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RHシルキー

 ヴァンデッタ・エージェント( 決闘代行 )、マンティコアの村は徹底した共産主義、私物としての財産はない、全てが村の、一族の財産。

 物はもちろん、技術や知識、経験さえも共通して一族のもの、個人で占有することは許されない。

 結婚という概念も存在しない、生まれた子供は一族で育てる、産みの親の意義は薄い、皆、自分の親が誰なのか、自分の子供が誰なのかを知らない、知っているのは一族の幹部のみだ。

 血が濃くならないように定期的に優秀な異人の遺伝子を強制的に受け入れる。

 幼少より格闘術や剣技を学び潜入任務を可能にする語学も必携、やがて完成した兵士は各国の国家や貴族、犯罪集団と契約を結び暗殺から戦争、諜報活動までを生業にする。

 世は未だ不安定、仕事の発注は多く生業を同じくする他の一族との抗争もまた日常にある、常に死亡者が発生する、優秀な素質を持つ者を鍛えなければならない。

その村の訓練場にシルキーはいた、長い銀の髪、大きくはない、性別不明な印象を受けるが胸の膨らみで女だと分かる、砂地の闘技場で相対しているのはファームの二軍兵士、セカンドとは言え実戦に投入され活躍している実力は折り紙付きの三人だ。

 シルキーが両手に持つ得物は金属製のトンファー、トの字型の金属棒で刃はない、打撃と突きに特化した武器だ、セカンドたちは短槍、ダガーソード、サーベルとトンファーよりも間合いが遠い、数と得物の不利をどう覆す?

 「始め!」 教官から合図の声がかかる、セカンドたちは三角に囲むと同時に武器を打ち込んだ! ギィンッ トンファーが死角の二本を受け止め、正面の一本は空を切った、力みのない鮮やかな受け技、そして春風のように舞う、緩やかな動きに見えるが緩急をつけた動きは的を絞らせない、シュンッ カッ カカッ カカカッ まるでドラムのスティックだ、必死で繰り出す三人の連撃を躱しながら音楽を楽しんでいる! 口元に笑みが浮かんでいた。

 「セカンドでは訓練にならないな……いや、ファーストであっても釣り合うかどうか怪しいものだ」

 呟いたのはマンティコアの当主リクドウ、シルキーの動きに感嘆の溜息を漏らした。

 「驚きました、あの人間離れした動き、我々が幾ら訓練しても到達することは出来ないでしょうな」

 そう言って顎鬚を掻いたのは幹部の一人ソウズ、達人の目を以てしても傷を負わすことは不可能だと理解している。

 「ラウド伯爵から出撃要請だ、我々とシルキーでな」

 「誰を狩るので……はっ⁉ まさかガラハット卿が失敗したのですか?」

 「その通りだ、サバリーニ邸で大暴れした挙句にターゲットの女を取り逃がした、我々の訓練をクリアして社会常識もある程度は身に付けたはずだったがメイドひとり狩れないとはラウド伯もガッカリしたことだろう」

 「信じられません、あのリユース・ヒューマンはシルキーと剣技なら互角、知能も高く人間社会への順応も完璧だった、総合力なら人間以上だと思っていましたが……それでガラハットは死んだのですか?」

 「行方不明だ、やはり頭を入れ替えても人間だったころの性根を受け継いでいるのかもしれん、猟奇殺人鬼が残っているなら目的が変わってしまう」

 「人間には従属的だと言われるリルフですがリユース・ヒューマンはその特徴が薄いように感じますな、どうやら生前の記憶を受け継いでいるのではと言う者もいるようで、やはり半リルフではなく半人間なのでしょうね」

 「ラウド伯は作戦に重大な障害、邪魔者が居たようだと言っている、今回の発注はパリスの実働試験と同時にガラハット捜索、更に本命の娘を連れ帰る事だ、もちろん障害の排除も含まれる」

 「ファーストから槍のアグニと剣のマヤを派遣する、シルキーの実働はあくまで試験、二人の監視下の元でのみ運用させる」

 「ガラハットが死体だった場合はどういたしますか?」

 「完全な証拠隠滅が必要だ、バラバラにして埋めただけでは足りぬ、灰にするのが理想だが、ラウド卿はサンプルにしたいから引き渡せと言ってきている、危険だ、ガラハット・ランスロット本人であることが露見すれば公爵家、ひいては国に追われる事になりかねない、ここは処分一択だ」

 「はい、公爵家が持て余した鬼畜息子を殺処分するはずのものをラウド伯の要望によりリユース・ヒューマンの原材料として提供したわけですが、ランスロット家は戦役で死んだと世間には公表していますし、今頃は大騒ぎになっているでしょう、まあ、偽物であると片付けるでしょうけれど」

 「今のところランスロット側からのクレームはない、生前の人格が影響するならパリスもまた心配ではある、剣術指南役の外孫の女、それが本家の嫡男の資質を上回っていた、それは組織にとって悪腫瘍だ、剣に対する欲がなくとも切除の対象になった、愚かな事だ、マンティコアなら最大の待遇で迎えられたに違いなかろう」

 「シルキーは音楽を奏でるように踊るばかりで人を打ちません、実戦に出して人を殺すには何かのきっかけが必要かと思います」

 「であれば覚醒させる舞台を用意するまで、ソウズ、演出は任せるぞ」

 「ははっ、畏まりました」

 カンッ カカカッ カンッ カカカッ

 演舞は続いている、セカンドたちの息は上がり足元も覚束ない中、シルキーは笑顔のまま金属のみを叩き続ける、決して相手に悲鳴を上げさせない。

 シルキーは言葉を発することが苦手だった、言葉も理解しているし声帯も操れたが人間と相対すると竦んだ様に固まり俯いてしまう、生前のシルキーに見られた特徴だ。

 リユース・ヒューマンはリクドウやラウド伯爵が考える以上に記憶の影響を受けている、オリジンとなる行動起源をラウド伯爵の命に従うと教え込んではいるがガラハット卿の行動はそれと合致しない部分が多い。

 多くの人間は自分が何故生きているのかを知らない、知るために多くの時間をかけて悩み探している、これだと思っても一つの躓きで揺らいでしまう、正解のない問いに道を見失うのは当然だ、それでも生きようとする、それでも探し続けるのも人間の強さだろう。

 リルフは少し違う、自我が生まれた時に生きる意味も核の中に刻まれる。

卵から生まれた鳥たちが最初に目にしたものを親と認識するように創造主がリルフの前に立っていればリルフを従属できる、ラウド伯はそう思っていた。

刷り込み現象、インプリンティングは野生の中で生き残るための戦略のひとつ、知能が高く感情を持ったリルフ達はどこで確信を得ているのだろう。

「そこまでだ!」

リクドウが訓練とは呼べない舞踏を止めた、疲れ果てたセカンドの三人が尻もちをついて大きく喘ぎながら汗を滴らせた、少女のような女はトンファーを両膝に揃えるとピョコンと頭を下げた、その顔は心底楽しかったと嘲笑や侮蔑ではなく笑っていた。


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