ウキウキ
晶の話を聞いて、陽一の心はだいぶ浮かれていた。
俺に会いたいだって。
思わず顔がにやける。
朝、少し早めに起きると母親が驚いていた。朝食をしっかり摂り家を出る。学校までも気分はウキウキだった。
教室はまだ数名のクラスメートだけで、皆寒そうにしていた。席につくと、先に来ていた森口が寄って来た。
「おはよう、笹岡くん」
「おう、おはよう」
にっと笑いかけると、森口が怪訝な顔をした。
「今日はすごく機嫌がよさそうね」
「まあな」
頭を掻いて照れる。晶も自分に会いたがっているのだ、同じ気持ちなんだから俺も我慢しなきゃ。
「あの、昨日はありがとう。手伝ってくれて」
「え?」
「倉庫の確認」
「ああ、いいよ。当然だよ」
陽一は答えたが、森口はなかなか席を離れなかった。陽一は首を傾げた。
「えっと、まだ、何かあったっけ?」
「あ、あのね、昨日の事なんだけど」
森口はもじもじとしている。
「昨日?」
「昨日、ほら、知らない女の子が来てたでしょ」
「ああ」
そうだ。告白された事をすっかり忘れていた。あの子、どうなったんだろう。
「知りあいだった?」
「ち、違うのっ」
森口は慌てて手を振る。
「何の用事だったの?」
小声で聞き取りにくかったが、何とか理解した。ああ、うん、と言葉を濁す。まさか、告白してきたなんて言いづらい。
「俺に用事? みたいな」
「それだけ?」
「まあな、断ったけどね」
「そう…」
森口は納得したようなしていないような顔つきでふらふらと席に戻って行った。陽一は、森口の意図がよくわからず首をひねった。
今日は土曜日だったので学校は昼までだった。
さっさと帰ろうとかばんを片付けていると、森口が思いつめた顔で近寄って来た。
「笹岡くん…」
「うん、何?」
かばんを持って立ち上がると、森口が後を追ってくる。
「あの、少しだけ時間いいかな」
「いいけど」
陽一は足を止めて森口に向き直った。
「何?」
「ここだと、話づらい」
「ああ、分かった」
保健委員会の事ではなさそうだ。
もしかしたら、恋愛の相談かもしれない。陽一の友達に好きな人がいるとか。有り得るかも。
陽一は、少し身を引き締めるとだんだんと人気のない場所へ進む森口について行った。
校舎裏は寒々としており、人の気配はない。すると、急に森口が立ち止った。
「用って何?」
陽一が尋ねると、森口は頬を赤く染めて口を噛みしめていたが、大きく息を吐くと、
「好きなの」
と言った。
「へ?」
陽一は唖然と口を開ける。
「笹岡くんの事、ずっと好きだったの」
「嘘だろ…」
陽一は呆然とした。まさかの告白? このタイミングで? マジかよ…。
もう、自分にモテ期がきたとしか思えない。
「ご、ごめんっ」
「えっ?」
森口が目を丸くする。陽一は深く頭を下げた。
「お、俺、実はずっと前から付き合っている彼女がいるんだ」
「そうなの?」
森口の顔が暗くなる。俯くと、唇を震わせて今にも泣きそうに見えた。
「本当、ごめんっ」
「いいのっ」
顔を上げた森口は無理して笑っていた。
「気持ちを伝えたいだけだったの。こっちこそ、ごめんね。今まで通り友達でいてくれる?」
「もちろんだよっ」
陽一も力強く答えた。
「俺の方こそ、こんなアホだけど、相手してやってよ」
「笹岡くんはアホなんかじゃないよ」
森口が小さく笑った。目じりに涙がたまっている。
「すごく優しいもん。みんな、知ってるよ」
褒められて恥ずかしい。
「あ、ありがとう。そう言ってもらえるなんて、さ」
頭を掻いて笑うと森口も笑顔になった。しかし、寂しそうに顔を伏せた。
「ごめん、今日はここで別れるね。一人で帰れるから」
「うん…」
とぼとぼと森口が歩いて行く。その後ろ姿を見ながら、自分のせいだろうか、と思った。
家まで送ったりしたから? 誤解させたのかもしれない。
やるせない気持ちで一杯になる。
陽一は、朝の気持ちなどどこかへ吹っ飛び、さらに晶に会えない辛い気持ちが深まった気がした。
拙作をお読みくださりありがとうございます。
こちらの作品は、2024年よりカクヨム様にて推敲しなおして、再度連載を始めました。
まだ、なろう様の方の部分の方がかなり進んでいるのですが、もし、ご興味がありましたら、カクヨム様にて読んでいただけると幸いです。
ありがとうございました。




