第十一話 ホウレンソウ(報告・連絡・相談)
「よし、エルフィ。キョウスケの処理は終わった。……次は、リアルタイムで世界の地形を削りまくっているツカサ・イチジョウ案件の回収だ」
俺はパンパンと手を払い、次なる大炎上現場へと意識を切り替えた。
「ハッ! 了解です、ユウキ主任!」
エルフィがスーツの袖を正し、黒縁メガネの奥の瞳をシャープに光らせた。
「次なる最優先タスクは、ツカサ・イチジョウの『無限魔力』による出力暴走案件です。彼はルミナリア社長に授けられた強大すぎる魔力を完全にコントロールしきれず、常時暴走させたまま、現在は行方をくらませています!」
俺は腕を組み、冷徹に鼻で笑った。
「なるほどな。魔法をプログラムに見立てると、ツカサの奴は『最悪のバグを埋め込んだまま、音信不通でバックれたシステム管理プログラマー』ってわけだ」
「バックれたプログラマー、ですか……?」
エルフィが不思議そうに首を傾げる。
「そうだ。奴に渡された『無限魔力』は、出力調整を付け忘れた致命的な欠陥プログラムだ。時間がたつごとに過負荷が実行される。さらに、その大バグを抱えたまま、本人はパニックになってどこかへ逃亡した。IT業界で最も恐れられる『システムを大炎上させたまま夜逃げした状態』だよ。ツカサ自身が歩く『未修正の脆弱性』として、今も世界のどこかでリアルタイムにインフラを破壊し続けているんだ」
すると、床に転がっていたルミナリアがムクッと起き上がり、口を尖らせて信じられないような甘いことをのたまい始めた。
『ちょっと待ってよユウキ! それってツカサくんが弱虫なのが悪いでしょ!? あたしは親切心で「無限の魔力」っていう超豪華な最高級チートをタダであげたのよ? それを使いこなせないでパニックになって逃げ出すなんて、ただのユーザーの自己責任じゃない! あたしは悪くないわ!』
「――ルミナリア社長」
俺は極低温の声を出し、手に持っていた指示棒をルミナリアの鼻先へピシッと突きつけた。その場の空気が一瞬で凍りつく。
「お前は、本当に、何一つ分かっていないな。いいか、お前がやったのは『親切心』なんかじゃない。『ブレーキもついていない排気量無制限のモンスターマシンを、入社したばかりの新人に押し付けした』んだ。そんな危険物を公道に放流すれば、大事故を起こしてパニックになるのは当たり前だろうが」
「う、うぐっ……」
「使いこなせないツカサが悪いだと? バカもいい加減にしろ。適切な出力調整も、異常事態の安全弁も実装せずに出荷した時点で、それは100%『製造物責任(PL法)違反』だ。開発元の完全な一発アウト案件なんだよ。それをツカサの精神論に責任転嫁してんじゃねえぞ、このポンコツ経営者が」
さらに俺は、指示棒で彼女の額をコツ、コツと叩き、容赦なく追撃の説教を浴びせた。
「いいか、仕事は遊びじゃないんだ。もっとリスクを考えて行動しろ。自分でリスクを予見する頭がないのなら、独断で決済せずに最初からエルフィたち周りに相談するくせをつけろ!ホウレンソウ(報告・連絡・相談)を徹底的に意識しろ。アホでもそれくらいできるだろ!」
「ア、アホって言われた……!わぁぁぁ!」
ルミナリアは俺のあまりの正論の前に、顔を真っ青にして再び床に転がって泣き叫んだ。会話の趣旨を理解せず、悪口にだけ反応する。まるで子供だ。
「エルフィ、そのバックレたプログラマーがいる場所はわかるか?...エルフィ?」
「……ハッ。失礼しました、ユウキ主任。説教の美しさに、つい見とれてしまいました」
エルフィがうっとりとした表情から我に返り、コホンと咳払いをしてデータウインドウを空中に入力した。
「神界のレーダーにより、夜逃げプログラマー・ツカサの現在地は特定済みです! ツカサ・イチジョウは現在、あまりの爆発の恐怖から人目を避け、大陸の最果てにある『未開拓の樹海』の奥深くに身を潜めている模様です! しかし、奴がそこに留まっているだけでも、数分おきに発生する魔力暴走のせいで、樹海の生態系データがリアルタイムで破壊され続けています!」
「よし、バックれたプログラマーを捕まえて、強制的にデスクの椅子に縛り付けるぞ。エルフィ、今すぐその樹海の座標へポータルを繋げ」
「了解です、ユウキ主任! 監査出張の手続きを執行します!」
エルフィが即座にコンソールを叩き、俺たちの足元へ緑の樹海へと繋がる新たな転送ゲートを展開した。




