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フランベルジュ家の人々

 あの後も教会内の展示物を巡り、今夜こっちの憲兵所属の知り合いに会うと言うプラシドさんとこっそり連絡の算段をつけて帰ってきた。


「お嬢様ー?なにか思い出したりしましたかねー?」

「んー……なんともないわね…………」


 そりゃあ記憶喪失が嘘な以上なにかがあるはずもないのだが。 


 …………いやでも、よく考えたら記憶喪失自体は嘘ではないのか。死ぬ直前……高校二年生の時の記憶がかなり曖昧で、死因すら思い出せない始末なのだから。


 学園の生徒には平静を装い、事件を知る人物には記憶喪失を装い、しかし部分的には本当……なんてややこしい状況だろうか……


「ばっきゃろう!食材の納品は明後日たぁなんつう言い草だ!するってぇとあれか?ウチの使用人は3日に一度は飲まず食わずだってぇのか!?」

「!?」


 帰宅して早々どこからか怒号が!?場所は……この間見た台所方面?


「足りねぇ分はその日の内に!不足がなくても指定の日にゃ注文!特に生鮮食品の発注は確実にやれと常日頃から言っとろうが!」

「料理長ぉ……それはその通りなんですけど、せめて自分の伝達ミスを棚に上げないでくださいよぉ」

「………………それは本当に悪かった」


 …………よくわからないが、これ怒る側もなんかやらかしてるな。


「あー、そういえば切らした食材があるとのことで料理長が今朝からご立腹でしたねー。最近使用人で多いのですようっかりミス」

「そんなに多いの?」

「皆疲れて思考力が鈍っているのでしょうかねー。旦那様もなかなか頭が回らないと悩んでおられるそうですし、かくいう私も掃除する場所を間違えたり…………」

「それはあなたの生来の気質でしょう、マリーさん」


 突然マリーの背後から声がしたかと思えば、その主はマリーの後頭部をひっぱたいた。


「あいたっ!?ちょっとー、ひどいじゃないですかマチューさん」

「マチュー…………?あら?」


 ぼやくマリーの裏から出てきたマチューと呼ばれた男の顔に、私は覚えがあった。


 確か…………この間小豆を預けた料理人。


「実はお嬢様を探していたんですよ。例の物がようやく満足いく出来になりまして」

「本当!?」

「なのでひとまず、お嬢様と使用人の方々に食べていただこうかと。料理長にも頭を休めてもらいたいですしね」

「それでは私の方で婦長にも話を通しておきますねー。折角のお嬢様からの御厚意です、臨時の休憩にしてしまいましょうー」





──────────────────────





「最近マチューが仕事終わりになんかしてると思ったら、コイツを作ってたんだな。うめぇなこれ」

「お嬢様!この菓子はお嬢様が見つけてきたのですよね?なんという物なのでしょうか?」

「二重焼きというの」

「あれ?頂いたメモには大判焼きと書いてありましたが」

「えーっとあーっと…………まぁ、表記揺れみたいなものよ。とりあえず二重焼きということにして」


 あの時の商人のおっさんには悪いが、この場では二重焼きで通させてもらおう。幽霊の適応力はとてつもないとはいえ、こういうときぐらい故郷を感じたい。


 もっとも、女神謹製言語チートを通している以上この世界で本当はなんと呼ばれているかはわからないのだが。


「暇そうなキッチンのメンバーも誘って、今いる人の分は大体作ったので小豆も残り少ないですが、旦那様たちに出す分なら十分ありますから安心なさってくださいね」

「しっかしマチューよ。この輸入品だっつー豆の入手が安定すりゃあ、定期的にここで出すのも視野にいれていいんじゃねぇか?」

「でも料理長ぉ、このレシピ型付きの鉄板が必要とか書いてますよ。その用意なんてないでしょうにどうやって作ったんですかねぇ?」

「どうも成形する用の丸型さえなんとかなればフライパンでもいけるみたいで」

「はいはーい!俺!その型作り俺がやりました!」

「あっ!おめぇ肝心の料理の方は半人前の癖にこんな工作ばっか上手くなりやがってよぉ!」

「そこの男衆!さっきから目に余る騒がしさですよ!お嬢様の面前で!!」

「婦長ー、生地が口元についたままじゃ締まりませんよー」

「こらマリー!余計なこと言わないでよろしい!」


 

 なんやかんやお土産を堪能してくれているみたいでなによりだ。


 しかし予想外に賑やかな人々だな。シャルさんところの使用人たちは。

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