第2話:海底王国の「真珠の涙」と、影に潜む熱情
エルフの里を後にしたシュウ一行が辿り着いたのは、大陸南端に位置する『白砂の聖域』。かつてフィオナの祖国が統治していた、世界で最も美しいと言われる珊瑚礁の海だ。
「……ふふ、見てくださいシュウ様。この海の青さ……まるで、あの日あなたがわたくしにくださった『魔石の欠片』と同じ色ですわ」
フィオナが海風に白銀の髪をなびかせ、眩しそうに目を細める。彼女は今、シュウが「水龍の脱皮殻」と「氷晶アメーバ」を合成して作り上げた、透き通るような白銀色の水着を纏っていた。それはフィオナの白い肌をより強調し、王女としての神々しさと、一人の女性としての危うい色香を同居させていた。
「……あつい。……海、嫌いじゃない。……でも、水は、苦手。……シュウ、抱っこにゃん」
黒い猫耳をぺたんと伏せ、ミーニャがシュウの背中にしがみつく。彼女は水に濡れるのを嫌がり、シュウの影の中に半分溶け込むようにして涼をとっていた。だが、その瞳は時折、海面を跳ねる魔導魚を鋭く射抜いている。
1. 聖域の海底散歩
今回の目的地は、水深300メートルに沈む伝説の海底都市『アビス・パレス』。そこには、数千年の時を経て熟成された『神殻カニ(ゴッド・クラブ)』が眠っているという。
「フィオナ、お願いできるか?」
「はい、お任せください。――『神装:白銀の聖域・水鏡の檻』!」
フィオナが細剣を水面に突き立てると、海水が割れ、シュウたちを包み込む巨大な空気の球体が出現した。一同はそのまま、幻想的な青の世界へと沈んでいく。
海底都市に足を踏み入れると、そこには宝石のように輝く魚たちと、古代の魔法が息づく静寂があった。
「……いたぞ。あれが、今回のメインディッシュだ」
シュウが指差した先には、真珠のような光沢を放つ巨大なカニが、岩棚に鎮座していた。
「あはは! 美味しそう! シュウ、私が焼き上げてあげるよ!」
「……待て、リィネ。こいつは火を通しすぎると身が溶ける。……ミーニャ、影で動きを止めろ!」
「……了解。――『影縫いの乱舞』にゃ!」
ミーニャが影から影へと音もなく転移し、カニのハサミを封じる。その隙にシュウが右腕を突き出し、カニの核に直接触れた。
「【魔物喰い:低温精製】――メニュー名は、『海底の真珠蒸し・フィオナの涙を添えて』だ!」
2. 影の中の熱い誘惑
その夜。海底都市の一角にある、魔法で守られた豪奢な寝室。
シュウが調理したカニの身は、口に入れた瞬間に濃厚な潮の香りと共に甘くとろけ、全員の身体を芯から熱くさせていた。特に『神殻カニ』の持つ強烈な生命力は、食べた者の情動を激しく揺さぶる副作用がある。
「……シュウ様。……わたくし、今日ほど、自分が『王女』であることを脱ぎ捨てたいと思ったことはありません」
フィオナが、しどけなくはだけた寝衣のまま、シュウの手に自分の手を重ねる。その碧眼には、隠しきれない情熱が宿っていた。
「わたくしのすべてを……この海の底で、あなたに喰らっていただきたいのです」
フィオナの唇がシュウの耳元に触れようとした、その時。
「……ずるい。……フィオナ、ずるいにゃん」
シュウの影がゆらりと揺れ、ミーニャが這い出してきた。彼女の黒い猫耳はピンと立ち、瞳は獣のような金色の光を放っている。
「……ミーニャも、あつい。……影の中、もっとあつい。……シュウ。……ミーニャのこと、ちゃんと見てほしいにゃ……」
ミーニャがシュウの首筋に顔を埋め、鋭い牙で甘噛みをする。
フィオナの気品ある誘惑と、ミーニャの剥き出しの独占欲。
「……はは、二人とも、そんなに腹が減ってるのか? ……いいぜ。夜はまだ長い。……二人の話を、ちゃんと聞いてやるよ」
翌朝、ガストンが「おい、いつまで寝てんだ新婚ども!」と部屋の扉を叩くまで、海底の宴が止むことはなかった。




