民話伝説
舞と俊介はマンションに戻っていた。
その後、慶之介たちが戻ってきて、これまでの経緯を話した。
舞がふらふらと座りこむ。
「三輪守様と言えば、赤猪子様ですね」
「赤猪子殿の力は、わらわをはるかに凌ぐ力の持ち主。巫女が張った結界は、容易には探せぬ」
「しかし、陽一の人形を見抜いたのは、瑠稚婀殿でございましょう」
俊介が真面目に云うと、瑠稚婀は悲しげに頷いた。
「陽一の残像意識をたどったまでじゃ。もし、月へ行かねば分からなかったはず」
慶之介は渋い顔で腕を組んだままだったが、俊介を見た。
「我らに何ができる?」
「鬼を探す事ができまする。けれど、鬼はまだ現れていませぬ」
瑠稚婀が答えた。
その時、舞がぽつりと呟いた。
「陽一さまのお友達…」
「ん?」
俊介が妹を見た。
「はっきり申せ」
「陽一さまのお友達は、民話などに詳しいようです」
「それが何だと云うのだ」
慶之介が強い口調で問いただすと、舞は、自信なさげに答えた。
「鶯姫の民話が伝わる地域を探してみるのはいかがでしょう。晶さまの過去を追い求めれば何かつかめるかもしれませぬ」
舞の発言に、俊介は首を振って小さく息をついた。しかし、瑠稚婀は違った。
「舞、その考えはよいかもしれぬぞ」
舞は、瑠稚婀の賛同を得てから目をきりりと上げた。
「電話してみますわ」
「連絡がつくのか?」
瑠稚婀が聞くと、舞が頷いた。
「はい、晶さまの携帯電話がこちらにあります」
機械音痴の舞なりに必死なのだろう。机に置いてあった携帯電話を手に取ると、熱心に番号を押さえた。
何度か着信音を鳴らすと、陽一の友達である朋樹につながった。
『はい…? 晶ちゃん?』
警戒する声に、舞は不安になりながらも勇気を出した。
「あの、わたくし、舞と申します。朋樹さまでございますか?」
『えっ、舞ちゃん? うわ、びっくりした。あの後、急にいなくなるから、心配したんだよ』
「申し訳ありません。あの、朋樹さま、今お時間よろしいですか?」
『いいけど、陽一もいなくなっちゃうし、僕、何がどうなっているのか』
舞は、慌てて朋樹の話を遮った。
「鶯姫の民話について知りたいのです」
『鶯姫?』
「はい、この辺り、もしくは、地域や場所などで何かご存知のことはありませぬか?」
『場所? 民話は各地に散らばっているからなあ』
朋樹が申し訳なさそうに言う。舞は傍目にも分かるくらい、がっくりと落胆してため息を吐いた。
「そうですか…」
『あ、待って。すぐ近くに比翼塚がある場所を知ってるけど』
比翼塚と言うのは、心中した男女を葬った墓のことである。
舞は首を振った。
「それは違うと思いますわ」
『そう? 近くだよ。三輪山にあるんだけどね』
舞は大きな目をこぼれんばかりに見開いた。
「い、今、何とおっしゃいました?」
『僕の家の裏に小さな山があるんだけど、三輪山って言うんだ。その山に古い小さな社があって、お墓も点在するんだけど、その一つに古い比翼塚があって、時々、お祭りもあるんだよ。鶯姫に近い伝説も残っているし』
「ああ…っ」
舞は、小さく悲鳴を上げて、電話の向こうで朋樹が驚いた声を出した。
『び、びっくりした』
「それですわ!」
『舞ちゃん、大丈夫?』
「ありがとうございます。朋樹さま」
細かい場所を聞いてから、電話を切った舞は一同に説明をした。
慶之介が今すぐその山へ向かおうと言った。
「しかし、殿下、ハンターもその山に居る可能性がございます」
「当然のこと。しかし、婀姫羅を守るのが第一」
「そうでございます」
舞も力を入れている。
「三輪山」
瑠稚婀が小さく言う。
「知らなんだ。そのような名の山があるなど」
「それは当然ですわ」
舞は、慰めるように言った。
「だって、わたくしたち月の者ですもの」
「さあ、すぐに三輪山へ飛ぶぞ」
慶之介の声に一同は頷いた。
舞は手を合わせた。
何だか胸騒ぎがする。早く、晶さまに会いたい。
一心で祈った。




