眠る鬼
あれから晶の意識が戻らない。
鬼ではなく晶の姿に戻ってはいたが、意識は戻らぬままだ。
俊介と瑠稚婀によってマンションへ戻ったが、晶はまだ眠り続けていた。
いつ鬼が目覚めるかと、瑠稚婀は表情を険しくして見守っていた。
「瑠稚婀殿、姫は大丈夫でしょうか。今のうちに月へ連れて行ってはいけないでしょうか」
俊介が言うと、
「やめた方がよいな」
と、瑠稚婀が静かに答えた。
「鬼をこのままにして、姫を月に連れて行っても問題は片付いておらぬゆえ、よけいややこしくなるだけじゃ」
鬼は眠っている。晶の意識もない。
瑠稚婀は唇を噛んだ。
「鬼の気配を感じた気がしたが、鬼は眠っている」
「瑠稚婀さま…」
その時、ドアが開いて舞が青白い顔で現れた。
「起きたか」
俊介が妹を案じると、舞が小さく震えた。
「晶さまはまだ起きられませんの?」
気を失った晶を見て同時に舞も気分が悪くなり横になっていたのだが、ようやく起きられるようになった。
舞は晶に近づくと、小さな手を握った。
「晶さま…」
目から涙があふれる。
「どうしてこのような事に?」
兄を見上げたが、俊介は首を振るだけだった。
「もうすぐ新月じゃ、鬼を押さえこめるのはわらわだけじゃが、姫の力がなくては…」
瑠稚婀がぼやいた時、晶の目がすっと開いた。
「晶さまっ」
舞が歓喜の声を上げて、抱きつく。
「舞」
晶はにっこりと笑って、舞の頭を優しく撫でた。
「ああ、よく眠っていた」
あくびをして晶が言うと、三人は呆気にとられた顔をした。
「姫、大丈夫ですか?」
俊介が言うと、晶はこくりと頷く。
「大丈夫のようじゃな」
けろりと言って笑う。
「心配をかけおって」
瑠稚婀が呆れたように言うと、晶は肩をすくめた。
「瑠稚婀、我は先ほどの戦いで数名のハンターの穢れを吸ってしまった。浄化して欲しい」
「簡単に云ってくれるわ」
瑠稚婀は不機嫌そうだったが、晶が目覚めてほっとしていた。
「姫、心配をかけるな」
「すまぬ」
晶がしおらしく答える。舞は手を握りしめたまま離さない。
「晶さま、二度とわたくしから離れないでくださいませ」
「分かった」
晶は頷いてから、
「俊介、兄上は来ているのか」
と、聞いた。俊介は面食らいながらも答えた。
「いいえ、殿下にはお知らせしておりません。月の使者も戻りました」
「そうか、それを聞いて安堵した」
晶は呟くと、さっと手を振り上げた。
俊介が目を見開いたと同時にそのまま意識を失い、他の二人もすでに意識を奪われいた。
「すまぬな。そなたらに用はない」
晶は立ち上がると、ガラスに映る自分の姿に見入った。
黒髪は床まで伸びて、頭上には角が生えている。赤い袴姿の鬼の姿を見て、にやりと笑った。
「ようやく陽一郎に会える」
晶はそう云うと、姿を消した。




