家出……は言い過ぎかもしれないが
「どういうことですかこの報告は!」
「シャルさん落ち着いて!あんまり怒ると肌に悪いですよ!」
「いやシャルさん今幽霊じゃないっすか」
朝からシャルさんの怒号が響く。普段冷静沈着なのに珍しいと思いつつ、身内の不始末を聞かされたのでは気が立つのも無理ないと納得もする。
プラシドさんが友人から聞き出した我が家の話を、昨日紙で纏めて受け取っておいた。いろいろと頑張って内密に情報共有できるよう根回ししたのだが、それについては割愛させてもらう。
「…………ふぅ。失礼、取り乱しましたわ。しかしこんなこと初めてです。お父様も人間ですからミスをしないとは言いませんが、実害が出る程にチェックが働かないなんてことは……」
「まぁ異変の例として挙げられてるぐらいっすからね……マリーも近頃屋敷でうっかりミスが多いとかなんとか言ってたっすし」
「判断力を鈍らす何らかの何かでもあるんでしょうかねぇ」
「なんすか何らかの何かって。そこがわからなきゃ意味ないっすよ」
「誰かの意図があるなら得をする何者かがいそうですが…………ひとまず、こちらについてはわたくしにお任せを。ナギサは今日はやることがあるのでしょう?」
そうなのだ。前々から考えていたあることを今日実行するつもりでいるのである。
シャルさんは境遇的にも状況的にも、出歩くには護衛が欠かせない。実際の強さ自体はシャルさんの方が上なことも多々あるそうだがそれはそれ。要するに出掛ける度に護衛の段取りを付ける必要があってとても面倒くさいのだ。
なのでどこかのタイミングでお忍びで1人街へ出ようと計画していた。プラシドさんとじっくり話し合うにも1人の方が都合がいいし。
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「私としてはー、本当は止めるべきなんですけどねー」
「ごめんなさいね巻き込んで。ちゃんと戻ってくるから」
大人し文学少女モードにプラスで、まぁ1人で出歩いててもおかしく見えない程度の庶民派な服を見繕っておいた。
今回はお試しとはいえ、いない間に誤魔化しが効くようマリーを買収済みだ。マリーがシャルさんを慕っているのを差し引いても、いいとこの使用人の大人を納得させるだけの手当をポケットマネーから出せるシャルさんの余裕に若干引いている私がいる。私生前、お小遣い大した額もらってなかったんだけど。
……それでも、お父さんの方が好きに使えるお金が少なかったらしいからどうしようもない。お父さんちゃんとストレス発散できてたのかな?
「それじゃあ行ってくるわ。ハチスカ☆スカイウォーク!」
なんだか久しぶりに魔法を使った気がするが、正面から出ていくとバレそうなので跳んでいくことにする。
あんまり長時間空の上は集中力が持たないので、最短距離を割り出しておいた。
「…………ほいっと。高所に恐怖心がなくて本当に助かったっすね」
人気のない場所を見計らって、無事着地に成功。高所への抵抗のなさは幽霊時代の経験故だが、この分ならもっと多用してよさそうだ。
「さて、ひとまずプラシドさんに会いに行ってみるっすかね。まだ宿にいるか知らないっすけど」




