終章「優勝」
「――お疲れ様、麗華」
控え室へと向かう通路の途中、麗華は仲間達に出会った。
「貴様達も光陵の連中と一緒で気が早いのう。ここまで足労して来なくとも部屋に戻ってからでも良いだろうに。言葉の重みは大して変わらんのだからな」
「そう言ってくれるなよ。迎えに来たのだからな」
「どう言われてもいいよ。あたし達がしたくてやっているだけだからね」
「そうそう」
虎姫、夏南、黒子の三人が口々に否定する。
それに対して麗華はそっぽを向き、
「――馬鹿者。照れ隠しだ。それくらい察しろ」
と言った後、「疲れたからおんぶしてくれ」と虎姫に頼んだ。はいはい、と虎姫は言い、麗華に背中を向ける。その背中に麗華は体を預け、虎姫は立ち上がる。
「では、行きましょうか」
辰美は皆にそう言ってから歩き出した。三人はその後に続く。
「時に、麗華よ。凛々花に挨拶して行かなくて良いのか?」
虎姫の背中から麗華は眠そうな声で聞いた。
「今は行かないわ。同校の人達と勝利の美酒を味わっているでしょうから。――それよりどうだったかしら? 凛々花さんとの対戦は」
「愚問だ」
「そう。それは良かったわ」
麗華の喜びに満ちた声に、辰美は思わず口元を緩めた。
「……負けたのに嬉しそうとは、どういう了見だ?」
麗華が不機嫌そうに聞いた。
「変わらず強かった事が嬉しく、来年は挑戦者という立場で挑めるからよ」
「……くく。なるほど。それはそれで――」
それきり麗華の声が聞こえなくなり、代わりに静かな寝息が聞こえてきた。
四人はそんな麗華を微笑ましく思いつつ、会場を後にした。
「――凛々花!」
大将戦終了直後、控え室を真っ先に飛び出した静香は、対戦会場に到着するや凛々花に声をかけた。それで凛々花は静香に気付くと、
「鶴ヶ谷先輩!」
静香の姓を呼び、静香の方に駆け寄り、静香に飛びついた。突然の事に静香は驚いたものの、どうにか飛びついてきた凛々花を抱き止める。
「り、凛々花――」
「――ありがとう、ございます……」
そう言った凛々花の声には嗚咽が混じっていた。でも、悲しさは見られない。
静香は黙って凛々花の声に耳を傾け、凛々花はそのまま言葉を続ける。
「……先輩の言っていた事……本当でした。……強い人が、いるのですね……。私は……井の中の蛙でした……。そう思ったら、泣けてきて……」
その気持ちを静香は少しだけ理解出来た。自分の井の中の蛙で相手を失いそうになったから。凛々花の場合、それはより酷い。自分から舞台から離れる事を決断させてしまうほどの強さ。それほどまでだからこそ、今は嬉しくて嬉しくて仕方ないのだろう。知ったかぶりだとしても、異質だとしても、広い世界には自分と対戦してくれる人がいる事を知って、それがどうしようもなく嬉しいのだろう。
静香は凛々花からそっと離れ、頬を濡らす涙を優しく拭き取り、
「どういたしまして」
簡潔にそう言った。
すると、凛々花は一層泣き出した。嬉しいのは分かるが少し過剰なくらいに。
やれやれと思いつつ、どうするべきかと考え始めたその時だった。
「(ちょ、加奈! 押さないでよ! 隠れているのがバレるでしょうが!)」
真希の小声の怒鳴り声が後方から聞こえてきた。
三人が追いつき、しかし追いついて見れば、こんな事態なので入るに入れないのだろうな、と仮定し、静香は三人のためにも凛々花のためにも状況を変える事を決意し、凛々花からそっと離れ、
「――三人共、余計な気を使わなくていいから」
ドアの後ろに隠れているだろう三人に声をかけた。
すると、一拍ほど間を置いて三人がドアの影から顔を出した。
「そうは言いますが、百合空間を展開されていましたからねー」
「ちょ、深雪! もう少しオブラートに包みなさいよ」
「それよりも今は優勝した事を喜ぶのが先っすよ!」
「言われなくてもそうします。というわけで、写真を撮りましょう」
深雪がそう提案しつつ、懐からデジタルカメラを取り出した。
「お、いいわね! じゃあ――あっ! 進行役さん!」
真っ先に同意した真希は、退出しようとしている進行役に駆け寄り、二言、三言交わした後、進行役の手を引いて一同の下に戻ってくる。
「深雪。この人に撮影を頼んだからカメラを渡してくれる?」
「全く……。……でも、今はナイスです。というわけで、お願い出来ますか?」
「ええ。構いませんよ」
では、と深雪は進行役の男にカメラを私、皆を引き連れて少し離れた。
「凛々花。その顔どうにかしなさい。みっともないわよ?」
真希はそう言って凛々花にハンカチを渡した。
「す、すみません」
凛々花はそれを受け取り、涙を拭く。
「ウチ、凛々花の隣!」
「じゃ、私はこっち」
「ちょ、加奈に静香! それだと私と深雪が端っこになるじゃない!」
「後ろに行けば問題ありませんよ、真希。というわけで、私達は後ろです」
深雪は真希の手を引き、三人の後ろへと回り、進行役に声をかける。
「お待たせしました。お願いします」
「分かりました。では――」
進行役は一度咳払いし、カメラを五人の方に向け、
「光陵高校の皆さん、優勝おめでとうございます!」
撮る前の合図をそう言った。
それに対して五人は――、
「「「「「ありがとうございまーす!!」」」」」
そう言って満面の笑みをカメラに向けた。




