自由都市への関門
朝日が渓谷を照らし出す頃、シュウたち一行は「自由都市フェルン」へと続く街道に立っていた。
そこは帝国の影響力が及ばない中立地帯。だが、入るためには厳重な魔力鑑定が行われる関所を抜けなければならない。
「いい? シュウ。あそこの関所には『偽造不可』の鑑定石があるわ。帝国の指名手配犯なら一発でバレるわよ」
エレインが、ピンと尖ったエルフ耳を警戒心に震わせながら、シュウに釘を刺す。彼女は道中、ことあるごとに「別に心配してるわけじゃないんだから!」と付け加えながらも、一行の先導を買って出ていた。
「大丈夫だよ、エレイン。……シュウの『魔物喰い』なら、きっと……」
シュウの袖を掴んでいるのは、黒い猫耳の少女、ミーニャだ。彼女は昨夜のロックバイソンの肉を食べて以来、シュウの傍から離れようとしない。時折、猫のように鼻をクンクンと動かして、彼の匂いを確認している。
「……ふん。鑑定石か。面白いな」
シュウは、関所に鎮座する巨大な魔石を、自身の【鑑定】スキルで見つめた。
【対象:真実の魔石(劣化)】
【構造:魔力の波長を読み取り、登録された犯罪者リストと照合する】
【干渉:可能――『魔物喰い』による概念上書き】
「フィオナ、リィネ。お前たちの魔力波長を少しだけ『偽装』する。……俺が昨日喰わせた魔物の概念を、表層に出せ」
シュウが二人の肩に手を置く。
フィオナの王族特有の高貴な魔力は、ニードルラットの「野生の鋭利」さで覆い隠され、リィネの黄金の魔力は、フォレストウルフの「夜の隠密」によって霧の中に消えた。
「次の方、前へ!」
衛兵の呼び声に、一行は緊張を孕んで進み出る。
鑑定石に手をかざすフィオナ。一瞬、石が赤く光りかけたが、シュウが抽出した「概念」が波長を歪ませ、判定は「白(一般人)」へと書き換わった。
「……通過。次はそこの、エルフと猫耳。……おい、お前ら。妙な組み合わせだな」
衛兵がエレインとミーニャを不審げに見る。エレインは一瞬、顔を強張らせたが、すぐに持ち前の気の強さを発揮した。
「な、なによ! 私たちがどこへ行こうと勝手でしょ!? この子は私の……えっと、妹分みたいなものよ。文句ある!?」
ツンとした態度でまくしたてるエレイン。その後ろでミーニャが「にゃん」と気の抜けた返事をしたことで、衛兵は苦笑いしながら通行を許可した。
無事に関所を抜け、視界が開ける。
そこには、多種多様な種族が行き交い、魔法の灯火が昼間のように輝く巨大な街――自由都市フェルンが広がっていた。
「……着きましたね、シュウ様」
フィオナが感極まったように呟く。だが、シュウの視線は街の喧騒よりも、その奥にある「冒険者ギルド」の看板に向けられていた。
「ここからが本番だ。……今の俺たちの『神装』じゃ、まだ帝国を相手にするには出力が足りない。もっと強い魔物、もっと希少な概念を喰らう必要がある」
「……あ、あ、あんた、まだ食べるつもり!? さっき、あんなに食べたのに!」
呆れるエレインを余所に、シュウはギルドの掲示板に並ぶ「高難度依頼」を指差した。
「――『森の王、キラーベアの討伐』。……これにしよう」
「……くま。……美味しそう。……シュウ、ミーニャもお手伝いする」
ミーニャの猫耳が期待にぴくぴくと動く。
新たな地で、新たな「獲物」を求めて。
少年と少女たちの、美食と覚醒の旅が本格的に動き出す。




