満身創痍
背中が燃えているようだった。
痛みにこらえ、晶は立っていた。
すると、突然、女が悲鳴を上げた。
見ると、俊介が女の腕に刀を切りつけた。
「俊介…」
「姫さまっ」
女の体が傾き、背中の腰刀が抜かれる。
血がほとばしり、晶は地面へと倒れ込んだ。
すかさず俊介が抱きとめた。
俊介の後ろでは、月の使者たちがハンターたちを仕留めているのが見えた。数名のハンターは逃げだし、傷を負った女もいつの間にか消えていた。
晶は首を振った。
「やめよ、もう争いなど見たくない。我はこんな結果を望んではおらんかった」
晶の頭上に生えた角は元に戻らず、髪もそのままだ。
「我はどうなっている…?」
晶が尋ねると、俊介は晶の傷を庇いながら小さな体をそっと起こした。
「お怪我の具合を確かめねばなりません。姫さま」
「うむ…」
「無茶のしすぎですぞ」
「すまぬ」
晶が目を閉じた。その時、ようやく瑠稚婀が戻って来た。
「姫」
一人で戻った瑠稚婀を見て、晶がほっと息を吐いた。
「舞は?」
「瑠稚婀殿。姫さまを早く」
「分かっておるわ。大体、そなたが舞を連れてくるからじゃぞ」
「舞は無事か?」
「安全な場所へ連れて行った。さて」
瑠稚婀は、手を合わせて祈ると、晶の穢れを取り除いた。
晶は少し呼吸が楽になった。
「これ以上、鬼を暴れさせるわけにはいかぬ」
瑠稚婀は、晶の背中に手を当てると傷を癒やそうとしたが、傷は深く簡単には治らなかった。
「姫、分かっておったはずじゃ。ここは敵の陣地へ飛び込んだも同然であることを」
瑠稚婀の云うことは最もである。しかし、陽一の誘いを断りたくなかった。
「陽一はどうしておる?」
「部下に任せています」
俊介が答えた時、俊介の部下の叫ぶ声と共に陽一がかけ込んできた。
「どうやって結界を超えて来たんだ…」
俊介が唖然と云った。
「鬼が呼んだか…」
晶が呟いた。




