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4. 連れ帰る

 †


「ただいまぁー」

 

 玄関を開けて、中へと入る。

 偶々廊下には、人がいた。身長は俺の胸元くらいまでの、銀髪の髪を持つ幼女である。いつもの通り、真っ白なノースリーブのワンピースを纏っている。


「おお、剣斗。遅かったの……う?」


 彼女は振り返る動きを止めて、俺を見た。正確には、俺の後ろに張り付くモケ子を、である。少女の目をよく見ていれば、その銀の瞳の奥で瞳孔がキュッと窄まったのが判るだろう。


「……おおぅ」


 と呟く彼女の頭から、ぴょこんと飛びだしたのは狐の耳である。ポロン、とスカートの後ろからはフサフサの尻尾が現れた。髪と同じく銀色で尻尾も耳も全て先っぽだけが僅かに黒い毛並みだ。


『ひょえっ!?』

 突然飛び出した耳としっぽに驚くモケ子。


 銀色幼女はそんなモケ子の仕草に構うことなく、廊下の奥に向かって口元に手を当てて叫んだ。


「大変じゃ、皆の者! 剣斗がおなごを拐してきおった!!」

「おいこらちょっと待てぃ!?」

 聞き捨てならんぞ、それは! っていうか洒落にならん!


『拐し……え、剣斗さん!?  そ、そんな……!?』

 俺から一歩離れるモケ子。

 お前が真っ先に信じるのかよ!?


 そして直ぐに、家の奥からバタバタと駆けてくる足音が聞えて来た。古部家の台所を預かる、我がオカンのご登場である。


「……け、剣斗? 貴方、まさか……」


 玄関の俺たちを一瞥し、愕然とした表情を見せるお母さま。え、ちょっと待って。こんな他愛のないウソ信じちゃイヤン。 


「その歳でお人形遊びだなんて……! ああ、私、育て方間違ったのかしら……!?」

「え、そういう誤解!?」


 マジでちょっと待ってお母さま! 誘拐の誤解もイヤだが、そっち方面での誤解も絶対にイヤだ。相手が人体模型という部分が特に問題である。そんな趣味、歪んでいるにも程がある。これは早急に誤解を解かねばならない。


 うろたえる俺に、背後のモケ子が震える声を投げかけてくる。


『遊び? 剣斗さん、私のことは、そんな――遊びだったのですか!?』

「ちょっ!? モケ子さん、アンタなんば言うちょっとね!?」


 援護射撃かと思ったら、背後から撃たれたでござる。

 とんだフレンドリー・ファイアだ。


「お、お前なんで俺が連れて帰って来たと思ってんだ!」

『……え、あの、先ほどの、……初めての――続き?』

「ザケンなてめーごらぁ!」

 食ったり食われたりの続きか!? 判ってねーじゃねぇか!

『きゃー!? きゃーッ!?』


「け、剣斗? 初めての続きって、まさか……」


 え。母さんなにその驚愕の表情は。

 銀髪幼女の方は引き攣った笑みを見せている。


「――じょ、冗談のつもりじゃったというのに、まさか瓢箪から駒じゃとは。剣斗、儂が付き添ってやる故、な? 今ならまだ軽くて済むと思うぞ」

「ね、そうしましょう、剣斗。ね? そういうの、恥ずかしいかもしれないけど、一人で抱え込まないで相談してみるのもいいと思うの。だから、ね。お願いだから」


 どこか憐れんだような目でこちらを見る狐耳の少女の言葉。母さんまで心底心配そうな顔でなんかほざいていらっしゃる。っていうか二人さ、連れて行くつもりの場所違ってなくね?


 俺はたまらず叫んだ。

「な? じゃねーよ!」

 付き添いってどこに行くんだよ! 出頭とかしないからな、俺は! 

 あーもう母さん、手を引っ張らないでくれ! 病院にもいかないって!


『ひぃ、あわわわわ……わ?』

 混乱するモケ子だったが、突然ビクリと動きを止めた。なんだどうした、と思うより早く、原因の方から声をかけてきた。


『おお、剣斗殿。おなご連れでご帰宅とは。ははは、剛毅なことで御座るな! 拙者にもぜひその手段をご教授下さ――おや、おな……ご……?』


 モケ子と同じくスピーカー越しに聞えるような、実体感の乏しい声。なぜならばその声の主が、うっすら向こう側が透けて見える、所々に矢の突き立った甲冑を纏う、首の無い落ち武者の幽霊だったからだ。

 落ち武者の足もとには、まっ白い肌に赤い着物を纏った、美しい黒髪をおかっぱにした市松人形がいつの間にか佇んでいた。能面のように整ったその顔からは表情は読めないが、その視線は真っ直ぐに俺とモケ子を捕えている。


 そして二人(?)の背後から、さらに半透明な姿をした幽霊が現れた。短い髪の、中学生くらいの少女の幽霊は無表情な顔でこちらを一瞥し――興味なさそうにしてそのまま言ってしまった。歩かずに、ふわーっと宙を滑るようにして。


 狐耳と尻尾の生えた童女。

 首の無い落ち武者の幽霊。

 異様な空気を纏った市松人形。

 半透明な少女の幽霊。


 俺と母さん以外、まともな人間ではないのは明らかだ。


 他にも騒がしい空気に呼ばれたのか、庭を漂っているはずの幽霊が何人も壁をすり抜けて入って来てモケ子を見下ろしていた。どうやら新入りに興味があるらしい。


『……お、お、お、』


 腰を抜かしたモケ子は、玄関にどすんと尻餅をついてことちらを指差しこう言った。


『お、お、お、お化け屋敷……!?』

「あー、そう言うだろうとは思ったけどさ」

 実際そう呼ばれているんだし。


 お前が言うな、とモケ子以外の全員の顔に浮かんでいたのは言うまでもない。約一名は首から上が無いんだが。


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