表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/95

怒りと悲しみ

拙作をお読みくださりありがとうございます。


こちらの作品は、2024年よりカクヨム様にて推敲しなおして、再度連載を始めました。

まだ、なろう様の方の部分の方がかなり進んでいるのですが、もし、ご興味がありましたら、カクヨム様にて読んでいただけると幸いです。

ありがとうございました。




 うるさい。うるさいっ。


 陽一はどこかで鳴る機械音に苛々した。


 何だ、この不快な音は。

 静けさを破る機械音は耳元で鳴っているようだ。


「黙れっ」


 横たわっていた陽一は手に触れた硬いモノを取った。

 無意識に体が動く。

 思い切り手を振り上げると、ばりっと何かが敗れる音と、ぷつん、と糸の切れる音に目を覚ました。


「何だっ?」


 体を起こすと、刀で切られたような御簾と、その向こう側から沙耶が手を振っていた。

 彼女の手にはスマホが握られている。


 陽一は、あの不快音は携帯電話だったのだと気付いた。

 ポケットからスマホを取り出すと、沙耶からのラインが入っている。開いてみると、中に入れて、と書いてある。

 陽一は両手をついて立ち上がった。


 足元に大きな刀が落ちてあったが、気にもせずに足でまたいだ。


 頭がすっきりしている。

 なぜ自分はここで眠っているのだろう。


 首を傾げ、沙耶のそばに寄ると、彼女が中に入れて、と言った。


「入っておいでよ」

「入れないの。結界が張ってあるわ」


 沙耶が言ったが、陽一は首を振った。


「大丈夫だと思う」

「え?」


 沙耶がびっくりしておそるおそる指を伸ばした。何も起きないのを確かめて目を開いた。


「すごいわ」


 そう言って沙耶が土足で中に入って来た。


「靴を脱がなきゃ」

「平気よ。ここは鬼の棲みかだもの」


 陽一はむっとした。


 確かにそうかもしれない。でも、土足はよくない。

 しかし、細かい事を言う男だと思われたくなかったので黙った。


「鬼はどこ?」

「うぐいす姫? さあ、知らない」


 陽一がそっけなく言うと、沙耶が顔をしかめた。


「今宵は新月よ。急がなきゃ」


 沙耶はサングラスを取り出した。


「あなたもかけて」


 陽一は、ここへ来てからサングラスをかけた事を思い出した。

 ポケットにサングラスが入っている。取り出して眺めているうちに、胸騒ぎがした。


「もしかして、俺がここにいるって知ったのは、これのせい?」

「ええ。悪いけど、GPSが仕込まれているわ」

「なんでそんな事…」


 陽一が絶句する。

 サングラスをかけると、居場所が知れてしまうのだ。


「うぐいす姫と接点があるのはあなたしかいないもの」


 悪びれもせず沙耶は言う。


「新太郎さんたちはすでに裏の社にいるわ。わたしたちも早く合流しましょう」


 沙耶が何を言っているのか分からなかった。


「嫌だよ、俺はもう関係ない。早く家に帰らせてくれ」

「何を言っているの。あなたは言ったじゃない。どうやったらうぐいす姫を殺すことができるのかって。約束したでしょ」


 確かに自分は言った。


 あの時は、うぐいす姫が憎くて仕方なかった。

 だが、今は違う。殺したいと思うほど憎めない。

 うぐいす姫は鬼の姿をしていたが、殺す理由がない。


 殺したくなんかない。


「俺の事は放っておいて。俺は、運命の相手じゃないし…」

「まだ、そんなことを言っているの?」


 沙耶は呆れてから、陽一の背後に落ちている大太刀に気付いた。


「あれは?」


 陽一が近づいて触ろうとすると、どこからか声がした。


 ――触らない方がいい。


 ハッとする。


 夜琥弥の声だと気付く。陽一は辺りを見渡したが姿は見えない。沙耶には聞こえないのだろう。眉をひそめて陽一を見ている。


「陽一くん?」

「いや、何でもないよ。この刀は俺には大きすぎて動かせない」

「わたしが使うわ」

「えっ?」


 止める前に沙耶が大太刀を手に取った。

 重くないのだろうか、と心配したが、沙耶は軽々と持つと、踵を返して走りだした。


「ど、どこへ行くの?」

「みんなの所よ、あなたみたいな意気地なしはもう必要ないわっ」


 女の子に言われた事がショックだった。

 陽一は唇を噛むと、苦々しい顔で沙耶を追いかけた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ