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婚礼の日に、あなたは他の人の隣り  作者: 神宮寺 あおい@受賞&書籍化


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花婿の言い分

「その……結婚式はどうなった?」


 サミュエルにも申し訳ない気持ちがあるのだろうか。

 浮かべている表情は気まずそうではあったし、フレアの機嫌を気にしているような様が見てとれた。


「参列者の方々にはサミュエル様の体調不良とのことでお帰りいただいたわ。もちろん、手土産はつけました」


 手ぶらで返したとなればどんな噂を立てられるかわからない。

 リックベルト家は名だたる商会を有する家だ。国内の流通を握っていること示しておけば、下手な噂を立てれば自分たちの家に物が入ってこなくなることを理解できるだろう。


(とはいえ、すべての人の口を塞ぐことは難しいでしょうけれど)


「そうか」


 フレアの返答にサミュエルが一言だけ返した。


(結婚式をすっぽかしておいて、言うことはそれだけなの?)


 今まで、突然の予定変更であってもたいていのことは許してきた。

 いや、許してきたというよりも、あきらめてきたのだ。何を言ってもサミュエルの行動を変えることはできないのだと、何度も何度も思い知らされてきたのだから。


 しかし、まさか結婚式当日にまでこんな扱いを受けるとは、さすがのフレアも思っていなかった。


「それだけなの?」

「え?」

「だから、私に対して言うことは、それだけ?」

「何が言いたい?」


 いつもなら文句など一言も言わないフレアが責めるようなことを言ったからか、サミュエルの眉間に皺が寄る。


 それでも、今回ばかりはフレアも何も言わずに許すことはできなかった。


「今日がどれだけ大切な日なのかはわかっていたでしょう?」

「……もちろんだ」

「たくさんの人が都合をつけて参列してくださっていたのよ」

「それも理解している」


(理解していたら、普通は結婚式の直前に姿を消したりなんかしないのよ!)


 フレアはそう言葉を投げつけてしまいたかった。

 しかしフレアが今にも口を開こうとしたその瞬間、この場にいたもう一人が声を上げた。


「ごめんなさい! 私のせいよね」


 声の主がそう言いながら起き上がろうとする。


「リリー、無理をしてはいけないよ」


 すぐさまサミュエルが彼女の背を支え、ベッドヘッドとの間にクッションを置いた。目の前で繰り広げられる親しげな様子を、フレアはじっと見ている。


「私がこんな体だから、だから……」

「何を言うんだ。病弱なのはリリーのせいではないだろう?」

「……でも、私が倒れるから迷惑をかけてしまっているもの。健康なフレア様にしてみれば、病弱な体の辛さなんてわからないでしょうし……」


 フレアに申し訳ないと言いながら、彼女は続く言葉でさりげなくフレアを貶している。

 サミュエルは気づいていないようだったが、フレアはすぐにわかった。


 リリアン・ミュラーはいつだって、フレアに対して自分の方がサミュエルに大事にされていると主張しているのだ。

 リリアンが呼べば、どんな時でもサミュエルは駆けつける。

 それが今日のように大事な日であったとしても。


 もちろん、彼女も何の理由もなくサミュエルを呼び出しているわけではない。


 リリアンは幼い頃からとても体が弱く病弱で、大事にしていないと命すら危ういというのだから。


(でも、本当にそうなのかしら?)


 フレアがそう思ってしまうのは、今まで何度も、フレアと一緒にいる時を狙ったかのようにサミュエルが呼び出されてきたからだ。

 そしてサミュエルは、リリアンの願いを決して断らない。


 リリアンはそのことをわかっていて、フレアに見せつけるかのように呼び出しているように思えた。

 実際に、今までに一度だって彼女の健康が著しく損なわれていることはなかったのに。


(幼少期に病弱であったとしても、成長と共に改善されていくことも多いと聞くものね)


 たしかにリリアンの言うように、フレアには病弱だという彼女の苦しみはわからない。

 しかしだからといって、どんな我がままでも許されてしまうのは違うのではないかと思うのだ。


 ましてや、サミュエルとフレアは結婚するのだから。

 今までのようにリリアンを一番に優先されるのは困る。


(結婚して子どもが生まれたとして……サミュエル様は私と子どもをリリアン様よりも大切にしてくれるのかしら?)


 フレアはどうしてもその光景が想像できなかった。


「フレア、まさか君は体調の優れないリリーが悪いと言うのか? リリーだって好きで病弱に生まれたわけではないことはわかるだろう?」


 フレアは何も言っていないのに、サミュエルはそうやってフレアを責める。


「今日だって発作を起こして苦しんでいたんだ。あまりにも苦しそうだったから、命を落とすのではないかと気が気でなかったくらいだ」

「お医者様は常駐されているのでしょう?」

「医者は薬を処方してはくれるが、不安を払拭してはくれない。君はそんなことも思いやれないのか?」


 サミュエルの言葉に、フレアは唇を噛み締めた。


「カミラは? 彼女はどうしていたのです?」


 フレアはいつもならリリアンのそばにいるはずの彼女の母の名前を出した。


「カミラはリリーのために体に良い食材を街まで買いに行っている」


(本来なら母親であるカミラが看病するべきでしょう?)


 当たり前のように答えるサミュエルに、フレアはそう言ってしまいたかった。しかし、どうしても言葉にすることができない。


 どうせ何を言っても、良い意味にはとられないとわかっていたからだ。

 もしくは、リリアンがまた言葉巧みに悲劇のヒロインを演じ、フレアの言葉を否定的な言い方と断定するだろう。

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