デート当日
約束の日。待ち合わせ場所である広場の時計塔の前には、すでに宗助の姿があった。
遅れないようにと綾音は、待ち合わせ場所には早めに向かったのに、宗助は約束の時間よりも先にいた。
ソワソワと落ち着かない様子で待つ宗助は、綾音の姿に気がつく。
「綾音!」
片手を挙げた宗助が、綾音に向かって歩いてくる。綾音も小走りで宗助の元に向かう。
「お待たせして、ごめんなさい」
「いや、楽しみで早めに俺が来てしまっただけだから……それよりも」
宗助が綾音の服装に頬を見る。
「今日は着物なのだな。似合っている」
宗助が会う時の綾音は、シンプルな服装に花の小物などを身に着けた、清楚な洋服姿。しかし、今日の綾音は東の国の民族衣装である着物を着ていた。
桃色の着物に袴、茶色のブーツの綾音はどことなく初々しさを感じて愛らしい。まるで、名門校の女学生のようだ。
いつもの綾音の服装も素敵だが、宗助の産まれた国、東の国の民族衣装を綾音が着ていることに、宗助の気持ちは高揚する。しかし、それは一瞬の事、宗助はやってしまったと自分の服装に後悔する。
白のシャツに茶色のベスト、黒のズボンとシンプルな服装。念のための護身というか、ないと落ち着かないので、腰のベルトには宗助の得物、打刀。エルマと相談して、普段とは違う服装で意外性を狙い、綾音の服装に合わせて選んだデート服。
いつもの着物だったらお揃い感があったのに、宗助は心の中で後悔中。
「いつもと正反対ですね。宗助さんも似合っていますね」
宗助の後悔は綾音の言葉により、一瞬で吹き飛ぶ。
「では、行きましょう」
綾音は宗助に手を差し出す。
「…………」
「宗助さん?」
「あ、いや、なんでもない……行こう」
差し出された綾音の手を、壊れ物を扱うかのように、宗助は優しく手を重ねる。
自分の手よりも小さい、柔らかく、冷たい鱗の感触に、宗助の頬が緩む。
「フフ、楽しみです。宗助さんが教えてくれた新作タルト」
楽しそうに軽やかに綾音は、宗助の手を引いて前を歩く。
向かうのは宗助が綾音におすすめした、南通りの洋菓子専門店。その店は喫茶店も兼業していて、女性に人気のお店だ。
余談だが、南通りの洋菓子専門店は、若いカップルのデート場として人気。
嬉しそうな綾音に手を引かれる宗助は、幸せをかみしめる。にやけそうになるが、情けない姿を見せる訳にはいかない。宗助は気を引き締めた。
そして、自分達の後をつけてくる二組にちらりと視線を向けた。
一組はフォーチュナ劇場のウエイター兼用心棒である二人。遠い目をした人族のノウゼンと、自分達のことは気にしないでと手を振る獣人族・鼠人のフルール。
「あ、動いたわ」
「さあ、行きましょう!」
もう一組、生き生きとした様子のアンネとエルマ、そして、ごめんと手を合わせるニール。
「宗助さん?どうかしました?」
「いや、なんでもない」
邪魔してこなければいいかと、宗助は綾音に笑みを向けた。




