33. 夢を見ない
20140625 サブタイトルの番号割を間違えていましたので修正しました。
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状況を検討し、作戦を立案し終わった頃には、時刻は既に十時を回ったところだった。何度か休憩は挟んだものの、精神的に疲れた。
いくつかの状況を想定してパターンを組んだが、基本的な方針は三つだ。
一つ。炎か冷気の術を中心に攻める。俺の場合武器に霊術を付与することになる。今日の戦いを振り返って、お銀さんと由良が最も効率よく戦えていたからだ。
二つ。奴を一か所に集める。あの大質量はそれだけで脅威だ。しかもそれが舞台となる工事現場全域に染み込んでいるなど悪夢に近い。よって奴に、疑似的な核を与えてそれを中心に集まるように仕向ける。
三つ。消耗戦を仕掛ける。工事現場の結界を完全に奪い、俺らのコントロール下におく。同時に内外の出入りを封鎖し、奴を複数回にわけて削っていく。
こうして並べてみれば、別に奇を衒うような内容ではない。基本に忠実に、安全を重視した作戦だ。当然随時修正していく予定だ。
勿論不満が無いわけではない。
俺は凝った肩を解しながら愚痴を零した。
「理想を言えばあいつは一瞬で消滅させたいところなんだがなぁ」
でないと俺の怒りは治まらない。
「それは無理というか無謀だから止めようって、最初に決まったでしょ」
気持はわかるけど、と由良が気を使ってくれて俺は肩を竦めるしかなかった。
由良の言う通りだ。
アイツを一撃で仕留めるほどの霊術。お銀さんであれば不可能ではない。しかし、その為には現在尻尾三本しかないお銀さんの封印を完全に解いてしまわなければならないし、それは現在出張中の親父にしかできない。
また、それほどの大出力の攻撃術だ。結界はもちろん工事現場ごと山が吹き飛ぶ威力を想定しなければならないし、そうなれば周辺の住民に被害が出るだろう。しかもそれでわずかにでもアイツが残ってしまえば目も当てられない。
現在、工事現場の中はアイツ以外に生きているといえる存在は無い。全部食われ、あのスライムの血肉になってしまったのだ。厳密に肉体といえるものを持たないあのスライムは、無限に増殖しかねない。そんなものをまかり間違っても結界外に出すわけにはいかないのだ。
回復される危険が無いからこその消耗戦な訳だ。
安全策を笑いたい奴は笑えばいい。俺に殴り飛ばされても良いならな。
感情的になって、「ぶっ殺す!」と叫ぶのは簡単だ。実際は心からそうしたい。
だが、実行するとなると話は違う。行為には伴うリスクがあれこれあって、それらをクリアしないとならない。
俺の感情一つで、これ以上みんなの命を危険に曝す訳にはいかないのだ。
「しかし由良……本当にお前も参加するのでよかったか? そりゃ勿論いてくれればすげぇ助かるけど」
厳密に言えば、この戦いは布留部の戦いだ。由良家が無関係とまではいわないけど、由良が無理して参加する必要性は低い。
「ここまでガッツリ関わってしまっているのに最後は外れるってのはナシでしょ。確かに布留部家の私闘って言えばそうだけど、由良だって剣傳さまが少なからず関わっているし、そもそも最初はシルバーカンパニィとして受けた仕事なんだし」
けど、と由良はお銀さんと雲璃さんを見た。
「バイトとして参加する以上、現場責任者と雇用主に言われれば引かざるを得ませんけど」
「いや、蛍には中に入って冷気担当で戦ってもらう。むしろ外れるのは雲璃のほうじゃな」
「はぁ……まさかここに来て戦力外通告とは……」
がっくりと雲璃さんが肩を落とした。
雲璃さんの能力は、とにかく今回のスライムとは相性が悪い。そのため結界外で待機する役目を仰せつかっているのだ。
『雲璃さんの分まで、モケちゃんが頑張りますから気を落とさないで下さい』
「う、うむ。頼んだぞ」
人体模型に励まされて雲璃さんは頷いた。若干顔が引き攣っていたのは見なかったことにしよう。
そう、モケ子はスライム攻略組なのである。
理由は、モケ子が吐き出す≪純粋熱量≫にあった。
「本当にすごいねぇ、コレ」
そう言ってカナ姉はギプスを外した右腕を眺めている。肌に傷一つないその腕が、つい一時間前まで骨折していたなどと誰が信じるだろうか。
カナ姉の骨折が治っているのは、例の≪純粋熱量≫のおかげだった。
作戦立案の過程でその有効活用法がないかと調べているうちに、≪純粋熱量≫の不思議な効果が判明したのである。
≪純粋熱量≫とは、その名の通りエネルギーの塊である。
それは様々な自然現象や霊的現象、あるいは生命活動に影響を及ぼす。
具体的には経口・経皮問わず摂取することで肉体的霊的な損耗を回復させることができる。つまり、≪純粋熱量≫を飲んだカナ姉は骨折が治ってしまったのだ。
……非常に遺憾ながら、俺も試してみた。昼間の戦闘で負った擦り傷に塗ってみたところ身体が熱くなったかと思えば、一瞬で傷が治っていた。どころか、余剰分が体内に取り込まれて欠乏寸前の霊気が若干回復したのである。
なるほど、畳にひっかければい草が生えてきた仕組みがわかった気がする。厳密にはあれはい草が生えたのではなくて、ほんの僅かに生き残っていたい草の細胞に吸収されて、急激な生命活動を促し、細胞分裂の末にい草として再生したのだ。
それから色々試してみたところ、≪純粋熱量≫は霊術妖術にも効果を及ぼすことが判明した。俺が腹に貼っているお銀さんの符に塗ってみたところ、霊力の回復速度が増加したのを実感したのだ。
「で、味はどうだったの?」
「思い出させるな……」
由良に問われてげんなりとして俺は返した。カナ姉も微妙な表情を浮かべている。
現在、俺の霊力は完全に回復していた。≪純粋熱量≫をコップに半分ほど、経口摂取した結果である。むしろ最大量が一割くらい増加した感じだ。
味も匂いも、全くしなかった。とろりとした液体を口にした、ただそれだけ。信じられないくらい喉越しはすっきりしていた。胃に届くころには全て体内に吸収されていたからだ。カナ姉に聞いたところ彼女も同様の感想だった。
だがしかし、である。
お銀さんは小瓶一つ分しか≪純粋熱量≫を確保できていなかった。コップで飲むほどの量は新たに採取するしかなく、つまりモケ子によるできたてほやほやの……
うん、止めよう。
いくら無味無臭で無害とは言え、詳細に思いだすのは精神衛生上宜しくない。非常に宜しくない。さっさと忘れよう。
「さて」
パン、とお銀さんが手を打った。全員の注目を集めて告げる。
「奴は潰すと方針は決まった。作戦も用意した。実行は明日からじゃ。これ以上遅くなって、明日に疲れを残すわけにはいかぬ。今日はこれで解散とするかの」
「そうですね」
『わかりましたー』
明日の集合時間やら装備の確認やら、細々した内容を軽く打ち合わせてからこの場はお開きとすることになった。
と、そこで俺は持って来た荷物を片づけている由良を見て思い出したことがあって、時計を確認した。
「ところで由良。お前普通に晩飯食べて、五時間くらいずっとここにいるけど……」
「うん、それが?」
「小早川くんだっけ? あいつ多分、お前のことずっと外で待ってるぞ」
「……!!」
やっべしまった忘れてた! とモロ顔に出た由良が、慌てて荷物を抱えた。
「じゃ、じゃあまた明日!! 社長方もお疲れ様です!!」
バタバタと慌てて帰って行く由良。しばらくして耳を澄ませば、遠くから「ごめんなさいぃぃ」という声が聞えてきた。
苦笑しつつ、雲璃さんがお銀さんに挨拶する。
「では銀孤社長、我々もこれで失礼いたします」
「お疲れさま―。剣ちゃんも、また明日ねぇ」
そう告げて、雲璃さんとカナ姉も帰って行った。
さて、明日から鬼退治か。まぁスライムなんだが。
俺たちも明日に備えて、今日は早く休まないとな。
さっさと風呂に入って寝るか。
†
風呂に入った後、麦茶でも飲もうとキッチンを覗いたら、リビングのソファに誰かがいた。半分落とした照明の下で電話で話し込んでいるのは、お銀さんだ。
俺に気づいた彼女は、視線だけで合図を寄越してきた。仕方ないのでグラスを二つ取り出して、彼女の分まで注いでやる。
琥珀色の液体で満たされたグラス二つ。
ソファの前のローテーブルに置いたところで、お銀さんは挨拶を告げて電話を切った。
「こんな夜更けに誰と電話してたんだか」
からかう様に問うと、銀髪の幼女は鼻で笑って返した。
「フン、四十年ばかり昔にオシメを取り換えてやったことのある若造よ」
「なんだ、親父かよ」
「お主の祖父剣瀬であったら、それはそれで驚きじゃな」
いやいや、爺ちゃんもう死んじゃってるよ。
「なんだそりゃ、その電話、あの世に繋がる的なヤツ? 昼間お銀さんがやらかした衝撃でそうなっちゃったの? ンな馬鹿な」
「はっはっは、そんなわけなかろ……」
ふとお銀さんは手にしていた受話器を見て、次いで俺を見て心配そうに問い掛けてきた。
「……な、ないよね?」
「さ、さぁ?」
我が家であれば、その手のオカルトジョークが実話になりかねない。まったく以て笑えない冗談だったことに俺も気がついた。もっと言えば家業が家業なので、その手の伝手だって存在する。その気になればあの世に繋がる電話、実現できそうだ。
「そう言えば剣瀬とオシメと言えば、あ奴が小学校に上がってすぐの時、授業中にのぅ」
「爺ちゃんの名誉のためにも止めてあげて!」
「なんじゃ、剣悟の方が聞きたいのか。仕方ないの」
「親父の名誉のためにも止めてあげて!」
仕方ないの、じゃねーよ。
布留部に生れて、お銀さんにオシメを替えてもらったことのない子など殆どいない。お銀さんが長期間家を離れていたことが何度かあるらしく、その時期に生まれた人が僅かな例外だ。だから当然、俺も含めて歴代当主はお銀さんに色々と弱点を握られているのである。
そう考えると本当にタチが悪いな、この銀髪小娘。
「なんじゃ、剣瀬や剣悟のネタでは不満か」
「そういう意味じゃなくてだな」
少し考えたお銀さんは、ピコンと何かを閃いたような顔で、
「ならば狼星の取って置きを教えてやろう。傑作じゃぞ!?」
「おい馬鹿やめろ。マジでやめろ」
何良い笑顔してんだお前。
つーか由良家のネタまで用意してるのかよ。そんなん知ったところで差し障りがあり過ぎる。使いようもない上に、使ったら恨みしか買わないネタなんて知らない方が何百倍もマシだ。折角この布留部と由良の関係が良好だと言うのに、今更対立を煽りたいとは思わない。
この幼女を放置しているとなんか知りたくも無い裏事情を知らされそうなので、話題を変えることにした。
「んで、親父は今回の件、なんて言っていた?」
お銀さんは肩を竦めた。
「それについてじゃが、剣斗に伝言がある」
「ほう?」
「『好きに殺れ』じゃと」
「物騒な伝言もあったもんだな」
丸投げかよ。
「勿論、バックアップが無いわけではないぞ。禁庫の中から一つだけ、使用許可の下りた呪具がある」
「……」
俺はその言葉に対し、答えを返せないでいた。
親父の、というか布留部家当主の許可が下りなければ仕えない呪具、ということは、お銀さんが管理している禁庫に保管しているものだろう。
布留部の禁庫。
歴代当主たちが、様々な経緯で手に入れた強力な呪具を封じている庫だ。
ただ強力なだけでは、封印などしない。
俺が毎朝振りまわしている霊刀だってそれなりの呪具と言える。でもあれは、庭の蔵の隅に転がっていたものだ。古いが良く切れて、持ち主によっては幽霊も斬れるってのは、布留部にとってその程度の価値なのである。
禁庫とは、一つひとつが恐ろしい程の霊力を秘め、使い方一つで街一つ滅ぼしかねない、場合によってはそのまま百年単位で不毛の荒野になりかねない呪いをまき散らす……そんな超危険指定物の保管庫である。
世の中には街どころか国一つ、大陸一つ滅んでおかしくないような神話級のアイテムも存在していて、お銀さんはかつてその一つを直にみたことがあるとか言っていたが……。
そんなトンデモレベルには届かないまでも、街一つ滅ぼしかねない呪具の扱いを任されたという事実に、俺はとっさに判断を下せずにいるのだ。
「そう構えることもあるまい。許可が下りたのは、禁庫のラインナップの中でも比較的扱い易いアイテムじゃからのう」
「……それは?」
お銀さんは、一つ頷いて手を空中に突っ込んだ。
引き抜いた時には、一本の刀が握られている。
脇差――というには少し長い、しかし小太刀と呼ぶには憚られる程反りの少ないそれは、白木の柄に同じく白木の鞘に収められていた。
だが。
「これは……!」
そこから発せられる、恐ろしい程の圧力。存在感。
しかし込められている霊力は、限りなく澄みきり。透き通っている。
俺はこの刀を見て、まるで水晶のようだと思った。完全な球形と完全な透明な水晶玉だ。
何もかも透き通し、どんな色でも映らせ、ちょっとつついただけでどこまでも転がってしまうそんな危うい存在である。
お銀さんは再び何もない空間にそれを突っ込んで片付けた。
「あれは……」
「お主も聞いたことがあるじゃろう。あれぞ四代目布留部家当主、布留部剣裡が最高傑作のひとつじゃ」
その言葉に、俺は息を飲む。
布留部家四代目は、刀の蒐集家だった。その趣味が高じて自ら刀を打つようになったというのは、つい先日仁衛門にも語った事実だ。その布留部家当主の中でも特に変わり種だった彼は、老境に差しかかった頃残りの命と霊力、そしてありったけの道具と技術を以て三振りの刀を遺して世を去った。
銘は、無い。
それどころか、その三振りは、刀の形をしていたが――刀ではなかった。
刀の形をした、霊力の塊。
そう言い現わすのが最も適当なそれは、霊力を込めて最初に振るう時に、その機能を決定されるという。
ある時魑魅魍魎の大群がこの南石の地を襲った時、当時の布留部家当主はこの刀の一振りに≪斬鬼丸≫の銘を与え、一晩で千を超える妖怪たちを斬り捨てたという。その切れ味はどんな妖怪すら一刀両断、しかし悪鬼妖怪以外が斬られても掠り傷すら負うことは無い。
ある時大地震で多くの領民たちが家を失い飢えに苦しんでいた時、当時の布留部家当主はこの刀の一振りに≪十漸≫の銘を与え、飢えを凌がせたという。信じられないことに、≪十漸≫に斬られた人間は怪我が治り病が癒え、十日十晩の間飲まず食わずでも腹が満たされたままだったという。
どちらもたった一日で折れてしまったそれは、刀の形をした可能性だった。
故に、最後の一本は銘を与えられることなく、そして振るわれる事も無く、現代までお銀さんの手によって厳重に保管されていた。
もしかしたら――あれがあれば、あのスライムなどたった一振りで……
「剣斗。考えが顔に出てるぞお主」
「はっ」
慌てて俺は頭を振って湧いたばかりの考えを追い出した。
いかんいかん、やっぱり姉さんのことで、冷静さを欠いているのかも知れん。
「お主の気持ちも、わかるぞ。儂だって珠貴のことに怒りを覚えておらぬではない。じゃがそのような気持であの刀を振るってみろ。一瞬で制御を失い、触れるもの皆傷付けるなんて生易しいレベルを飛び越えて、それこそ山ごと吹き飛ばしかねない威力を絞り出すやもしれぬ」
俺は神妙な面持ちで頷いた。
もしそんなことになってみれば、俺だってお銀さんたちだって巻き込まれるのだ。
「分かってる。あれはあくまで、最後の切り札……いや、念の為の保険だよな」
「むしろ悪役が最後に秘密基地を自爆させるような類かも知れん」
「……ダメじゃねぇか」
と呆れながらも、俺は親父の意図を――多分正確に理解していた。
きっとあの銘の無い刀は、親父が俺を測る為の試験だ。
布留部家次期当主として、事態をどう収めるのか。文字通り最後の切り札を使うのか、使わないのか。使うならどう活かすのか。
そもそも、ちゃんと扱えるのか。
どんな使い方をしようと、親父はきっと何も言わない。使っても使わなくても、禁具を使い損ねて無駄にしようと何も言わないだろう。
だって正解なんて無い問題だからな。
使わない、も正解だ。
もったいないから使わない、も間違いじゃない。
心して俺は……
パシン!
と音がして、俺はビクリと驚いた。
お銀さんが眼前で手を叩いたのだ。
「な、何だよ?」
「まぁた顔に出ておったぞ。なにをそんな深刻に考えておる」
「そりゃ、深刻にもなるだろ。なにせ禁庫のアイテムを貸し出されて……」
そこでお銀さんは、わざとらしさ全開で溜息をついてみせた。
「アホか、お主」
「なっ、アホって……!」
「アホじゃなきゃなんだというに。お主がしなきゃならないのは、あの刀を活かすことじゃないじゃろう。どんな強力な呪具も、所詮は道具じゃ。道具は目的を達成するため手段に過ぎぬ」
そして彼女は囁く。
「もっとシンプルに、単純に考えれば良い。先ほど皆の前で、お主が宣言した通りではないか」
「そうだけどさ」
そう言われて、スッと消化できれば苦労はしない。
実のところ短い間に色んなことが同時に起こっていて、感情と理性の処理が間に合っていなかった。姉さんのこと、モケ子のこと。過去の出来事やたった今預けられた刀のことまでぐちゃぐちゃになって、腹の中に沈んでいる。
なんだか消化不良な気分だ。
重たい塊を飲みこんで、しかも腹の底に溜まっている感覚がある。
しかしグダグダ言っていても始まらない。
そういえばさぁ、と無理矢理に俺は話題を変えた。そんな俺を、お銀さんの目に少し不満の色が浮かんだが口に出すことは無く、別の話題に乗ってくれた。
それから、俺たちは日付が変わるまで、話をしていた。
明日が控えているんだからとっとと寝ればいいのに、と自分でも思わないでもない。
だが、なんとなくそうするべきだと思ったのだ。
多分――終わってから初めてだと気がついたが、この時初めて俺は、お銀さんとの距離を確認した。何時もそこに居るのが当たり前の存在だったから、彼女との距離感を測り直すなんて生まれて初めてのことだった。
それは、昼間、意識を失っている間に俺は自分の中で剣林と出会ったという話をお銀さんにしたのが始まりだった。
「昼の事件のことがなくても、恐らくそろそろじゃないかとは思っておったよ」
代々の事ではあるが、丁度俺と同じくらいの歳の頃に何かが切っ掛けとなって、内側に眠る存在に気がつくのだと言う。何人を目覚めさせることができるかは、その人次第だというが……。
尻尾振って喜ぶか、と思っていた剣林の話題は、意外なことに長くは続かなかった。俺がまだ剣林との接触が浅い段階であることも理由だし、なによりお銀さんが、寂しそうに笑っていたからでもあった。
その笑みの意味を気がつかない振りをして、適当な話題に逸れて、剣林の事はそれっきりだった。きっと必要であればお銀さん自身から話題にするだろう。
そうして、夜は更けて行く。
最後の最後、お休みと告げてリビングを出る時少しだけ振り返ると、お銀さんは窓の向こうを見上げていた。角度的に月は見えないが、その明りが雲を照らしている。
見えない月を見ている。
それでお銀さんが、剣林の話題を避けたがった理由が分かった。
その寂しい笑みの横顔も、腹の中に呑み込んで……溜めこんで、俺は眠りに着く。
明日は鬼退治。
夢は、何も見なかった。
大変お待たせいたしました。
今回で第4章は終了となります。
次回から物語もようやく佳境へと入りますので、期待していただけると幸いです。
次回のモケ子さんは……
与那国島を傘下に収めたモケ子たち一行。
人気獲得のためにモケ子が思いついた次なるいってとは、
まさかの神頼み!?
モケ子「神頼みと言えば……四国八十八か所巡りですね!」
一同「!?」
仏様「!?」
神頼みと公言しつつ寺巡りという暴挙に出たモケ子に、
ついに神罰が下される!?
次回嘘予告 35. 発見89番目の霊場!




