父の心情
風林火山 第11回「信虎追放」を見て描いてみました。
実際の気持ちなどは判る訳ないですが、仲代達也さんの演技などを見ていて、ああ、やはり息子の将来を心配していたんだ、と思いました。
あくまでドラマですが・・・・そう思いました。
『・・・・見事、と言っておこう。晴信』
わしは今川の臣下に囲まれる形で・・・・駿河へ向かっている。
実の息子である晴信に、甲斐を追放された・・・・・・・・・・
このわしも実の叔父を殺して、家督を継いだ身。
何れは、その業が我が身に降りかかる、とは覚悟していた。
いや・・・・それすら忘れていた。
晴信は嫡男でありながら、武芸より連歌などにうつつを抜かしている。
それが酷く情けなかった・・・・・
今の世において、そのような技術は必要ない。
いや、京の都に居る者達と仲を深めると考えれば必要であろう。
しかし、先ずは武芸だ。
わしが、築き上げた甲斐の国を治める器が・・・・あ奴にはある。
それなのに、あ奴は媚びるような事しかしない。
いや・・・・違うな。
恐れていたのだ。
わしの血を引く晴信じゃ・・・・・その将才はある。
わしを越えているであろう。
・・・・親として子に才能があり、将来を任せられる事は嬉しい。
しかし、わしはそれ以上に晴信が恐かった。
自分が、かつてしたように・・・・晴信も、またわしを殺すのではないか?
それが恐かった。
だからこそ、わしは今川に晴信を預けようとしたのだ。
もっとも・・・・その時は、まだあ奴の事を何処かで見下していた。
あ奴では当主になれない。
それでも我が子・・・・わし亡き後、どうなるか判らない。
親として子の身は心配でならない。
故に雪斎殿に頼み、あ奴に兵法などを学ばせた後に出家させようとした。
師が良ければ、あ奴も立派になるであろう。
更に仏門に入れば、人を慈しみ今川の補佐が出来る、と踏んだ。
あわよくば・・・・今川家を乗っ取る事も出来ると、考えた。
だが、帰ってみれば・・・・・晴信が当主と既になっていた。
わしの名を与えた家臣も、信繁も晴信に従う有り様・・・・・・・・・
その時、今川が連歌の意味が理解できた。
嗚呼、あの歌の意味は・・・・・こういう事だったのか。
晴信が駿河に行くのではない。
わしが、駿河に行くのだ。
二度と甲斐の地を踏めないのだ、と・・・・・・・・・・・
しかし・・・・それで良いのかもしれない。
叔父を殺して、家督を継いだ身だ。
これも、また宿命なのかもしれない。
何より・・・・あ奴なら、わしを越えて立派に武田家を栄えさせる筈だ。
何れは今川を滅ぼし、駿河を手に入れ京の都に武田の旗を立て、全国に武田の名を広めるに違いない!!
それを思えば・・・・この出来事も良かろう。
「晴信よ・・・・この世は過酷。見事、乗り切ったな」
実の父である武田信虎を追放する、その冷酷さ・・・・・見事だ。
しかし、これ以上に厳しい道が待ち受けているだろう。
それも乗り越えてみせよ。
この、わしを越えてみせよ。
武田の名を全国に広めてみせよ!!
そして、その暁には・・・・・・・
「・・・・そなたと二人切りで、酒でも酌み交わそうぞ」
今にして思えば、ただの一度も晴信と二人切りで酒を酌み交わした事は無かった。
だが、天下を統一した暁には、この父と酒を酌み交わそう。
その時には・・・・このわしも、そなたの力量を素直に認めている事だろう。
調べて分かりましたが、意外と手紙のやり取りはしているし、信玄も結構な仕送りをしている事から・・・・案外、そこまで親子仲は悪くなかったのかもしれませんね。
とは言え、息子より長生きした彼・・・・果たして、どんな気持ち、だったんでしょうかね?