序章「落花」
あるところに一人の女の子がいました。
そんな女の子の趣味は花札でした。きっかけは両親です。両親が笑い合いながら楽しそうにやっていたので、女の子も興味を持ち、遊び方を教えてもらい、両親と同じように好きになり、何時の間にか大好きになっていました。
そんな女の子は、ある時友達に言われました。
――『お前って何でそんなに強いんだ?』
それからというもの、女の子はその事ばかりを考えるようになりました。
確かに女の子は強かったのです。運の要素が強いはずなのに、女の子は一度も負けた事がありませんでした。何でだろう。どうしてだろう。女の子は幼いなりに一生懸命考え、やがてある事に至りました。
――自分は他の子とは違うのかもしれない……。
それを確かめるべく、女の子はある大会に参加してみました。両親や友達同士ではなく全く知らない人とやれば、分かるかもしれないと思ったからです。
結果、女の子は答えを得ました。
両親から「強い人がいるから存分に楽しんできなさい」と言われて望んだ大会でしたが、女の子は特に苦労する事なく、あっさりと優勝したのです。
でも、女の子が得たのはそれだけではありませんでした。
女の子は、決勝で戦った相手の子にこう言われてしまいました。
――『インチキして勝って嬉しいのですか』と。
女の子はインチキをしていません。でも、女の子がどれだけ必死に否定しても対戦相手はもちろん、試合を見ていた人も誰一人として女の子の言葉を信じてはくれませんでした。理由は簡単です。女の子がそれだけ強過ぎたからです。
女の子は悟りました。自分はどうしようもなく、疑いようもなく異質な事を。
その日以来、女の子は一人になりました。あまりに強過ぎる事で気味悪がられ、仲良しだった友達に一人、また一人と女の子から離れていった事によって。
そして女の子は、花札に触れなくなりました。
自分を相手にしたり、機械を相手にしたりしてはいたのですが、最初こそ良かったものの、触れている限りは誰かを傷つけてしまうかもしれないのにと思い、こんな触れ方では他の人にも花札にも失礼だと考え、ならばいっその事、と触れない事を心に決めたからです。好きだからこそ決断でした。
もう触れることは無い――そう心に決めて久しいある日の事でした。
同じ高校の先輩に花札の対戦を申し込まれたのは――。