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ベネ・メレンティに祝福を  作者: 美浜忠吉
初めての村の外
6/21

ルシオラ洞窟の恐怖

 洞窟内は緑色の蛍火でうすぼんやりと照らされ、鍾乳石からポタリと落ちる水滴が、地面に溜まった水溜まりで優しい音を奏で、聞いた者を癒しの空間へと誘い込む。

 たまにどこからか蛙の鳴き声も聞こえると、それも洞窟内の背景音として心地良い。


 そんなルシオラ洞窟の中へフィーネと一緒に入ったプロクスは、辺りを淡く照らす蛍火を目の当たりにして、一人興奮冷めやらなかった。


「うわあ……本当に神秘的だなあ……」

「そうね、でも静かにして」


 だが、プロクスと一緒に入ったフィーネはと言うと、そんな神秘的な光景だろうと興奮する事なく、ただ冷静に周囲の警戒を続けていた。


「あ、ごめんフィーネ……」

「あんたもちゃんと警戒しなさいよね、いきなり襲われたら流石のあたしでも護れないんだから」

「そこは安心しなよ、逆に俺がお前を護るからさ」

「……精々頑張りなさい」


 洞窟の中は真っ暗闇かと思いきや、中は蛍火で明るく足元も存分なく見える程であった。時には蛙が共鳴する声も聞こえるし、洞窟蝙蝠も上空で逆さまにぶら下がり、ゆったりとしている様にも見えた。


 そんな幻想的な光景広がる洞窟の中を見惚れながらも、プロクスは周囲警戒を怠る事無く、少し距離を置いたフィーネの後ろに付いて、奥へ奥へと進んでいく。


「それにしてもこの洞窟、割と広いな」


 かれこれ三十分程度フィーネと共に歩いたプロクスは、なかなか見える事の無いアジトに対して不安を(よぎ)らせる。


「仕方ないわ、まさかこんな危ない洞窟の奥底にアジトを作るなんて思いもしないもの」


 フィーネは蛙の鳴き声を聞く度に警戒心を強めていた。


「おまけにだんだん、洞窟内も暗くなってきてる気がするし……」

「あら怖いの?」

「べ、別に怖くなんてないけどさ」


 嫌味ったらしく言葉を掛けるフィーネに、プロクスは意地でも弱気を見せないようにしていた。


「ふふっ、やっとあんたの可愛らしいところを見た気がするわ」

「うるさいな……っ」

「まあ、そろそろ奥底に付きそうだから魔物に注意しなさいね。

さっきの蛙の声……聞こえてたでしょ?」


 さっきまでゲコゲコ聞こえていた蛙の声をプロクスは思いだした。


「えっ……さっきからの蛙の声って、魔物なの……?」

「そうよ、だからバカみたいにアホ面してないでしっかりと警戒を……なさいっ!」


 すると突然、フィーネの後頭部目掛けて三十センチメートルもの大きな化けガエルが飛び掛かってくる。


 だが彼女はその気配を察知していたかの様に素早く両手にダガーを装備し、四分割に斬り倒した。


「な……あんな弱いのでも魔物なのかよ!」


 プロクスも急いで勇者の剣を両手に持ち、どこから蛙がやってくるのかをジッと


「油断しないで! すぐに(おびただ)しい数のアラギ・バトラコスがやって来るから!」

「な、なんかすごい鳴き声がうるさくなってきてるな本当に……!」

「ゲコゲコゲコゲコー!」


 そんなカエルの可愛いらしい鳴き声が大きくなってくるに連れて、プロクスは肝を冷やしてしまう。


「……そっちの水たまりからも来るわ!」

「分かってるよ!」


 フィーネの言うとおり、水たまりから三匹もの化けガエルがプロクスの胴体目掛けて飛び掛かってくる。

 だがプロクスも正確に勇者の剣を薙ぎ、三匹の化けガエルを同時に斬り倒した。


「ふう……気持ち悪いなこいつら」

「あと、あいつらの血を口に入れちゃダメよ! 微毒だけど蓄積したら命に関わるわ!」

「わ、分かった!」


 それからは信じられない数の化けガエルの大群が二人の体に容赦なく飛び掛かってくる。

 一度に五匹は当たり前だし、酷い時は体全体を狙って二十匹もの大群が一斉に飛びかかってくるのだ。


「はあっ! てやあっ! とおっ!」


 それでもフィーネは目にも留まらぬ速さで連斬りを繰り出し、フィーネ側から剣がプロクスに飛び掛かろうとする蛙もろとも全て斬り裂いていた。


 辺りの岩には蛙から飛び散る緑血に覆われ、あまりの泥臭さにプロクスはむせ返ってしまう。


「うえ……げほっ、げほっ! く、臭いな……」

「男なら我慢なさい!」


 まだまだ飛び掛かってくる化けガエルを、フィーネは息一つ切らすことなく斬り倒し続ける。

 その余裕なフィーネとは違って、プロクスはすっかりと息を切らしてしまう。


「はあ……はあ……今日は戦ってばかりできっつい……」


 そんな時、一匹の化けガエルがプロクスの顔目掛けて飛び掛かってくる。


「や、やば……剣を振らないと……」


 だが勇者の剣を振り過ぎて疲れたプロクスは、剣を振るう事が出来ずに飛び掛かってくる化けガエルを見ている事しかできなかった。


「バカ! 素手でもいいから蛙を払いなさい!!」

「む、無理だ……疲れて力が……」

「くっ……!」


 フィーネは急いでプロクスの元に移動し、その化けガエルを斜め方向真っ二つにする様に斬り倒した。


「うげ……!」


 その時、化けガエルから飛び出た血がプロクスの口内へ大量に入ってしまう。


「いけない!」

「ぺっぺ……く、くそ不味い……!」


 それから化けガエル達は敵わない相手が現れたとでもいうかの様に、洞窟の奥深くへと一目散に逃げかえってしまった。


「あれ……なんか体がやたら震えてきたし……すごく怠い……」

「症状が……出始めたのね……」

「さ、寒い……」


 流石のぶっきらぼうなフィーネでも、毒にやられて震えるプロクスを前にして涙目になる。


「俺……死ぬのかな……?」

「ダメよ……弱気になっちゃ!」


 フィーネは震えるプロクスの体を、彼女なりのとある事情を無視してでも側によって抱きおこす。


「すごく……暖かい……。なあ……頼みがあるんだけど……いいか?」

「……プロクス、あんたが無事にここを出る事が出来たら……聞いて……あげるわ!」

「ごめん……俺もうダメかも……しれないからさ……聞いてくれよ……」


 それでもフィーネは諦めずに、プロクスを必死に元気付ける。


「いいから……あたし……何がなんでもあんたを……無事な姿で帰すから……!」

「……フィーネ……お前……泣いて……」


 そのままプロクスは力尽きて気絶してしまう。


「……今はゆっくり休んでなさい……バカ」


 ――このままだとプロクスの体は持っても一時間……戻ってる暇は無い! それならギルドまで行って薬を強奪するまでよ!

 そう思ったフィーネは泣くのを止め、プロクスを背負ってからギルド“アニマ・ケルサス”目指して歩き出した。

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