再会
自分のことを宇宙人と言う人物もどうかと思ったが、その夜、宇宙人には全然見えない大男を連れて、陽一は三輪山に向かっていた。
佐野は住む家がなく、動物たちが暮らす空き地や空き家を転々としていたらしい。それを聞いて、以前、連れられた赤猪子の暮らしていた社に案内しようと提案すると、でも結界が……と、身体のわりにおずおずと佐野が小声で言った。
結界なんかないよ、と伝えて三輪山へ入った。
久しぶりというか、晶と別れてからは毎日のように来ていたが、会えないと分かってからは、一週間に一度、掃除にしか来ていなかった。
古ぼけた鳥居の前で一礼してから手を合わせると、ピンと何かが外れる瞬間が好きだった。ところが今日は外れない。
あれ? と首を傾げると、
――陽一殿。
と女の声がした。
「ばあちゃんっ!」
陽一は思わず叫んだ。
やっぱりここは月と繋がっていたのだ。
――陽一殿、その男が何者か知っていて連れて参られたのか。
なんだか怒ってる?
陽一は首を振った。後ろでは佐野が小さくなっている。
――その男は月から出て行った荒くれ者。そなたの力で抑えることはできませんぞ。
なんだ、それ……。
陽一は、そっと佐野を窺った。佐野は当然、赤猪子の声が聞こえているのだろう、悲しそうな顔をした。
「陽一くん、ここはヤバ……じゃなくて神聖な場所、やはり俺には無理だ。野宿するから」
背中を丸めて、しゃんとしない。
「赤猪子さん話は後にしてください。とにかく俺はこの人をここに匿うつもりです」
そう言い放つと、ぴんっと何かが外れる。陽一はホッとして中に入った。
「佐野さんも入ってくれよ」
促して二人で社の中へ向かった。不思議な事に、陽一は心が穏やかになって行く気がした。
風がそよそよとなびき、森の奥でかさこそ音がする。気になって暗い森の奥を見ていると佐野が言った。
「俺の事を歓迎してくれている……」
大きな男の目は潤んでいた。
社につくと、白っぽい影が縁に立っている。陽一は息が止まりそうになった。白装束に赤袴。
「晶……っ」
小さく声を上げて駆け寄った。
「あ……」
人影は赤猪子だった。腰に手を当ててこちらを睨んでいる。灰色の髪にしわだらけの姿だ。
「ばあちゃん……」
がっかりした声を出すと、赤猪子の眉がピクリと動いた。
「久しぶりに会ったと言うのに、つれないのぉ」
顔が笑っていない。目は佐野ばかり見ている。
「この度は俺を中へ入れてくださり感謝いたす」
佐野がお辞儀をすると、赤猪子は顔の筋肉を少し緩めた。
「殿下はお変わりになられましたな」
「殿下?」
赤猪子は膝を突いて恭しく頭を下げた。陽一だけが何が何だかさっぱりだ。佐野は力なく微笑み、陽一を見た。
「赤猪子さんの言うとおりだ。俺は自分から月を出て行った。しかし、地球ではうまいことやって、神として崇められていた、と思ったんだがなあ」
「何があったんですか?」
「簡単に言えばなあ、戦だ。戦を仕掛けられた。人間に」
「戦……?」
「そいつに力を全部奪われた。そこで陽一くん、君の力が欲しい」
「俺?」
「殿下」
赤猪子が口を挟んだ。佐野は、はっと口を閉じた。
「うん……」
「陽一殿、今日はもう遅い。そなたはご自宅へ帰りなされ、殿下の面倒はわしが見るゆえ」
「まことか!」
佐野の目がきらっと輝いた。
「あー、よかった。今夜も野宿かと案じておった」
赤猪子は、佐野の言葉を聞いて呆れた顔をする。
陽一は、晶のことをいろいろ聞きたかったのに、と不満に思った。しかし、佐野は疲れているようだったし、自分は明日も学校があった。
陽一は高校一年生である。来月からは冬休みだ。だから、冬休みを利用して月に行ってみたいと思っている(これは勝手に一人で決めた)。
だから、今できることはしっかりとやっておきたかった。
「じゃあ、俺、帰るよ。また、様子を見に来るから」
陽一は、自分の部屋に思考を飛ばす。誰もいない。母は、陽一が寝入ったと思っている。
真っ暗な自分の部屋へとポスト(瞬間移動)するため集中した。ポストとは瞬間移動のことで、瞬間移動という言葉は長いので勝手にポストと陽一が命名した。
「かたじけない、陽一くん」
と、陽一が移動する直前に背中に向かって佐野の声が聞こえた。




