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驚きのエンカウント

 小豆を託した料理人は人様に出せる水準になるまでしばらく試させて欲しいと、後を自分に任せるように言った。


 実際にその場で、もらったレシピを元に作った試作品を食べてみたのだが、最低限のあんこらしさはあるものの焦げた苦味も強く、改良の余地がありそうだったので納得だ。さすがに向上心が高くて感心する。そんなこんなで、お土産についての話は私の手を離れていた。


 二重焼きを皆に振る舞うのはまた今度にするとして、しばらくは父親に勧められたようにシャルロットさんゆかりの場所にでも行くことにしよう。そもそもこの土地についてまだまだ知らないことが多いしのでは異変が起きても気付きようもないし。


「ねぇマリー、少しばかりこの街を巡ってみようと思うのだけど、どこへ行くのがいいかしらね?」


 尋ねたのは、公爵家の中で比較的若くシャルさんとの付き合いも長いと母親に紹介されたメイドさん。


「そうですねー。元のお嬢様ゆかりの場所を訪ねてみるのがよさそうなのですがー、やはりこの地は広いですから候補がなかなか多いですからねー」


 糸目の癒し系お姉さんといった風貌に違わぬ喋り方の彼女は、腕を組んで考え込んだ。


 記憶喪失絡みで気を遣わせるのは毎度申し訳ないし、シャルさんに対する忠誠心にただ乗りするのは失礼とも感じてしまう。無論不可抗力なのだが……。



「あっ、でしたらこちらの教会を訪ねてみるのなんていかがでしょうかー?」

「ふへ?わたくし、教会に何か縁があったの?」

「お嬢様はジュダイナ教そのものへの関心は人並みでいらっしゃいましたがー、宗教画などの芸術作品にはかなり興味を持たれていたのでー、よく足を運んでらしたんですよー。覚えていらっしゃらないようですがねー」


 芸術方面で興味があったのか。確かにシャルさんの趣味はコーヒーを淹れること、それから絵を描くことだと聞いている。思い返してみれば、ヴィルジニーさんストーキング大作戦の時の似顔絵はかなり上手で驚いたことがあった。


「……そうね、街の様子を眺めつつそこを訪ねてみることにしましょう。マリー、支度を手伝ってくれる?」

「承知しましたー!」


 宗教に対する関心、というか信仰心はシャルさんと同じかそれ以下といったレベルで低いものの、実際この世界でどういう存在かという観点では興味もある。如何せん身近な神があんなだし…………。


「………………ふえっくしょい!」

「風邪でしょうか?女神様」

「いえいえ、私たちは病気しませんから……私のシックスセンスが、誰かが私の噂をしていると言っていますねぇ。おそらく美人で気の良い女神だと褒め称えているのでしょう」

「その自信は一体どちらから…………?」


 しかし、何かと教会の類が話題にのぼるな。王都の方では見かけただけではあるものの、その規模の大きさが窺える。先生の話では昔ほどの力はないということだけれども。


 まぁずっと屋敷の中で息が詰まっていたところだし、良い観光の機会。はてさてどんな街が見れるのだか…………








──────────────────────







「………………で、なぜここにプラシドさんがいらっしゃるのでしょうか…………?」

「観光です。建前ですけどね」


 場所はジュダイナ教、テトラゴナム教会。


 困惑の顔を隠せないまま、目の前の男の返答を受ける。まるで長編漫画で単発の話が実は本筋に絡む話の前座だったことがわかった時のような衝撃が私に走っていた。


 思い立ったが吉日と思い、マリーと護衛を連れて教会へ向かった私が目的地で見つけたのは、見知った顔の下っ端憲兵だった……!



 …………え?本当になんで?

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