私にナンパ対応のノウハウがあるとでも?
「……どうかしました?」
「あっ、いや……」
急に言葉を飲み込んだ私を、ナンパ男が怪訝そうに見つめる。
生前の私であれば、貰えるものは貰っておこうの精神で付いていっていただろう。悲しいことに実際にそのような経験をしたことはなかったが。
しかしこの身体で妙な輩と行動を共にするのは非常にリスクが高い。どの程度シャルさんの顔が知られているかわからないが、長くつるむとこれがシャルさんの身体だとバレかねない。
「ありがたいっすけど、今回は……」
「さあ、早くしないと席が埋まってしまいますから。いい店知ってるんです」
「あっ、ちょっ…………!?」
聞く耳を持たないナンパ男は、なんと私の手首を掴んで強引に歩き始めた。
もつれそうになる足を何とか支えながらされるがままに歩みを進める。非常に弱った。なんとなくこいつが実は誘拐目的の輩という展開はない気がするが、ナンパというのはこうも強引なやり口なのか。
声を上げたり、なんだったら弾幕の1つでも喰らわせてやれば早いのかもしれないが、否応なく衆目にさらされることになるだろう。お忍びなのに。目立つわけにいかない今の状況と相性が悪い。男性への免疫は強い方なのに役に立たないのが悲しい限りだ。
そうしてしばらく歩き続けていて、だんだん冷や汗をかいてきた。いつかレオンと対峙したときでもこうはならなかったのに。抵抗しづらい状況ってこうも不安に苛まれるものなのか?
「いっ、いや本当、そこまでしていただかなくていいっす」
「なんです?その変な口調。とにかく遠慮する必要ないですから」
「しつこい男は嫌われるっすよ!?」
「それなら好かれる努力をさせてくださいよ。損はさせませんから」
なんだこの無敵の人。わりとはっきり拒否したつもりなのだが。
あ、そうだ、いっそ弾幕を足元に置いて転ばしてやるのはどうだろう。それで転んだ隙に逃げると。名付けてハチスカ☆フォールダウン…………
「あのー……なにやってるんです?」
「「!?」」
行動に移す前に来たか!?救いの手!
「なにか外で用事でもあるなら、真っ先に僕の宿を訪ねて欲しかったんですが」
「……ってなんだ、プラシドさんではありませんか」
「なんだとは随分な言い様ですね!?妙な男に連れていかれていると聞いたから折角助けに来たのに!!」
なんか助けに来たプラシドさんの方が泣きたそうにしている。
いろいろ疑問はあるが、まぁいいか。
「…………というわけで、わたくしには相手がいますので。あなたの出る幕はありませんわ」
「別に僕そういうのじゃ「お茶の話はなかったことにしましょう?」
「ちっ、なんだ彼氏持ちかよ。今の時間全部無駄じゃねぇか」
急にキャラ変わるなこいつ。向こうからすれば私もそう見えているだろうが。
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「…………しかし助かりましたわプラシドさん」
「気にしないでください。その様子では勝手に外へ出掛けているのでしょう?なにかあったらマリーさんが泣きますよ」
ナンパ男が立ち去ったところでプラシドさんに話を振る。さすがにあの先生に顎で使われているだけあって察しがいい。
「それはなんとしてでも避けたいですわね……ところで、なぜ迷子になっていたわたくしの居所が?」
「ああ、それはこちらの方に教えていただきまして」
「…………?」
プラシドさんが手を向けた方には、膝下まであるだだっ広い黒服に身を包んだ男が控えていた。
「先程からずっといらっしゃったのですが、気付いていなかったようですね。」
「いやはや。先日教会でお見掛けした際は運悪くご挨拶することができませんでしたが、そちらのプラシドさんの顔を覚えておいた甲斐がありましたね。お久しぶりでございます。シャルロット嬢」
…………参ったな。
向こうはシャルさんを知っていそうな口振りだが、私には誰かまったくもってわからない。
顔見知りで出会う機会がありそうな人間については説明を受けているし覚える努力もしているのだが、こういう不意のエンカウントには弱い。
一応変装しているはずの私の正体に気付く辺り、親しい間柄なのではと思うのだが……
「あっ、えーっと…………」
「おや、もしかすると忘れられてしまいましたか」
鋭いなこの人。よく見ると横でプラシドさんの顔を逸らしている。もしかして、今の今までこういう状況になる可能性が頭から抜けてたのか?
「プラシドさん」
「……はい」
「この状況、察せた筈ですわよね」
「…………はい」




