呑気な単独行動
「……なんか、久々にちゃんと事件捜査してる感じがありますねぇ」
「最近は女神様の書類仕事を手伝ってばかりでしたからね……」
印刷したナギサからの情報を睨みながら答える。
送られてきた中にはプラシドから聞き出した内容に加え、ナギサが屋敷で独自に調べた物も含まれます。恐らくマリー辺りを頼ったのでしょうが……聞いた内容を丸写ししたであろうプラシドからの情報に比べわかりづらい。
まぁ彼女が諜報活動の経験があるはずがありませんし、そこは仕方がないのでしょうね。
「シャルさん、このナントカ商会ってなんですか?脱税疑惑があったみたいですが」
「女神様、そういった表現は大抵がわざとだと相場が決まって…………ああ、こちらですか。マーシレス商会といって輸入食材の取り扱いを行っていると記憶しておりますわ」
わたくしは詳しくありませんが、かつては我が家も料理人の要望に応えるため取引を行っていたそうです。入手が困難な海外の香辛料の調達など。ただ当代の会長になってからは黒い噂が出始め…………
結果、それらの噂が事実であるか判断がつかないうちから早い段階で関わりを断ったという話です。
「こちらの情報によれば、強制力のある手段で証拠固めをしようとした矢先不可解にもストップがかかったと」
「そんなことになっているなら、そりゃあ権力側になんらかの異変が起きていると考えるでしょうねぇ。レオンとやらの言っていたのはこれでしょうか?」
「自然な流れだとは思いますわ。加害者の彼がそれを私たちに教える意図は読めませんが」
「取り締まる側がこの体たらくでは、世も末ですねぇ」
「悲しいですが、同感ですわね…………」
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「……………………迷った」
プラシドさんの宿へ向かおうと散策を始めた私は、まぁよく考えれば当然ながら、迷子になっていた。今頃自称女神もシャルさんも資料とにらめっこして頑張っているだろうに私がこんなんじゃあ情けない。
泊まっているという安宿の場所は地図付きで伝えられていたのだが、土地勘のない私にとっては焼け石に水程度にしか役に立っていない。
まぁこの一人行動の趣旨的にも、土地勘のなさは百も承知だったのだが…………
「しかし、ここまで女の子の単独行動でなにか危険にさらされるでもなく。さっすがシャルさんとこのお膝元と言うべきか、治安がよくていいっすねぇ」
さっき道を間違えてスラム街らしき場所に入り込んだ時も炊き出しをやっていた。教会を訪ねた時にも見たような白服の連中が仕切っていたからおそらくジュダイナ教が主催なのだろう。
治安維持のためにこういうことを常日頃からやっているからこうしてじっくり歩き回れるわけだ。
そんなことを考えつつ歩みを進めていたら…………
「…………わきゃあ!?」
「おっと失礼、大丈夫ですか?」
前から歩いてきた人物に肩がぶつかり転んでしまった。あまりこの身体で尻餅をつくようなみっともない真似をしたくはなかったのだが。
ぶつかった男の手を取りながら立ち上がり、服についた砂を落とす。
「こりゃいけない。こんな美しい女性を危険な目に……怪我はないですかね?」
「な、ないっすけど……」
いきなり初対面で美しいとか言われるとどうにも困惑するな。シャルさんの身体である以上その手の反応は当然ではあるのだが、蜂須賀渚としてはそういう対応に慣れているはずがない。
「失礼のお詫びに、どこかでお茶でもしませんか?お代は持ちますから」
「それはどうも………………ん?」
………………あ、もしかしてナンパという奴かこれ。




