再会の黒雷と、魂のフルコース
学園最深部、『禁忌の聖域』。
人工魔石の心臓から溢れ出す黒い雷鳴が、ガストンの全身を焼きながらも、彼に狂気的なまでの剛力を与えていた。
「ハハッ! 見ろよシュウ、この力を! 帝国がくれた『神殺し』だ。魔物の肉なんて食わなくても、俺はもう……お前より強い!」
ガストンが大剣を振り下ろす。その一撃は、演習場の石畳を粉砕し、シュウの『影』の防御すら貫通する衝撃波を放った。
「……っ、ぐ……!」
「シュウ様!」「シュウ!」
フィオナと、エルフ耳を悲鳴のように震わせたエレインが叫ぶ。だが、シュウは片手で彼女たちを制した。
「……来るな。これは、俺とガストンの喧嘩だ」
シュウは、ガストンの瞳の奥に、力への渇望ではなく「孤独」と「痛み」を見た。人工魔石が彼の生命力を食らい、魂を削っている。アルトリウスは、彼をただの『使い捨ての実験体』としてしか見ていない。
「……ガストン。……お前の匂い、凄く苦い。……泣いてるみたいにゃ」
黒い猫耳を悲しげに伏せ、ミーニャが闇の中から呟く。
シュウは確信した。ガストンが帝国に付いたのは、シュウを裏切るためではない。村に残されたシュウの家族や、かつての仲間たちが帝国に人質に取られ、彼は自分一人が泥を被ることでシュウを自由にしたつもりだったのだ。
「……馬鹿野郎が。一人で格好つけてんじゃねぇよ」
シュウは懐から、かつて村でガストンと分け合った『干し肉』の切れ端を取り出した。それは魔物肉でも何でもない、ただの安物の肉だ。だが、シュウはそれに、今まで出会った少女たち――フィオナ、リィネ、エレイン、ミーニャ、ルナの「想い」と、自身の【魔物喰い】の真髄を注ぎ込んだ。
「【魔物喰い:魂の還流】!」
シュウはガストンの大剣を正面から受け止め、その隙に『概念を込めた肉』を彼の口へと捻じ込んだ。
「ごふっ……!? げほっ、何を……っ!」
「食え! お前が忘れてた、本当の『味』だ!」
その瞬間、ガストンの脳裏に、村で二人で夢を語り合った日々の記憶が奔流となって流れ込んだ。人工魔石の冷たい魔力が、シュウの温かい魔力によって中和され、漆黒の雷が黄金の光へと浄化されていく。
「あ、ぁ……ぁああああっ!!」
ガストンの背中から、人工魔石のプラグが弾け飛ぶ。
崩れ落ちるガストンを、シュウはしっかりと抱き止めた。
「……味が、する……。……不味い、干し肉の……あの日と同じ、味だ……」
「当たり前だ。……おかえり、ガストン。……もう、一人で不味いもん食ってんじゃねぇぞ」
アルトリウスは忌々しげに舌打ちし、聖剣を鞘に納めた。
「……実験失敗か。だが、シュウ。次に会う時は、帝国の本軍が貴公らを『消去』しに来るぞ」
アルトリウスが光の中に消える。
静寂が戻った聖域で、ガストンは涙を流しながら、親友の肩で深く息を吐いた。
「……シュウ。……あいつ、もう大丈夫にゃ。……いい匂いになった」
ミーニャが優しく猫耳を寄せ、ガストンの手を握る。
裏切りと絶望を乗り越え、一行は真の意味で「一つ」になった。




