ひねくれ者
「晶っ」
陽一は、晶の元に駆け付けて、様相の違う姿を見て息を呑んだ。
「どうしたんだ? その髪…角も生えてる…」
晶は答えられずに目を逸らした。
そばには祖父が倒れている。陽一はぎょっとして祖父の元へ走った。
「じいちゃんっ」
しゃがんで胸に耳を当てる。体は温かく無事だった。
「そなたの祖父は無事じゃ」
瑠稚婀が答えた。
「眠っておるだけじゃ」
「じいちゃんに何があったんだ?」
陽一が顔を上げて晶を見た。
晶は静かに答えた。
「すまぬ。翁は記憶を消して欲しいと我に求めた。我はそれに答えただけじゃ」
「記憶を消したのか」
瑠稚婀が呆れて云った。
「真実はまた闇に葬られたわけじゃな」
瑠稚婀が首を振ると、陽一は目を吊り上げた。
「記憶を消したってどういうことだ。じいちゃんは何の関係もないはずだ」
「陽一、姫さまはハンターと戦って怪我をしておる。話は後にしてもらいたい」
「よい、俊介」
晶が制した。
「陽一、お主に話がある。お主には多大な迷惑をかけたが、我は間違っておった。お主は我の探している陽一郎ではない」
「は?」
陽一がぽかんと口を開ける。
「はあ? 何を言ってんだよ」
「お主は陽一郎の生まれ変わりではない。我が間違っておった」
「いきなり、何だよ…」
陽一はわけが分からない顔をしている。
無理もない。
晶は胸が痛んだ。
「すまぬ」
「じゃあ、俺はお前の運命の相手じゃないって言うのか」
「そうじゃ」
「何だよそれ…」
陽一が手を握りしめ、今にも泣きそうな顔になった。
「何だよそれはっ。ここまで俺を巻き込んでおいて、今さら、俺は関係ないって言うのかよっ」
陽一の言葉が胸を刺す。
晶は膝が震えていたが、倒れないよう耐えた。
「ようやく、お前の事を何となくいいなって思うようになっていた。何か分かりかけてきたのに、お前はそうじゃないのかよっ。間違いだったらもういらないのか。今の俺が、お前を好きって言ったんじゃ満足しねえのかよ」
我を好き? 晶は目を見開いた。
どんなにうれしい言葉か知れない。しかし、尚更、その言葉を受け入れるわけにはいかなかった。
晶は首を振った。
背中が痛む。
だが、その痛みよりもっと強い痛みが体を貫いている。
晶は顔を上げて陽一を睨んだ。
「それは…迷惑じゃな…」
晶は、陽一から目を逸らして言った。
「お前、全然かわいくねえ」
「これが我の姿じゃ、お主に好かれたいと思ったことなど一度もないわ」
「ああ、そうかよっ。だったら、二度と俺の前に顔を見せるなっ」
ひどい言葉を投げ捨て陽一は行ってしまった。
二人のやり取りを見ていた瑠稚婀が息をつく。
「素直じゃないの、お主ら…」
瑠稚婀の呟きを聞いて、鬼が笑った。
「姫?」
晶の意識はもうなかった。




