1-1-1 ゆめうつつ
「あっこれはまずいやつだ…」
初めましてだな。
僕、夢野現は開幕そうそうパッとしない展開で申し訳ないがそう易々と言って良い状況ではないのも確かだ。まず身体が動かない。
四肢損壊している訳でもなく、傷を負っている訳でもなく。何故か動かない。
それに…。
(何故だろうか…)
(眠たい…異様な程に眠たい…)
追い討ちをかけるかの如く苛烈な頭痛が絶え間無く襲い掛かってくる。
(何も思い出せない…駄目だ完全に身体が憔悴しきっている……)
「…ん…さ……ま…ほ…にか……」
現在進行形で木偶の坊同然の僕に少女らしき姿をした何者かが必死に訴えかけているようだ。
意識が漠然とし、視界が霞んでいる為明確には分かり兼ねるが、彼女の瞳には薄らとした水滴が根気強く落ちしまいと耐久していたかの様にも思える。
正直それは現実なのか将また頭痛という弊害による産物による偶像なのかはその時の僕には考える余地がなかったという訳だ。
異様な程の睡魔と絶え間なく続く頭痛に耐えきれず僕は再び混沌の世界へと誘われる。
そして、それに抗う間も無く再び目蓋を閉じた。
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闇に呑まれている最中、あの夢がリフレインする。
懐かしく、低音で威圧的かつ淡白な語調で淡々とした声が反響している…
「これから先お前の目の前にどんな困難が立ちはだかろうとも、自分自身を見失うな。そうすればお前が望んだ世界が見えてくるはずだ。…………おっとそろそろ時間のようだ…じゃあ俺はいくぞ。達者でな… 」
「……」
馬鹿の一つ覚えの様に何度繰り返しているかわからないが、声帯が阻礙され声が発せなかった。いつもと変わらない情景。
混沌の束の間の静寂まさに虚無である。
彼がこの夢の中から退場した後、数秒残るこの虚無の空間。これは僕自身の目覚めの象徴なのだ。
極端に体力、精神が摩耗した時に垣間見える夢。
それから解放されるための数秒間の虚無。
しかしながら、彼の声は鮮明に脳裏に焼き付いてくる。何度も言葉が反響している。
とても慣れ親しんだそんな声……思い出せない…思い出そうとするとその記憶のみが闇に揉み消され断片の跡形もなく存在を失う。
忸怩した思いと憤懣やる方ない思いが募っていくばかりだ。
(あぁ意識が薄れていく…………)
(そろそろ僕も行かなきゃな…………)