Sideアンジュ 嵐が去ってまた嵐
「…………やっと放蕩息子と愉快な仲間たちは帰ったか。元気がよくていいもんだが、弟子の奴め、本当にボコボコにすることないのに」
後頭部を擦りながら、散らばった書類を片付ける。
私から条件を提示したあの後、彼らがひとまず退出しようとしたところで、思い出したかのようにジャックから右ストレートを喰らった。それ自体は私からすれば蚊に刺されたようなものだが、その勢いで頭を机にぶつけたからなかなか痛い。普段飄々としてるくせに律儀な奴だ。
得意分野は分析とかそっち方面とはいえ、奴も何だかんだで戦闘はいけるクチ。感情任せの仕返しのわりにちゃんと強化もしてあるし、私が相手でもなければ大惨事だ。今度セビの字にやってくんないかな。あの悪党に権力の鉄槌をどかーんと。
「しっかしまぁ、こいつの鑑定も手伝ってもらおうと思ったのに、ああいう絡み方してるんだったら勝手にバラすわけにもいかないもんな……。一歩間違えたら私の首が飛ぶ。なーんで教職に逃げた奴に生殺与奪の権を握られなきゃならんのだ。もっとかき乱させろよ」
セビの字からの依頼は誘拐事件の遺留品にあったよくわからん魔法関連と思わしきメモの解析。当然シャルロットとかって娘の現状も聞かされているが、あの轟音小娘の求める答えが私の元にある確証もない。
もし違っていたら私は情報を漏らし損だ。セビの字が困ってもなんとも思わんが、流石に危険を冒した意味もなかったというオチは嫌…………
「…………?」
戸を叩く音がする。ウチの研究員なら無遠慮に入ってくるはずなので恐らく客人。今日他に訪ねてくる奴は確か…………いたなぁ。彼女が。
「入っていいぞー。ヴィルジニー」
「……はい。失礼します…………」
相も変わらずおどおどした娘だ。来歴を思えば致し方なかろうし、出来れば原因であろう彼女の事情もなんとかしたいところなのだが……。
まぁ半分は生来の気質でもあるだろう。
「どうかな体調は。特に体内の魔力の調子は」
彼女が“ある事情“から、定期的に私の元を訪れるようになってしばらく経つ。とりあえず、いつもの調子で話を切り出してみる。
「どうなのでしょう……一時、普段より気分の悪い日があったのですが、すぐ収まったので何もわからず…………」
…………ふむ?歯切れが悪いが、初めての反応だ。もう少し突っ込んでみようか?
「その時期は特別な何かがあったりしたのかな?思い当たることがあればなんだって構わないぞ」
「関係があるかはわからないのですが…………、その直近の記憶がとても曖昧で……自分が何をしていたか、思い出せないんです」
「同じ時期急に先生に呼び出されて…………深夜に、何か怪しい動きをしていないかと聞かれたことがあったんです……。知らないと答えたものの、不安が尽きなくて…………」
「なるほどな……そりゃ確かに不安にもなるだろうな」
想像以上に意味深なことになっていて驚きを隠せない。興味は尽きないが、不安がっている彼女の目の前で興奮するほど人でなしでもないので頑張って平静を保つ。
しかしこんなところでも異変が起きているなんて、なんとまあ暗雲立ち込める学園であろうか。
…………待てよ?
「ちなみに、ヴィルジニーにその質問をした教師って誰だったか覚えてるか?」
「……?えっと…………セビーチェン先生……だったと思います」
「……………………なるほどね」
これはちょっと私も本腰入れて取り組まなきゃいけなくなりそうだな…………。腹いせにセビの字に酒でも奢らせるか。
まさか台詞が入るまでこんなにかかるなんて…………




