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倒産寸前な天界に中途採用された件 〜ポンコツ女神様の代わりにCOOになって異世界の再建始めます〜  作者: MAOOU
第一章 神界コーポレーションのCOO就任と、三大不良債権の強制償却
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第一話 最高執行責任者(COO)に任命

「いや、見るだろ。普通」


それが、俺――普通の男子高校生、佐藤結城さとうゆうきの人生最後の心の言葉だった。


学校からの帰り道、いつもの通学路にある古い雑居ビルの脇を通り抜けた時のこと。コンクリートの壁に、やたらと自己主張の激しい立て札が設置されていた。

白いペンキで雑に書かれた文字はこうだ。


『↑注意』


人間には、矢印を見たらその先を追ってしまう悲しい習性がある。ご丁寧なことに上向きの矢印だ。俺は何の疑いもなく、文字通り「上」を見上げた。


視界に飛び込んできたのは、ビルの上階付近から、ものすごい速度で自由落下してくる巨大なコンクリートの塊だった。


凄まじい衝撃。自分の骨が悲鳴を上げる音すら聞こえないほどの一瞬。

俺の意識は、あっさりと深い闇の底へと突き落とされた。



「……う、頭が割れそうに痛……くない?」


覚悟していた激痛がないことに気づき、俺は勢いよく跳ね起きた。全身を触ってみるが、骨折もしていなければ、血の一滴も出ていない。あの質量に押し潰されて無傷なわけがない。


だが、安堵のため息を漏らそうとした俺の喉が、別の理由で凍りついた。


「ここ……どこだ?」


そこは、天井がはるか高くにそびえる、見たこともないほど巨大な石造りの神殿の中だった。

そして俺の目の前には、絵に描いたような銀髪の美少女が佇んでいた。白いローブをまとい、手には金色の杖。まるでRPGの天使様だ。彼女は俺の顔を見るなり、深く同情するような複雑な表情を浮かべた。


「お目覚めですか、異界の迷い人よ。……その、なんと言いますか。まずは、心よりお悔やみ申し上げます。あなたは落石の直撃により、跡形もなく亡くなりました。お可哀想に……」


「うっ」

胸に鋭い痛みが走る。確かにあの状況、間抜けな死に方に違いない。


「あ、あの! 決して馬鹿にしているわけではありません! あなたの魂は、その……えっと、理不尽な死へのエネルギーにより、凄まじい初期ステータスを秘めています! ほら、ご自身のステータスを確認してみてください!」


言われるがままに頭の中で「ステータス」と念じてみると、目の前に半透明の光のプレートが出現した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【名前】 ユウキ・サトウ

【ジョブ】 異界の勇者(予定)

【固有スキル】

・『上方絶対領域』:上空から迫るあらゆる危険を100%感知し、自動で防御する。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……上方、絶対領域」


俺は冷徹な現実を突きつけてやった。


「なぁ、天使様。冷静に考えてくれ。地上で生きている生物の危機の大半って、地上から来るよな? ゴブリンの棍棒も、魔獣の牙も、全部横だ。上方向のチートなんて、鳥に捕食される芋虫くらいにしか役に立たないだろ。あってもなくても同じだ。いらん。返品する」


「返品!?」

天使様は悲鳴のような声を上げた。


「そ、そんなことを言われましても! 私の権限では……! うう、わかりました! 私の固有聖力で、スキルの『解釈』をすこしだけ変更します!」


天使様が涙目で杖を掲げると、文字が書き換わっていく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

・『上方絶対領域』⇒ 【条件変更】:主人公が『上』と認識した方向を「絶対上方」と再定義

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……ってことは、俺が常に首を90度曲げて横歩きすれば、正面からの攻撃を自動回避できるってことか?」


「見た目はもの凄く不審者ですが、理論上はそうですね…」


「使えるかこんなスキル! すまんが、担当者変更で。もっとマシなチートを出してくれる女神様を出してくれ、チェンジ」


「ち、チェンジとかいわないでください、最高神の大女神ルミナリア様が来ちゃいます!ルミナリア様に対応させると天界のリソースが……」

天使様が涙目で焦って言った、その時だった。


ゴゴゴゴゴ……と、神殿の床が激しく揺れ動いた。頭上に巨大な黄金の魔法陣が展開し、圧倒的なオーラを放つ金髪碧眼の美女が現れた。


『――ふん。ずいぶんと威勢のいい迷い人がいたものね。私の可愛い天使をここまで泣かせるとはね。いいわ、そこまで言うなら、この最高神ルミナリアが直々にスキルを与えてあげる。その代わり、あたしは甘くないわよ?』


大女神ルミナリアは自信満々にフワリと床へ舞い降りた。だが、俺は騙されない。


「お言葉ですが、ルミナリア様。部下の天使があのポンコツっぷりだった以上、その上司であるあなたもポンコツである可能性を、俺は疑っています。とりあえず、あなたが提唱する案とやらを見せてもえますか」


「なっ……!?」

ルミナリア様はピキッと顔を硬直させたが、すぐにフッと鼻で笑って指を鳴らした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【固有スキル(ルミナリア修正案)】

・『絶対障壁』

【効果】あらゆる方向からの物理・魔法攻撃を100%完全に遮断する絶対無敵のバリア。

【制約】発動中、障壁内部はすべての運動・代謝が停止する(完全停止状態)。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……おい。これ、発動した瞬間、窒息死するか心肺停止で死にますよね?何が絶対障壁だ、ただの『セルフ即死ボタン』じゃねえか。却下、論外! ほら見ろ、やっぱり上司もポンコツじゃねえか!」


「ぽ、ポンコツ……!? じゃ、じゃあこれならどうよ! 誇大広告なしの実用性を極めた第二案よ!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【固有スキル(ルミナリア第ニ案)】

・『フイジックリビルド』

【効果】自分の周囲1mの「物理法則」を一時的に変更できる。

【制約】発動中は主人公の最大HPの99%が担保にされる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あのさぁ……。最大HPの99%が担保されるってことは、実質HPが『残り1』の状態になるわけだ。物理法則を変えてどんなに強力な攻撃を防ごうが、その発動中に、そこらへんの蚊に刺されたり、小石につまずいて転んだり、突風で自分の服のボタンが強く体に当たっただけでも即死だ。『かすり傷即死モード』になってるじゃねえか。スキルの効果で『100%』とか『絶対』とか安易に盛り込んでくる奴は、たいてい仕様の穴を考えていないポンコツなんだよ」


「あ、う……あ、頭が良いクレーマーって一番タチが悪いわぁぁぁ!」


ついに大女神ルミナリア様まで、天使と同じポーズで頭を抱えて床にしゃがみ込んでしまった。


「そもそも、神様が安易にスキルを授けてくれるような世界にはいきたくない。システム自体が安易だし、そんな甘い世界は逆に何か裏があるか、世界全体の設計がガタガタに決まっている」


『う、うるさいわね! 何が悪いのよ! 異世界から来た子にチート能力をポンとあげるのなんて、今のトレンドじゃない!』


「やっぱりな。神様から貰った力で無双するなんて不健全だ。そんなインスタントな強さは、いつアプデで使用不可にされるか分かったもんじゃない。スキルなんていらん。……おい大女神、とりあえずお前らがこれまでに安易にチートを授けて送り込んだ『転移者』のリストを見せろ。話はそれからだ」


「な、何よ、急にそんなもの見てどうするのよ……」

ルミナリア様の目が明らかに泳ぎ、そばにいる天使は手で顔を覆っている。


ルミナリア様がしぶしぶ空中に展開した光のスクロールを、俺は冷徹に読み上げた。


・10年前の転移者、スキル【絶対切断】

現在、空間ごと100%切り裂いちゃって次元の裂け目に落下し行方不明。


・5年前の転移者、スキル【絶対命中】

障害物の多い森の中で撃って、木に跳ね返った自分の矢が心臓に当たって自爆死亡。


・3年前の転移者、スキル【無限魔力】

加減を知らない無限魔力でひとつの街を消し飛ばして全世界から指名手配……。


「案の定、運用のシミュレーションを全くしてない。お前らが渡したのはチートじゃない。ただ世界のバランスを壊しただけだ」


俺は腕を組み、非難の目で二人を見下ろした。


「つまり、この異世界は『無能なワンマン社長が決済を繰り返した結果、倒産しかけている会社』ってことだ。社長がリスクを全く考えず、見栄えだけいい新規プロジェクト(チート転移者)を次々に立ち上げる。結果、異世界はバグまみれの転移者を抱えて大炎上。こんな泥舟の異世界に、まともなチートもなしに転生されてたまるか」


「う、うう……! ごめんなさいぃぃ! 実は現場からの悲鳴の祈りが多すぎて、最近神界のコールセンターがパンクしてるのよぉぉぉ! ね、ねえ、あなた頭が良いんでしょ? だったらお願いよ、この世界を立て直して、魔王と、あとあたしがやらかした過去の負債転移者たちをなんとかして頂戴! なんなら、あなたを神界の『最高執行責任者(COO)』に任命してあげるわ!』


ルミナリア様が俺のズボンの裾にすがりついてくる。隣では天使が「女神様、しっかりしてください!」と泣いている。


俺はすがりつく大女神を引き剥がし、不敵に微笑んだ。


「……わかったよ。この世界を再建するための『全権ハンコ』と、俺の身の安全を担保なしで保障するって言うなら、相談に乗ってやらないこともない。」


クレーマーを通り越し、ついに神界の運営権を脅かし始めた男子高校生。神のシステムをハッキングする、ユウキの容赦ない「世界再建計画」がここから始まる。


それにしても、と俺は神殿の壮大な天井を仰ぎ見た。

看板に書いてあったあの文字を思い出す。


『↑注意』


あの時はただ、頭上からコンクリートが降ってくる警告だと思っていた。

だが、こうして天界のトップが特大のポンコツを晒している現実を見れば、あの警告の意味はもっと深かったのだと気づかざるを得ない。


「↑注意というのは、『天界注意』って意味でもあったんだな」


俺は押し寄せる理不尽な運命を深く嘆きながらも、思わずハハハと力なく笑い声を漏らすのだった。

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