神龍の覚醒と、虚無の晩餐(ボイド・フィースト)
崩壊する帝国旗艦の甲板。爆炎と黒煙が渦巻く中、シュウとアルトリウスの刃が激突し、凄まじい衝撃波を撒き散らしていました。
「……くっ、魔力炉を汚染されてなお、これほどの出力を保てるのかよ、聖剣!」
シュウの右腕は、多重合成の負荷でひび割れ、龍の黄金の血が滲んでいました。対するアルトリウスは、聖石を砕き、その破片を自らの肉体に埋め込むという禁忌の強化を施しており、その姿はもはや人間を捨てた「光の魔神」と化していました。
「無駄だ、シュウ。……正義とは常に、より強き光にある。貴公の『食らう』不浄な力など、我が聖光の前に霧散するがいい! ――『極大聖界:デウス・エクス・マキナ』!」
アルトリウスが放ったのは、空間そのものを消滅させる極太の光の奔流。
シュウは右腕を突き出し、【魔物喰い】を最大展開しますが、あまりの熱量に掌の概念が次々と焼き切られていきます。
「……まずい、防ぎきれ――」
その時でした。
シュウの背後で、ずっと寄り添っていたルナが、静かに一歩前へと踏み出したのです。
「……シュウ。……だめ。……シュウを、食べさせない」
ルナの漆黒の翼が、これまでにないほど巨大に広がり、周囲の光をすべて吸い込むように闇を纏いました。彼女の小さな背中から、太古の咆哮が、魂を震わせる「神の叫び」が響き渡ります。
「――っ!? ルナ、お前……!?」
「……お腹、空いた。……悪い光、私が、全部……食べてあげる」
ルナの体が、まばゆい漆黒と黄金の光に包まれました。
幼かった少女の姿が引き延ばされ、肢体はしなやかで力強い大人の女性へと変貌し、さらにその背後には、天を覆わんばかりの巨躯を持つ**『漆黒の神龍』**の幻影が顕現しました。
それは、神話の時代の再来だった。
アルトリウスが放った極大の聖光は、成体へと一時的な変貌を遂げたルナの「口」へと、吸い込まれるように消えていった。
「……なっ、馬鹿な!? 私の『神の裁き』を……喰らったというのか!?」
「……不味い。……鉄と、誇り(プライド)の味。……でも、シュウを傷つけるなら、飲み干してあげる」
成体化したルナは、長い黒髪を夜風にたなびかせ、その瞳には王者の風格を湛えていました。彼女が指先をひらりと動かすだけで、帝国艦隊から放たれるあらゆる魔法が、粒子となって彼女の元へと集束していきます。
「ルナ……お前、そんな姿になれたのか」
「……期間限定。……シュウが、美味しいものをたくさん食べさせてくれたから。……でも、もう限界。……シュウ、あとは……『味付け』、お願い」
ルナが力強くシュウの背中を押しました。
彼女が喰らい、精製した純粋な「神の魔力」が、ルナの掌を通じてシュウの右腕へと流れ込みます。
「……ああ。最高の『下ごしらえ』をありがとうよ、ルナ!」
シュウの右腕が、ルナの龍力と完全に同調し、純白でも漆黒でもない、すべてを無に還す**「虚無の銀」**へと輝きを変えました。
「【魔物喰い:究極奥義・天地万象喰】!」
シュウがアルトリウスに向かって一歩踏み込みます。
その拳は、もはや物理的な打撃ではありませんでした。アルトリウスという存在が持つ「概念」、帝国の「野望」、そして聖剣の「法則」そのものを、一つの料理として胃袋に収めるための終止符。
「が、はっ……!? 私の……聖剣の輝きが……喰われる……だと……!?」
アルトリウスの甲冑が砕け、聖石が光を失って転がります。
崩壊する旗艦の上で、光の魔神はただの「一人の敗北者」へと戻っていきました。
「……お前の『正義』は、腹を満たさなかったな、アルトリウス」
シュウの声が、静まり返った空に響きました。
ルナの姿がゆっくりと幼い少女へと戻り、シュウの胸に倒れ込みます。
「……シュウ。……お腹、ぺこぺこ。……最高のご飯、約束……だよ……」
「ああ、分かってる。……世界で一番贅沢な晩餐を、用意してやるよ」




