第四話 船魂との出会い
9月10日 深夜
大型帆船飛鳥 船尾操舵甲板
大型帆船飛鳥は全檣楼のコーススル、ロワー・トップスル、アッパー・トップスルを広げ風を受け速度12ノットで八丈島を目指していた、すでに3直交代制の飛鳥では夜直と呼ばれる、船員が飛鳥の運営を行っていた。
現在飛鳥では、帆走で航行しているため、船尾の舵輪を使用し針路を設定している、だがこの舵輪は船橋甲板操舵室の舵輪とは違い油圧式のパワーステアリングを装備していないため、非常に重く1回転で動く舵角は僅か1度!さらに荒天時は舵が重くなるため大人数でまわすことができるよう、舵輪は前後2重になっている、なお船尾の舵輪は帆走用だ、これは帆走中は帆の状態を確認しながら操舵しなければいけないからだった。
現在飛鳥の運営の指揮を執っているのは、航海長の瑚太郎であった
「うぁ~、眠い」
「航海長、確り仕事をしてください」
一人の士官が大欠伸をする瑚太郎に注意をする
「ここまで何もないと、暇で・・・」
「何言っているんだ、平和こそが一番だ」
瑚太郎の言葉を遮ったのは・・・
「せ!船長!お休みになられたのでは?!」
「仮眠は三時間で十分だ、まぁ眠たいのも分かる、航海長指揮を代ろう、一時間ほど仮眠をとってこい」
「へ!で、でも」
「行って来い、俺の気が変わらないうちに」
「ハッ!ありがとうございます」
瑚太郎は船室へ向かう階段を下りていく
「航海日誌に記入しておけよ」
祐司は航海日誌を記入する係りの船員に指示を出す
「了解です」
祐司は船橋甲板に向かい海図室に入る
海図室には当直の士官が一人と船員が2人現在の位置を記録していた
この世界は科学技術の後退によりGPSは存在しないため、ロラン及びオメガ電子航法機器及び六分儀を使用し現在の位置を図る。
「現在位置が・・・ここら辺か、順調な航海と言ったところか」
祐司は次に、通信室に向かう
通信室では現在当直についている黒沢律が当直に当たっていたが・・・
律は居眠りをしていた・・・
「まったく・・・おい、起きろ通信長!」
「は・・・ッ!船長!」
「・・・通信状況は」
「はい、現在の通信状況は極めて良好ですの」
「おう、気をつけろよ、また来るからな」
「え!?」
「無線は本船の要なんだから」
「了解ですの」
祐司は通信室を出て、メインマストを上り始める、そしてトップ台から海を見る、飛鳥のメインマストのトップ台は大型双眼鏡2基とジャイロコンパス1基が取り付けられている
「今宵の海は極めて穏やか・・・航海一日目にして極めて順調」
祐司はトップ台から船の様子を見下ろす
「まだ、だなやはり北回り航路で正解だったようだ、まだ士官を含めて未熟者ばかり・・・江坂さんは別だが・・・俺もあの人から見れば未熟者に入るんだろうがね」
祐司は懐から水筒を取り出す、中身はブラックコーヒーであった
「熱ッ!」
祐司は猫舌であった、このコーヒーは祐司が甲板に出る前に厨房によってコーヒーを作っていた・・・
「ック・・・眠い」
祐司は欠伸をかみ殺す
「やせ我慢をして、無理しなければいいのに」
「船員の前で欠伸をするわけにも・・・」
祐司は固まるここはメインマストのトップ台だしかも今は深夜2時、甲板船員は船橋甲板と船尾操舵甲板に数名いるだけであった・・・
「もしかして、私の声が聞こえているの?」
「誰だ?!」
祐司は勢いよく振り向く、するとそこには・・・
純白のワンピースを着た少女が宙に浮いていた
「ゆ、幽霊!?」
「幽霊なんて失礼ね」
「だが、普通の人間は宙に浮かない」
「ふふッ!これでならどうかしら」
謎の少女は、祐司の目の前に降り、祐司の手を握る
「暖かいでしょ」
「確かにな・・・では、お前は何者だ」
「別にそんなに固くならなくてもいいんじゃないのかしら、西九条祐司船長」
「さらに怪しいな、俺は船長であるが故に前乗員の顔と名前を憶えているが、お前は見たことがない」
「あら、私も全員覚えているわよ、だって私はこの飛鳥の船魂だもの」
「船魂だと・・・?」
祐司も船乗りの端くれであるが故に、船魂の事も聞いていた、どのような船にも宿ると言われる、精霊のような存在だと・・・
「船長も船乗りなら、聞いたことぐらいはあるよね」
「あぁ、一種の信仰かと思ってたが、まさか存在してたとはな」
「あら、意外と簡単に信じちゃうのね」
「目の前に実際に現れたらな」
「順応ね・・・あなたが船長なら無事に本土に帰れるわ」
「当たり前だ、乗組員全員を日本に連れて帰るさ」
「では改めて、この船の船魂、飛鳥よ、よろしくね」
「飛鳥船長の西九条祐司だ、此方こそよろしく、安全な航海を心がけよう」
飛鳥と祐司は握手を交わした、空には真円の月が輝いていた
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