第3話 天空龍嶺の「神の晩餐」と、親友の門出
大陸の中央にそびえ立つ、標高8,000メートルを超える聖峰『ドラゴニア・ハイツ』。
酸素は薄く、魔力密度は通常の数千倍。常人なら一歩踏み出すだけで肺が灼けつく死の領域だが、シュウの一行にとっては「絶好のスパイス」が漂う庭園に過ぎなかった。
「……ん。……シュウ、着いた。……ここ、私の本当のお家」
ルナが漆黒の翼を大きく羽ばたかせ、断崖の頂に降り立つ。そこには、数千年の時を経て結晶化した「龍の骨」で造られた巨大な宮殿がそびえ立っていた。
「……おいおい、とんでもねぇ場所だな。空気までビリビリしてやがるぜ」
ガストンが黄金の重剣を肩に担ぎ、周囲を見渡す。そこへ、空を割るような咆哮と共に、数頭の巨大な龍が降り立ってきた。彼らはルナの帰還を祝うと同時に、その隣に立つ「人間」たちを鋭い眼光で射抜く。
1. 成体ルナの「求愛」
その夜、龍族の歓迎会が催された。
ルナは、シュウの手を引いて宮殿の最上階、月が最も近くに見える『天の杯』へと連れ出した。
「……シュウ。……龍族の結婚は、魂を混ぜること。……子供のままじゃ、足りない」
ルナの体が、まばゆい闇の光に包まれる。
光が収まった時、そこに立っていたのは、背丈も大人び、妖艶な曲線美を湛えた「成体」のルナだった。黒いドレスのような鱗が肌にしなやかに吸い付き、その瞳は夜空の星よりも深く、知的な光を放っている。
「……シュウ。……今の私なら、あなたを全部受け止められる。……逃がさない。……一生、私の隣で美味しいもの、作って」
ルナがシュウの首筋に手を回し、ゆっくりと唇を重ねる。それは、数千年の寿命を持つ龍族が、たった一人の人間に捧げる「永遠の契約」だった。
「……はは。……分かってるよ、ルナ。……お前の胃袋も、心も、俺が一生分、満たしてやる」
2. ガストンの「春」と、龍の試練
一方、宮殿の下層では、ガストンが龍族の若き女戦士、テラと激しい打ち合いを演じていた。
彼女は人型に変身しているものの、その力は山を砕くほど。ガストンはシュウから授かった『黄龍鉄』の神装を全開にし、その一撃を受け止める。
「――やるじゃない、人間! 私の剣を正面から止めたのは、父様以外でアンタが初めてよ!」
テラが快活に笑い、ガストンの肩をバシバシと叩く。
ガストンは顔を赤くしながらも、不器用に笑い返した。
「……へっ、俺の相棒はもっとすげぇんだよ。……だが、あんたの剣も……悪くねぇな。熱くて、真っ直ぐで……嫌いじゃねぇ」
二人の間に流れる、奇妙で熱い連帯感。
それを見ていたエレインが、エルフ耳をぴくぴくとさせてリィネに耳打ちする。
「……ねぇ、リィネ。あのアホ筋肉にも、ついに春が来たんじゃない?」
「あはは! 龍の女の子にお似合いだね! 今夜の晩餐、もっと盛り上げちゃおうよ!」
3. 神の晩餐:ベヒーモス・ジャーキーの再構築
シュウが厨房に立つ。今回用意したのは、龍の里に伝わる秘蔵の食材。
数百年もの間、龍の熱風で燻され、岩のように硬くなった『伝説のベヒーモス・ジャーキー』だ。
「【魔物喰い:極限軟化・多重概念合成】!」
シュウはルナの魔力を借りて、ジャーキーに「時の巻き戻し」の概念を付加した。
完成したのは、噛むたびに数百年の旨味と、新鮮な生命エネルギーが溢れ出す『龍神のロースト・ベヒーモス』。
「……う、美味すぎる……! 身体が熱くて、魔力が爆発しそうだ!」
ガストンが叫び、テラがその隣で豪快に肉を頬張る。
ルナは成体の姿のまま、シュウの隣で優雅にワインを傾け、彼の肩に頭を預けた。
「……シュウ。……幸せ。……明日も、明後日も、ずっと……美味しいね」
星空の下、龍族の咆哮と、若者たちの笑い声が天空に響き渡る。
シュウと5人の妻(?)、そして親友ガストンの絆は、空よりも高く、何よりも固く結ばれていった。




