閑話:恋を知らない乙女?たち
「ナギサはどなたかと恋仲になったことはありますか?」
唐突だが、シャルさんにこんな質問をされた。彼女がこの手の話題に興味があること自体が意外である。
「残念ながら浮いた話一つない一生だったすからね……急にどうしたんすか?」
「ナギサは、わたくしが婿を探していることはご存知のはずですわよね」
「なりすまし初期に説明されたっすからね」
フランベルジュ公爵家の次期当主であるシャルさんは婿入りする男を探している真っ最中。
家を取り仕切るのはシャルさんといってもその伴侶だって当然能力は求められるし、子孫の魔力を考慮すると血統にも気を配る必要があって大変なのだという。
「魔力を扱える量は遺伝に左右されるそうですから。シャルさんの家はほぼ最高水準の血統ですし、かといって身内同士で子を成すリスクはまた別に存在するのでねぇ」
「優秀な方は既に後継ぎであったりもしますし、意外と思われるかもしれませんがなかなか決まらないのですわ」
なるほど。やはりこの辺りは私とは縁遠い世界の話だと実感する。そもそも私が死んだときにはまだ結婚が出来る年齢ですらなかったはずだ。
……まぁ、家庭の事情で結婚にいい印象がなかったのも強いけれど………………。
「打算で決める結婚といえどまっとうな信頼関係を築きたい思いがあるので、同性の方から男女の関係について聞いてみたいと思っていたのですが……」
「聞く相手間違えたっすねシャルさん。気持ちはわかるっすけど」
「この国は自由恋愛が主流なのでしたわね」
「ここ数十年の話ですがねぇ。恋バナが好きなのは大昔から変わらないとも感じますが。ちなみに蜂須賀さん恋愛願望とかってあるんですか?」
「今も昔もないっすねー。少年野球やってて男友達はむしろ多い方なんすけど、恋愛的にどうこうって感情になるわけでもなく。それにもう私死んじゃってるっすから」
高校生にもなればそういう恋愛トークをするクラスメイトが多くいたが、その手の話をする連中とはつるむ相手が違っていたし。
友達とそういう話をすることもあったけれど、クラスの陽キャたちほど願望は強くない子たちばかりだった。もっとこう……穏やかな集まりだったと思う。
「そういう女神様は恋愛経験とかないんすか」
「生憎私もそういう話は…………別に私にも交友関係の一つや二つありますけど、私たちは性欲がない分そもそも存在からして恋愛するようなタイプじゃないんですよねぇ。例外はあるかもしれませんが、どうにも親愛の情を超えないんです」
「食欲はあるのに?」
「あれは別にお腹がすいてるわけではないですから」
「以前移動中に寝過ごして困ったという話もしておりませんでしたか女神様」
「あれはほら……人間に擬態していたせいでして…………恥ずかしいのでその話は忘れてください」
「あなた羞恥心とかあったんすね」
こうして聞くと自称女神の生態もだいぶ謎が多いな。見た目は完全に人間なのだけれど。
「シャルさんはどうすかね?結婚がどうこうは置いておいて、恋の経験とかは」
「わたくしも大してありませんわ。学園も共学とはいえ殿方と関り合いになることは少なかったですし……それにあちらでは既に相手がいる方も多いわけですから。そういった時はある程度距離を保つ必要もありますし」
「…………わりと私その辺り気にせずに行動してた気がするっす」
同世代で学園でよく話すのはジャックぐらいなものだが、正直立場を考えた立ち回りが出来ている気がしない。テオドールは年下だろうし幽霊だからノーカウントとしても。
「仕方がありませんわ。今の時点でもナギサはよくやっていると思いますわよ?」
「蜂須賀さんが男に靡くタイプじゃなくて助かりましたよねぇ。あのジャックって子とか顔は良いそうじゃないですか?」
「ああ、あの方は……わたくしもたまに絡まれましたが、間違いなく悪い方ではないものの少し面倒な方でしたわね…………」
おお、御本人様からの人物評価を聞けるとは。そういえば入れ替りよりも前から知り合いだったのだっけ。
誰からもそんな評価なんだなあの王子は。肩書きに半信半疑なところはあるけれど。
「もし仮にジャックが婿にあてがわれたらどうするっすか?」
「………………ないとは思いますけれど」
「今すごい顔してましたよシャルさん」
「全力で手綱を握らなければならなくなるでしょうね……。無駄に有能な分何をしでかすのだか」
「強いのは身をもって知っているんすけど、いまいちその辺よくわからないんすよね」
「出番の関係で大して面倒臭さと実績が可視化されていない弊害ですねぇ」
「なに言ってんすか?」
言わんとしていることはなんとなくわかるが、出番がどうとかはよくわからない。たまにこういう発言が出るんだよな自称女神……
…………そういえば。
「ふと思ったんすけどシャルさん、今の入れ替りの最中に婚約についてなにか進展があったら、私どうすりゃいいんすかね?」
「!?…………確かに、その問題がありますわね……。どうすればいいのでしょう?」
なんてこった、ただでさえ調べることか多いのに、ここにきて不安要素が発掘されるとは……。
「最悪ナギサの判断にお任せしますが」
「けれど蜂須賀さん、男を見る目あるんですかねぇ?」
「喧嘩売ってるんすか自称女神」




