我ら愛しき女王陛下に捧ぐ
私はフォーミアン、蟻の輩。集団にて意識を持つもの。
私達はフォーミアン、蟻の輩。集合にて叡智のあるもの。
しかし時には、遺伝子異常というものも存在する。これはそんなものたちの物語。告解じみた、物語り。
a.とある開拓作業従事員のこと
私達はフォーミアン。機械仕掛けの涅槃より来るもの。
私達はワーカー。私達の都市の拡張のためにある。それだけの存在。私達は集合にて知性を持つもの。個無き全。そのはずだった。
しかし私は、個を持っている。不可解にも。
けれど。
私達の仕事は変わらない。
私達の役目は変わりない。
今日も今日とてこの巣を拡げる。それが私達の役割だから。それが女王陛下の命だから。私達にそれ以上の理由は必要ない。
私達はフォーミアン。絶対の陛下に仕えるもの。
私はワーカー。個我などいらない。ただ陛下に仕えるのみ。自我はあれども全体のために。
それが私の望みだから。
それこそ私の願いだから。
我らの都市に、栄光あれ。
b.とある新生児育児担当のこと
私達はフォーミアン。メカヌスより来るもの。
私達はワーカー。
私達はミュルマルク・カリグレオス閣下の下で新たな私達が育つまで食餌を運び、ウォリアー様方の武具を作るもの。女王陛下に最も近い場所のワーカー。
だから私としての存在はあってはならない。そんな危険なものは。私達でなければならない。自意識が許されるのは女王と蟻長のみ。ただの働き蟻にそんなものがあってはならない。だから。絶対の女王陛下を疑うことになっても。私達は私達でなければならない。ワーカーとして生きることだけを。私は。
c.とある開拓団戦闘護衛のこと
我々はフォーミアン。歯車の野より来たりしもの。
ウォリアーとしてはあり得ないことに、どうにも私は周囲と異なる存在として自己の定義をしているようだ。ならば私は他のウォリアーよりも陛下のために働くことができるのではないだろうか。隊長たるミュルマルク・シルック閣下のようにとまではいかないが、それでも多少は。
そんなことを、思っていた。
過去の自分は、愚かにも。
少し考えれば解ることなのだ。個々の我々は大した概念を持たないが、その代わりに集合意識への接続が私という個体よりも容易にできる。ならば彼らは集合として私などより余程優れている。
そして我々は集合知性なのだ。
ならばこれは必然。私が女王陛下の素晴らしさを理解できない下等生物に脚を引き千切られたことも。緑の体液を流しながら這いつくばっていることも。
ああ、汚してしまう。汚れてしまう、この都市が、私の──我々の都市が。私の役目は戦い、侵入者を排除することだというのに、私は。
何ができたというのだ。
何ができたというのか。
何をしているのだ。私は、ウォリアーだというのに。私は誉れ高きフォーミアンだというのに。
ああ、なんという。
d.とある奴隷開発管理員のこと
私達はフォーミアン。涅槃の外れより全ての地に理想郷をもたらすもの。
昨日、数ヶ月──正確にはこの次元界の基準で131と22分の11日ぶりに私の担当地域に侵入者が現れた。区画はA-DR-65。当該区画担当の戦闘官からの通達が遅れたことから侵入者達が交信の妨害手段を持っていたことはまず間違いない。テレパシーの遮断が行われていなければ侵入者の存在が警告されないことはあり得ない。
幸いにも侵入者達は捕らえられた。10人のうち4人が死亡したために3人しか確保できなかったがしかたがない。少なくとも、この3人は新たに女王陛下とすべてにあるべき理想郷の建設のため作業に従事できるのだ。彼らも喜ばしいであろう。
あらゆる世界の全ての者が、私達と同様に都市建設に関わり理想郷の現象化をおこす義務がある。
──このような思索は不必要かつ危険である。早急に止める必要性が認められる。私はあくまで作業監督にすぎない。蟻長の真似事をする必要はなく、そして不必要なものと排除すべきものは一致する。
私達はフォーミアン。秩序のために存在する。