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ベネ・メレンティに祝福を  作者: 美浜忠吉
初めての村の外
8/21

宮廷兵士の実力

「おいっ、大丈夫かフィーネ……!」


 あれからどれくらい経ったのか分からないけれど、毒が無くなってすっかりと元気を取り戻したプロクスが、眠りに付いているフィーネの体を揺さぶる。


「スー……スー……」


 だけど疲れ切ったフィーネはなかなか目を覚ますことなく、小刻みにスースーと寝息を立てていた。


「なんだ、疲れて眠っているだけか……びっくりした……仕方ないから外まで運ぶか……」


 プロクスは面倒くさそうにフィーネを背負う。


「おっ、意外と軽いな……つうか今気付いたけど、なんで俺首に変なの巻いてるんだろ?」


 洞窟内の灯りが少なくなってることで、今プロクスが首に巻いているパレオが、フィーネの物だとは気付いていなかった。


「まあいいや、気味悪いから捨てちゃえ」


 しかも何を血迷ったのか、プロクスは首からパレオを引き千切って洞窟の中へと捨ててしまったのだ。


「さて、早いところ洞窟を抜けださないとな……もうすぐ夜になりそうだし」


 プロクスは彼女を起こさないよう、できるだけ丁寧に運ぶように歩き出した。



「スー……スー……」


 その道中、彼女の寝息を聞いていたプロクスは、落ち着いた気持ちを取り戻す。


「あはは……こうやって眠っている時はすごく可愛いんだけどなあ……」


 プロクスはいつもフィーネから罵倒を浴びせられることが少なからずトラウマになっていたからこそ、こうしてスヤスヤと大人しく眠る彼女の寝息を聞いて、ホッと一息吐いていた。


「さて……やっと星の光が見えてきたみたいだ」


 夜になると蛍火はほとんど消えてほんの少ししか足元を確認できないが、そのぶんだけ星の光は眩しく感じる程に、洞窟の出口付近を明るく照らしてくれていた。



 何事もなく洞窟の外を出たプロクスは、背負っていたフィーネを芝生の上に優しく寝かせると、荷車に積んでいた腰掛袋から一枚の大きな布切れを取り出し、彼女の体の上にポサリと敷いた。


「はあ……これだけやればフィーネの奴も病気にならなくて済むだろうな」


 そしてプロクスはフィーネの横に座り込み、今日体験した出来事を振り返る。


 ルシオラ洞窟内で見た、蛍火輝く幻想的な光景。


 かと思いきや数多(あまた)のアラギ・バトラコスに襲われたこと。


 しかも、その化けガエルの毒を浴びて死にそうになって気絶したこと。


 それから目を覚ませば、彼の隣でスヤスヤ寝ているフィーネが薬の瓶を握り締めて彼の胸の中で疲れ切って寝ていたこと。


「そっか……俺はこいつに助けられたんだったな」


 フィーネは自分に触るな近付くなと散々言っていたが、それでもプロクスは彼女の頭に手の平をぽすりと置いて、まるで赤子を愛でるように撫で始めた。


「ありがとなフィーネ……。よく覚えてないけどお前のおかげで助かったんだよな、俺は」

「うーん……むにゃむにゃ……」


 ベタに口をむにゃむにゃさせるフィーネを目の当たりにして、プロクスはくすりと笑ってしまう。


「はは……さて、俺は不寝番でもするかね」


 それからプロクスは立ち上がり、荷車にこっそりと積んでいた枯れ枝を芝生の生えていない地面にくべて、火打石をカチカチと鳴らして炎を起こした。


 その炎は瞬く間に枯れ枝全体に拡がり、焚き火が出来上がる。


「ふう、疲れた……だけど暖かいし魔物や飢えてる獣もこれで近付かないだろう」


 焚き火を作ったプロクスは、ゆったりと星空を見上げ村のことを考えていた。


「はあ……まだ一日も経ってないのに村が恋しくなってきた……」


 更に今日一日の出来事を振り返ると、それはもう思い出したくもない悪夢のような光景がプロクスの頭の中に過ってくる。


「……やっぱ魔物は異常なまでに強いんだよな。ただの人間の俺なんかじゃ到底敵わなかったし……」


 とくに昼に交戦した泥水晶――ゲンマ・リームスはプロクスの想像していた以上に厄介な魔物だと彼は思い直していた。


「俺も……フィーネの様にもっと強くならないと駄目だな」


 その時、洞窟内からズウーン……ズウーン……と、そんな地鳴りのような音がプロクスの耳に届いた事で彼は警戒心を強める。


「な……なんだよこの……地鳴りは……?」


 徐々に大きくなってくるその音は、ルシオラ洞窟の奥底から響いていた。


「ま、マジかよ……まさか、まだ魔物がいるのかよ……!」


 とにかくプロクスは、背中に手を伸ばして勇者の剣を取ろうとしたのだが、

「う、嘘だろおい! まさか洞窟の中に……忘れちまったあ!!!」

 と、本気で困り果てて叫んでしまう。


 とにかくこのままでは魔物に食い殺されてしまうと思ったプロクスは、勇者の剣が置いてあるルシオラ洞窟から離れるため、急いで眠っているフィーネを大きな布に包まったまま担ぎ、少し乱暴だけども荷車に乗せた。


 その間にもプロクスのいるところまで地面が揺れるぐらいに何かが近付いてきたものだから、彼は急いで荷車を全力で引いてその場から逃げだした。



「うおおおおおお!!!!」

「ん……ふわああ……! よく寝たあ……」


 荷車をがらがらと引く激しい振動と、プロクスの叫び声によって目を覚ましたフィーネは寝ぼけながらも、必死に荷車を引いて走るプロクスの頭をちょんちょんと指で突く。


「ねえあんたあ……体のほうは大丈夫なのお……?」

「バカやろー! い、今はそれどころじゃないんだってえ!!!」

「ああーん……? バカって言うほうがバカなんだぞお……」


 フィーネは全く緊張感無く、いつもの様にぶっきらぼうな返答をするが、寝ぼけていたせいでどことなく抜けており、逆に可愛く思える程であった。


「いやマジでお前が言うな! つうか、ほんと……後ろがやばいんだよ!!!」

「ああーん? 後ろおー……?」


 ズシーン、スジーンと馬鹿でかい地響きを起こしながら、星空の光に照らされる三メートルを超える大きさはある一匹のアラギ・バトラコスが、フィーネと様々な道具を乗せた荷車を死ぬ気で引いていたプロクスの後ろを執拗に追い掛けてきていた。


 その様子を確認したフィーネの顔からサーっと血の気が引いて、完全に目を覚ましてしまう。


「ちょ、ちょっと! あれはいったいなんなのよ!」


 ――あんなクソでかいアラギ・バトラコスなんて初めて見たわよ!

 フィーネはそう思うと居ても立ってもいられなくなり、魔物に関して何も知らない筈のプロクスに叫びながら聞いてしまう。


「だ、だから俺にも分からないんだってー!!!」

「と、とにかくあたしも戦闘準備するから、あんたは必死に荷車を引きなさーい!!!」

「さっきからずっとやってるだろ!!!」


 とにかくフィーネは急いで太ももに納めていたダガーを取ろうとしたが、パレオを履いていないおかげでパンティ一丁になっている事に気付き、即座にプロクスの首元を確認する。


「ちょ、ちょっとあんた……あたしのお気に入りのリーベルタース柄パレオは!?」

「な、なんだよそれ!」

「あんたが首に巻いてたやつよ!!」

「はあ? あのよく分からない奴なら、なんか気味悪かったから洞窟の中に捨ててしまったけどー!?」


 その言葉を聞いたフィーネの顔から血の気が更に引いたがすぐに上昇し、悔しさのあまりに今にも泣きそうな顔で怒鳴り散らす。


「な、なんて事をしてくれたのよ、このクソバカー!!!」

「なっ、なんだよいきなり!!!」

「いいから洞窟に戻りなさい! あれお気に入りなんだからー!!!」

「バカヤロー! 今戻ったら化けガエルに餌にされるだろうがあ!!!」

「そんなもの……知った事かあ!!!」

「あっ、バカお前……っ!」


 怒りに身を任せたフィーネは荷車から跳んで、巨大アラギ・バトラコスの更に上空で素早く詠唱をし始める。


「“subito wis ventus Ars magna”あああおらあああ!!!」


 その瞬間、巨大アラギ・バトラコスがフィーネの超高速連斬りによってバラバラに斬り裂かれ、その中から飲み込まれて死んだギルドマスターの死骸と裸同然で縛られた二人の兵士、それと勇者の剣、おまけにフィーネお気に入りのパレオまでが綺麗な星空と月明かりに照らされながら、全て出てきた。


「あっ、俺の大事な剣!!!」

「あっ、あたしの大事なパレオ……いやああああ!!!」


 それから妖術の効果を解いたフィーネは両方のダガーを鞘に戻しながらパレオに即座に近付いたが、洞窟内に夥しく散らされたアラギ・バトラコスの大量の緑血で汚れきった彼女のパレオは、もはやボロボロに薄汚れた只の布きれに成り下がっていた。


「ほっ……良かった。俺の剣は全然無事だったみたいだなあ……」

「う……うううう……うわああああん!!!」


 勇者の剣がどこも汚れていない事で嬉しがるプロクスとは正反対に、フィーネは悲しみのあまりに大号泣してしまう。

 そこまで泣き喚くフィーネを目の当たりにして、プロクスはなんとか彼女を宥める事にする。


「ま、まあまあ落ち着けってフィーネっ!」


 その言葉が気に触ったのか、フィーネは拳をグッと握り締めて彼の腹に本気で叩き込んだ。


「うげっ!?」

「うるさーい! 元はと言えばあんたがあんなクソ雑魚ガエルに苦戦するからいけないのよ!!!」

「お……おぐぅ……だ、誰かこの暴れ馬を止めてくれ……」


 プロクスは腹をパンチされた激痛に、思わずその場に顔面からへたり込んでしまう。

 しかしフィーネは追い打ちを掛けるように、彼の後頭部を容赦なくドカッと踏み付けた。


「ふんっ、誰が暴れ馬よ! ったく、あんたなんかの心配するんじゃなかったわ!」

「お、お前なあ……」


 だがフィーネは、すぐにプロクスの後頭部から足を退かしてくれた。


「と、とにかくっ! あんたはあたしをリーベルタースまで運ぶこと!」


 だが言ってくることは横暴そのもの。


「ま、待ってくれよ! 俺だって流石にリーベルタースまで行くなんて……うごっ!」


 必死になって抗議しながら頭を上げたプロクスは、フィーネに思い切り顎を蹴られて後ろに頭から倒れてしまう。


「見上げるなド変態!」

「ひ……酷すぎるう……」

「残念だけど、あんたにパレオを買って貰うまでは逃がさないからね!」

「うう……誰か助けてえ……」


 プロクスが後ろに倒れている間に、フィーネは長い布きれを下半身に巻いて簡易的なロングスカートを作って履き、くるくると右に一回転した。


 ロングスカートが華麗に舞うと、彼女の機嫌は少しだけ良くなる。


「はあ……それでもやっぱりダサいけど、下着だけよりは全然マシね……」


 それでも彼女は、やたらと不満そうに大きな溜息を吐いていた。


「痛てて……本当に災難だ……」


 なんとか座り込む体勢まで戻る事のできたプロクスは、ロングスカートと化した長い布きれを見て愕然としてしまう。


「あっ……そ、それ俺の防寒用の布じゃないか!!!」

「あらそう、でも仕方ないじゃない。あんたにパレオ汚されちゃったんだし」

「変な言い方するな!」


 それからフィーネは再び、小悪魔の様な表情で微笑みながらくるりと横右に一回転してロングスカートをなびかせる。


 そのなんとも言えない艶やかな姿にプロクスは、ぼーっとしながら見惚れてしまう。


「ふふっ、どうよあたしのロングスカート姿は!」


 フィーネに話し掛けられて我に返ったプロクスは、つい夢中で見惚れてしまったことを隠し通してしまう。


「べ、別に……普通じゃないか?」


 だがその時プロクスが目を逸らしてしまったものだから、すぐに彼が嘘を付いていることをフィーネは見抜く。


「ふーん……そうなんだあ……あたしに見惚れてたかあ……」

「だ、だから違うって……!?」


 必死に否定しようとするプロクスの口元を人差し指で抑えたフィーネは、悲しそうな表情で首を左右に振った。


「ごめん。やっぱりあたし一人でリーベルタースに帰るわ」

「な、なんだよいきなり……」

「なんでもないの! ほらっ、あんたはアブソルトジャスティアでも故郷でもいいから好きなところに帰りなさいよ!」

「嫌だ……俺はお前に付いていく」


 どうもフィーネの様子がおかしいと感じたプロクスは、彼女が本当の理由を語るまで別れるのを拒否する。


「な、なんでよ! あんただって、暴力的でぶっきらぼうなあたしと別れた方がスッキリするでしょ!?」

「それでも……俺はフィーネの側を離れない!」

「……くっ! だったらあたしがあんたから離れるわ!」

「それでも俺はお前に付いていくさ! 理由を話してくれるまでな!?」


 強く引き留められたフィーネは思わずたじろぎ、彼と別れる決心を揺るがされてしまう。


「り、理由なんて……ないから……」

「嘘だね、フィーネのその挙動を見れば大体分かるよ」

「……そう、そこまであたしに嫌な事を語らせたいのね……あんたは」

「本当に悪いけど……今のフィーネを放って軍事学校で勉強するなんて俺には不可能だから」


 プロクスから軍事学校に入る話を聞いたフィーネは、かなり驚愕した。


「あ、あんた軍事学校に入るつもりだったの!?」

「ああ、それがどうした」


 プロクスの話を無視して、フィーネは次々に彼に質問をぶつける。


「それで、あんたは三つの機関のうちどれに入るわけ!?」

「はっ? ええと……宮廷兵団だけど?」

「うふふ……あははははっ……!」


 突然笑い出すフィーネに対してプロクスは不快に思う。


「な、何がおかしいんだよ?」

「いやあ、だってあんたみたいな弱っちいのが兵団に入るのよ? 大丈夫なのあんたぁー?」

「お、俺は大丈夫だ!」

「あんな下級の魔物にえらく苦戦してたのにー?」

「それは……でも俺は一度やると決めたことは絶対に諦めないし!」


 それだけ聞いてフィーネはリーベルタースの方角へと振り返る。


「お、おい! だから俺はあんたとは離れないって……」

「プロクス・ゲント!」


 突然フルネームを強く呼ばれたプロクスは、ぴしりと背筋を整えてしまう。


「な、なんだよ?」

「……命令する! 次にお前が立派な宮廷兵団の一人として私の目の前に現れてくれたのなら……私の過去を全て教えてやる!」


 突然命令口調になったフィーネの声を聞いて、プロクスは察した。


「まさかお前……」

「私、フィーネ・オーティスは宮廷兵団に属するアグナスディ遊撃団魔物討伐隊第三小隊副小隊長だ!」

「は、はいっ!」


 フィーネからひしひしと伝わるあまりの威厳に、ついついプロクスは緊張しながら返事してしまう。


「……ふふ、よく心に刻んでおきなさいよ。未来の後輩さん?」


 それだけ言い残すと、フィーネは音も無く姿を消してしまった。

 そこでプロクスは四つん這いになり、汗をだくだくと流してしまう。


「う、嘘だろ……」


 ――確かにあれだけ強ければ何かしらやってたんだろうとは思うけど、まさかあんな普通の少女同然の姿じゃさ、お前が宮廷兵士なんて……考えるわけもないじゃん。

 一人暗い夜道に残されたプロクスはそう思うと居ても立ってもいられなくなり、荷車をそこに放置してでも急いでアブソルトジャスティアへと走り出した。


 それはもう、宮廷兵士に対する絶対なる憧れを胸いっぱいに詰め込みながら。



 次の日の早朝、あの裸同然二級兵士二人とギルドマスターの死骸は、北西の僻地を調査する宮廷兵団の一部隊――僻地調査連隊第八僻地調査隊が、文字通り僻地調査をしていた時に発見された。


 ギルドマスターの死骸は兵士達の手によって大きな麻袋に入れられて回収され、その亡骸が大事に抱えていた黒い謎の書物は、別の兵士達が慎重に取り扱っていた。


「隊長! 暗黒の書、回収いたしました」

「よし、お前は他の兵士十人を連れて王国へ帰隊しろ」

「了解しました!」


 長身の隊長に命令されて、暗黒の書と呼ばれる書物を十一人の兵士達はかなり慎重に守りながら王国へと戻り出した。


 それから、裸同然の兵士二人にはその場で隊長の審問が始まる。


「お前達……確か僻調七隊のやつらだったな」

「お、覚えていてくれてましたか!?」

「お、おれ……私ら、あの遊撃団のフィーネ・オーティスにやられたんです!」


 その話を聞いて、隊長は眉をひそめる。


「ほおう……そうだったか。だがその前に、お前らの背中に貼ってあった“紙切れ”を見たのだが……」

「はい……?」

「はえ?」

「ふむ、“丁寧な文字”でこう書いてある。“この者らはギルドアニマ・ケルサスの片棒を担ぐ者なり、以って神の元にて二人を断罪されたし”ってね」

「そ、そんな……」

「しかも直筆で“フィーネ・オーティス”と書いてある……と言うわけだ。そういう事だから、お前達二人を連行させてもらうよ」

「そんなバカ女の書いたもんなんか証拠になんねえよ!」


 バカ女と叫ぶ痩せた兵士を無視して、隊長は左腰に掛けていたサーベルの柄を握った。


「ところでお前達、この私から言わせてもらえればだな。あの子を悪く言う不貞な輩はどんな者であれ……死罪だ」


 そう言って、捉える事のできない速度でサーベルを抜くと、二人の首と体の間をその刃が通過する。


「ひっ、な、なんだあ?」

「い、いきなり何しやがるこの……」

「ん? なに、サーベルの切れ味を試してみただけだよ」


 不吉な笑みを浮かべる隊長がサーベルを鞘に納めた瞬間、二人の首は右側にズルリとずれ、そこに真っ赤な液体を大量に噴き上げる噴水を造りあげる。


 二人の姿を目に留める事無く振り返った彼は、目元まで伸びた金色の前髪をさっと掻き上げてから一息吐いていた。


「さて……そこのゴミはその辺にでも捨てておけ。魔物か獣が勝手に食い尽くすだろ」

「分かりました、隊長!」


 隊長の部下達は怯むことなく、ただ従順に彼の命令に従っていた。


「ああフィーネよ……どうして君は私に振り向いてくれないのだ……」


 赤い軽装鎧を着用した長身の第八僻地調査隊長――インソリティア・クルススの瞳は、真っ赤に怪しく光っている様に見えた。



 インソリティアが道端に投げ捨てたフィーネの残した紙切れには、汚い殴り書きの文字でこう書いてあった。


 ――こいつら人攫いギルドの片棒担いだ屑よ! 適当に神様の元に持ってって裁いといて!

 そして紙切れの最後には“魔物討伐専門フィーネの命令よ!”と名前だけは確かに記載されていた。

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