王立ってことは授業料安いの?
「ついにこの日が来たっすね…」
「はい。事件関連以外にもどんな危険があるかわかりません。心してかかってくださいね!」
「ご武運を、ハチスカさん!」
電話を切って荷物の中にしまう。ここから先は多くの目の触れる場所…ガラケーを出したりするわけにはいかない。
そう、今日が復学初日である。
王立アルメリア学園。貴族向けの寄宿制学校であり、魔法学を必修として学科ごとに設定された科目の授業を受けるこの国随一の高等教育機関だそうだ。
しかしさすが王立。建物の豪華さが半端じゃない。地元にも私立のでっかい高校があったがそれの比じゃない程にでかい。学生寮もあるのだから当然と言えば当然なんだろうが…地方都市の出の私では気圧されてしまうな。
ちなみに私は公立だ。貧乏だったし…
「回復したようで何よりですな。シャルロット・ド・フランベルジュ嬢。」
「この度はご心配をお掛けしまして…あの、学園長でいらっしゃる?」
「いかにも」
中に入ると白髭をかなり蓄えた男が出迎えてくれた。
授業の前に学園長が学園を案内してくれることになっているのだ。
今回の件、学園の先生方は詳しい事情を知らされているらしく、バレないようにそれとなく私をサポートしてくれる手筈になっているのだとか。
これならまだあの父親が記憶喪失を隠して復学させようとしたのも小指の先くらいは納得できる。
「中央の一番巨大な建物が校舎で、両サイドの建物が学生寮ですな。まぁこちらの説明は放課後でよろしいでしょう。それで肝心の校舎内ですが…こちらを」
「これは…地図ですか」
なかなかページ数が多い。どんだけ広いんだこの学園…
「なにぶんこの広さですからな。口で説明しても覚えきれんでしょう。それでなんとかしてください。では授業も近いのでこの辺で」
「地図渡して終わりにするのは案内の体をなしてないのでは…?」
「…記憶を失っても変わらんようですな。穏やかながらもいろいろとハッキリ言ってしまうところは」
そう私から目をそらしながら言う。なりすましがうまくいっているなら何よりなんだが…
あの人そんな一面もあるんだな。今回のはつっこまれて当然だとは思うが。
「あなたの教室は3階の東側ですな。幸運を祈っておりますよ」
「それでは行って参りますね…」
「ご無沙汰しておりますシャルロット様!数週間もお会いできなくなるとは流行りの風邪とは恐ろしいものですね!とはいえ見る限りでは元気になったようでなによりでございます!」
学園長と別れた後、教室に入った途端女の子に話しかけられた…というか捲し立てられた。おそらく御本人様たちから聞いていた友人の1人だ。名前は確か…
「えーと…久しぶりね、ルシエラ」
「はい!ルシエラでございます!心なしか雰囲気も変わったような気がしますがやはり久々の学園に不安もあるのでしょうか?不肖このルシエラがついておりますのでご安心くださいませ!」
ルシエラ・アイトーン。アイトーン伯爵家の長女で私の親友らしい。御本人様によれば、
「貴族の身にありながら下心無く人と関われる太陽のような子ですわ…時折私に向ける感情が強すぎるようにも感じますが」
とのことだ。そしてなにより、
「シャルロット様!こちら休まれていた期間の授業内容をまとめたノートでございます!どうぞお受け取り下さい!え?私の勉強に支障はでないのか?ご安心下さい、こちらはシャルロット様専用にご用意したもので私のノートは別にありますから」
「シャルロット様!休まれていた間に学園の人事異動があったらしく、新たに職員になった者もいるようなのでリストを作ってみました!これを見ればどれが誰かバッチリです!」
滅茶苦茶有能なのだ。
しばらくすると授業が始まった。教科ごとの教室移動は学園長にもらった地図でなんとかなり、授業中は簡単な質問にしか当たらず、ルシエラがまとめていたノートのお陰で何やかんやついていけていた。
ルシエラはともかく、これもサポートの一環なのだろう。あの父親は想像以上に親バカなのかもしれない。
しかし演技に不安があったのに意外となんとかなるものだなぁ。火事場の馬鹿力という奴か。
そんなこんなで、私は初日の学園を乗りきったのである。