聖剣の敗北と、不完全な代償
「……馬鹿な。複数の魔物概念を一人に定着させるなど、人道に反する禁忌のはずだ!」
アルトリウスが咆哮し、聖剣を振り下ろす。だが、フィオナが纏う『神装:三位一体』から放たれる紅蓮と漆黒の奔流が、その純白の光を容易く飲み込んでいく。
「シュウ様が示してくださったのは、禁忌ではなく『可能性』です!」
フィオナの細剣が、聖剣の腹を真っ向から叩き伏せる。
キラーベアの剛力、リィネの爆炎、そしてミーニャの神速。それらが重なり合った一撃は、帝国の至宝である聖石をも震わせた。
「ぐっ……おおおおおっ!」
アルトリウスが後方に吹き飛ぶ。白銀の甲冑には無数の亀裂が走り、その完璧な髪形は乱れ、エリートとしての余裕は微塵も残っていなかった。
「……ここまでか。だが、シュウ。その力は、必ず貴公自身の肉体を焼き尽くすぞ」
アルトリウスは捨て台詞を残し、煙幕の魔道具を叩きつけた。白い煙が晴れた時、そこに彼の姿はなかった。
「……逃げた、のか……?」
ガストンが呆然と呟く。
勝利。帝国最強の一角を退けたという、信じがたい事実。
だが、その直後だった。
「――っ、がはっ……!」
シュウが、糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。
「シュウ様!?」
「シュウ! なによ、しっかりしなさいよ!」
駆け寄るフィオナと、エルフ耳を激しく揺らすエレイン。
シュウの右腕は、多重合成の反動で赤黒く変色し、凄まじい熱を放っていた。魔物の概念を強引に調和させた代償は、調理者である彼の肉体に重くのしかかっていたのだ。
「……はぁ、はぁ。……大丈夫だ、少し……魔力が空っぽになっただけだ……」
意識が遠のく中、シュウは自分の右腕を【鑑定】する。
【状態:概念過負荷】
【治療法:高純度の聖属性、あるいは龍族の生命力による中和が必要】
「……シュウ。……苦しいの? ミーニャが、なめてあげるにゃ」
黒い猫耳を悲しげに垂らしたミーニャが、シュウの頬に自分の顔を寄せる。その温もりに触れながら、シュウは薄れゆく意識の中で次の目的地を定めていた。
「……北だ。北にある『王立魔導学園』なら……この腕を治す手がかりがあるはずだ」
「学園……。あそこなら帝国の手もすぐには届きませんわ。行きましょう、シュウ様。今度は、わたくしたちが貴方を支える番です」
フィオナがシュウの頭を優しく膝に抱く。
こうして、一行は自由都市を後にし、大陸最大の教育機関にして聖域――『王立魔導学園』へと向かうことを決意する。
だが、その道中。
森の境界線を見下ろす崖の上で、一人の少女が彼らを見つめていた。
背中には、まだ幼いながらも威厳に満ちた漆黒の翼。
「……あのアロマ。……珍しい、魔物を喰らう人間。……お腹、空いた」
新たな「飢え」が、シュウたちを待ち受けていた。




