空っぽの座席と、牙を剥く親友
学園食堂を制覇し、英雄として祭り上げられるシュウたち。しかし、大盛り上がりの宴の席で、シュウはふと隣の空席に目を止めた。
「……そういえば。ガストンの奴、どこへ行った?」
学園に入学してからというもの、ガストンは「筋トレしてくる」「迷宮の偵察だ」と言っては別行動が増えていた。村を出た時から、彼は一度も『神装』を与えられていない。シュウが力を分け与えようとしても、不敵に笑って受け取らなかったのだ。
「……そういえば、見てないにゃ。……あいつ、美味しくない匂いがしてた」
黒い猫耳をピクリと動かし、ミーニャが肉を頬張りながら呟く。猫耳族の鋭い嗅覚は、ガストンから漂う「焦燥」と「鉄の匂い」を感じ取っていた。
「あいつ……まさか、一人で無茶な狩りにでも……っ!?」
その時、食堂の大型魔導スクリーンが強制的に切り替わった。映し出されたのは、学園の最深部『禁忌の聖域』。
そこに立っていたのは、帝国騎士アルトリウス。そして、その隣で巨大な大剣を構える、見慣れた背中だった。
「――よぉ、シュウ。遅かったな」
ガストンが振り返る。その瞳は濁った黄金色に輝き、全身から溢れ出す魔力は、シュウが知っている彼のものとは一線を画していた。
「ガストン、お前……! なんでアルトリウスと一緒にいる!」
「……置いていかれるのは、もう御免なんだよ。お前が王女様や亜人の女たちに『特別』を分け与えるたびに、俺はただの『荷物持ち』だった」
ガストンが地面に突き立てた大剣から、禍々しい黒い雷鳴が迸る。
「帝国の技術は凄ぇぞ。魔物を食わなくても、この『人工魔石心臓』を埋め込めば、俺だって神になれる。……シュウ、お前の【魔物喰い】と、俺の『帝国製・神殺し』……どっちが本物か、決めようぜ」
アルトリウスが冷酷に微笑む。
「彼は最初から、帝国の内通者として貴公の側に置かれていたのだよ。……村を出るその瞬間からな」
「――っ、ふざけるな!」
エレインがエルフ耳を逆立てて叫び、フィオナが震える手で剣を抜く。
唯一の親友だと思っていた男が、実は帝国の「観察者」であり、自ら進んで化け物へと成り果てていた。
「……シュウ。……あいつ、もう『人間』じゃない。……魔物の味がするにゃ」
ミーニャの言葉が、シュウの胸に重く突き刺さる。
かつて村で、唯一自分を人間扱いしてくれた親友。
その彼を、今度はシュウが「喰らう」ことでしか止められないという、残酷な運命が幕を開ける。
「……ガストン。……待ってろ。最高に苦い『お仕置き』を、今すぐ食わせてやる」




