯ぐるぐる巻きで学校に来るのだ。しかもその理由を説明しない。素行の悪いやつが謎の大怪我をしている。噂も立つのも当然だな、普通に怖いわ俺。


「じゃあ、学校に忘れ物をした」

「じゃあって言ってる時点で嘘でしょ」

「かくかくしかじか」

「それが通じるのは物語の中だけよ、まあいいわ。入学式の準備あと少しだから手伝いなさい」


 近寄りたくない問題児の俺にも付き合いのある変人が数人いる。彩音はそのうちの1人で、しかも生徒会長なんて肩書きを持っている。


「生徒会長も大変だな。わざわざ入学式の準備を手伝わされるなんて」

「別にいいわよ、どうせ家にいてもつまらないし」

「そういうもんか」

「そういうもんよ」


 1年生にして生徒会入りをし、いきなり生徒会長になったので話題になった。というか、本人が直接言ってきた。カリスマ性を持っている彩音なら、上手いことやったのだろう。

 妙に知った風なのは、生徒会長になる前からちょくちょく交流があったのだ。

 訂正、変人に目をつけられたのだ。なんてたって交流の始めから変だ。


「アンタといると退屈しなさそう」

「はい?」


 これが始まり、妙なことだけ告げて去っていったのだ。どう見ても変人である。類は友を呼ぶって?

やかましいわ、そんなことは分かってる。

 そして俺が登校した時には必ず出くわす。何でも「学校は私の領域」らしい。領域内の把握は当然できるんだと。


 連れて行かれるも、入学式前日ということで、ほとんど準備は終わっており、会場を見回るくらいしかやることがなかった。


「明日の入学式アンタの妹が出席するそうね」

「なんでお前が.........いや、言わんでいい」


 生徒会って学生の名簿見れたっけ?

 もし見れたのだとしたら、流石生徒会長様だなとしか思わない。教師との信頼関係が俺とは段違いだ。

 どちらにせよ今の言動でバレてるけど。


「そうだよ、それで?」

「名簿を見て驚いたのだけど、異能科に入学するのね。アンタとは違って」


 明払高校は普通科と異能科の2つの学科がある。というよりも、最近の高校は普通科と異能科を大抵は設けている。


「そういうこともあるだろ。異能に才があったか否かってだけだ。現に俺は普通科に所属してるだろ」

「ふーん」


 探るような目を向けてくるが、事実だ。俺に異能の才能はねえ。それを察したのか、探るような目をやめた。


「明日は入学式なんだから遅刻するんじゃないわよ」

「へいへい」


 明日の入学式行きたくねえな。


 ◇


 異能という超常の現象が人の手に堕ちた。異能が浸透する歴史の転換点。

 そんな時代における少年の物語。

 



 

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