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流れ



 流れるプールに浸かり、晶は水の心地よさにひとときの安らぎを感じた。


「楽しいの、朋樹」


 朋樹はうっとりと晶を見つめている。


「晶ちゃん、僕、すごく聞きたいことがあるんだけど」

「何だ?」


 晶がにこりと笑う。


 優雅な動きに目を奪われ、朋樹はぼんやりとした。

 誰かにぶつかりそうになるのを引いて止めたり景色を見たりしながら、二人はプールの中で戯れた。


「陽一たちも来たらよかったの」

「うぐいす姫は君なんだろ?」

「ん?」


 朋樹が聞くと、晶が顔を傾げた。


「なんの話だ?」

「僕に隠す必要はないよ。小さい頃から探していたんだ。勘でわかる。うぐいす姫は君だ。陽一は間違えている」

「よく分からぬが」


 晶は澄ました顔で、朋樹の心をさぐっていた。

 彼に邪気はない。


「そうだとしても、お主には関係のないことじゃ」

「そうだけど…」


 朋樹の心に乱れが生じる。


「僕は知りたいんだ」


 朋樹の息が上がり、晶の手を引き寄せた。


「君がどうしてうぐいす姫なのか。知りたいことがたくさんありすぎて、夜も眠れないんだ」

「うむ」


 面白い、と晶は目を細めた。


 晶はそっと近寄った。

 すると、朋樹はうろたえたように体を離した。


「そんなに近づいちゃだめだ」

「すまぬ」


 晶はほほ笑んですぐに体を離した。


「そろそろ二人の所に戻ろう。朋樹、我がうぐいす姫であることを、陽一に話してはならぬぞ」

「どうして…」

「もし、話したらもう二度と我に会えぬと思え」


 朋樹が青ざめる。


「わ、分かった」

「よい」


 晶は足を止めると水から出た。


「少し疲れたが、楽しかった」


 晶が言うと、朋樹がほっとした顔をする。


「晶ちゃん、何か食べる?」


 晶の目がきらきら輝いた。


「アイスクリームじゃ」


 と晶は答えた。


 晶は、陽一の気配をさぐることができる。

 二人はすぐに見つかった。

 流れるプールのそばにいて、晶たちを探していたようだった。


 陽一と目が合うと、なぜか睨まれた。

 晶は足がすくんだ。


 どうしてだろう。せっかく舞と二人きりにしてやったのに、なぜ、睨まれるのか。


「晶さまっ」


 舞が飛びついてきた。


「泳がなかったのか?」


 舞の体はすっかり乾いていた。


「晶さまが心配で…」

「大丈夫だと申したのに」

「晶ちゃんがアイスクリームを食べたいって言うから、食堂に行こうよ」


 朋樹が言って、四人はプールから少し離れた食堂へ向かった。


「流れるプールは楽しかったぞ」


 晶が言うと、舞は首を振った。


「わたくしは少し疲れました」

「そうか」


 食堂は人で賑わっていた。

 カウンターに行き、晶は抹茶バニラアイスを他の三人はソフトドリンクを注文した。

 晶の隣に朋樹が座り、話しかけている。晶は軽く頷いて、朋樹に笑いかけた。

 陽一は舞と話をせず、朋樹と晶の様子を見ていた。


「アイスクリームが好きなんだね」


 朋樹の声が耳に入って来た。


「好きじゃ」


 晶が答えると、陽一が舞に話しかけた。


「舞ちゃん、泳ぎに行こうか」

「せっかく来たのだから、舞も泳ぐといいぞ」


 晶が提案すると、舞はしおらしく頷いた。


「はい」


 その後、プールで少し遊んだ後、四人は帰ることにした。

 駅に着いて、朋樹が家まで送ると申し出た。


「ここでよい」

「夜、ラインしてもいいかな」

「かまわぬぞ」


 晶が頷くのを見て、陽一が舞に向かって言った。


「お、俺も舞ちゃんと連絡を取りたいんだけど」

「陽一さま、わたくしも晶さまと一緒に使いますので、ご連絡下さいませ」

「でも…」

「我は人の物を見る嗜好しこうはない」


 晶がそっけなく言ったが、陽一は憮然としたままだった。


「何だ、何を怒っておるのだ?」

「べ、別に怒ってないけど」


 どきりとして、陽一は晶と目を合わせられなかった。

 まさか晶に、朋樹と仲良くするな、などと言えるはずがない。


「じゃあな」


 陽一は朋樹の肩を突いて促し、晶たちと別れた。





 二人が見えなくなると、朋樹は大きなため息をついた。


「晶ちゃん、女神さまだ…」

「はあ? どこが」

「まあ、お前は舞ちゃんを見てればいいんだよ」

「朋樹、お前、うぐいす姫に会いたかったんだろ」


 陽一がイラついて言うと、朋樹はにこっと笑う。


「うん。でも、もういいんだ」

「えっ」


 朋樹の変わりように陽一の方が驚く。


「どうしてっ」

「僕はきっと、晶ちゃんのような女の子を探していたんだと思う。じゃあな」


 朋樹はそう言うと自分の家に帰った。

 陽一は少しの間立っていたが、ようやく歩きだした足取りは重かった。







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