人の名前覚えるのって大変
咄嗟に文句が出てしまったが、プラシドさんを詰めていても何も解決しない。
見た感じプラシドさんよりは年上。そして身に付けているのは黒いケープ。うろ覚えの世界史とファンタジー由来の知識では聖職者のイメージのある服装だが…………
そういえば、似たような服装の人間をこの間教会を訪ねた時に結構な人数見かけた記憶がある。なによりその場で私たちを見たということは、神父さん?
「シャルロット嬢が王都へ向かわれて以来会っておりませんからね。忘れるのも無理ありませんか。自分は……」
「ちょ、ちょっとお待ちください。今この辺までは思い出しているのです!」
そういって腰の高さで手を広げる。
「半分ぐらいしか思い出せていないじゃないですか」
「水差さないで頂けます?」
折角エセ記憶喪失がバレない範囲に誤魔化しているのに。うっかり名乗ろうとしてくれたのを遮ってしまったのは多分私のプライドが邪魔しただけだろうけど……。
とはいえ、なんとなくシャルさんが説明してくれた内容が思い出せてきた気がする。
「うーん、確か天井画目当てに教会を訪ねたシャルさ……私と仲良くなった方で…………?絵の手解きをしてくださっていた方だったような……?」
フランベルジュ家へ戻るとなった時、こっちで会いそうな人ということでシャルさんから説明された中にそんな人がいた筈。
「おや、それで合っていますよ。あとは名前だけですね」
「弱りましたわね……特徴はそれなりに出てきますのに」
「そういうのベイカーベイカーパラドクスって言うらしいですよ」
なんだその変な名前の現象。
しかし困った。これ以上情報が出てくる気がしない。助けて心の中のシャルさん!
「ここまで来ると是非自力で思い出していただきたいところです」
「そうですねグランエル神父。彼女もだいぶ思い出してきたようですし…………あっ」
…………空気読まずバラさないでほしかったな。プラシドさん。
──────────────────────
「恥の上塗りですわよプラシドさん。あと一歩のところで邪魔することないでしょうに」
「面目ありません……でもあなたも意地をはって話を長引かせることないじゃないですか」
「それを言われると弱いですわ…………」
なんともままならないオチだったが、ひとまず私を助けてくれた人間の素性ははっきりした。
「あの時は炊き出しの指揮を終えて教会に帰るところだったのですが、ちょうどあなたと先程の青年が話しているところを通りがかりましてね」
「その節はどうもありがとうございますわ。しかし助けが必要とよくわかりましたわね?」
「あなたが心底気まずそうな表情をなさっていたもので」
面倒臭く感じていたのが顔に出ていたのか……今更ながら恥ずかしくなってきた。
「自分はああいった手合いには相手にされないものでね。他の人を頼ろうとプラシドさんを探し当てたわけです」
「相手にされないというと?」
「ただの友人や父兄を名乗っても引き下がりませんし、恋人を名乗ってもすぐ嘘だとバレるのですよ。神父は結婚できませんからね」
なるほど。それですぐプラシドさんを見つけられたのだから、私はかなり運が良かったのだろう。
というか、グランエル神父の言い方的に何度かナンパから女の子を助けた経験があるのだろうか?
「そうなると、シャルロット嬢が咄嗟に僕を恋人だと言ってあしらったのはいい判断だったのですね」
「アドリブには自信がありますから。プラシドさんが余計なこと言いそうになったときにはもうどうしてくれようかと」
「しばらく見ないうちに随分と物騒になりましたな。シャルロット嬢」




