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下っ端プラシド小旅行

「あの娘、公爵家の方に帰っているようですが……いかがいたしましょうか?」

「…………ふむ」


 学園の方での実験は滞りなく済ませた頃に舞い込んできた機会。もとよりあの家を標的に動かしている駒がいるなかでの帰郷はかなり好都合だ。


 あやつの研究成果も順調に我々が吸収しているのだ。ここらであやつの目的を果たしてやるのも悪くないし、さらなる成果物をもたらしてくれれば尚良い。


 本来あの様な者の手を借りるのは好かんのだが、あやつの提供してきた魔法は素晴らしい。それに退路がないことも良い。二つ返事で加わることだろう。


「あやつと……それからテトラゴナムにいる駒を呼べ。この機を存分に活かそうではないか」






──────────────────────




「文化の発信地とよく耳にするけれど、せめてちゃんとした休暇でここに来たかったな…………」


 一応の上司であるセビーチェンさんの命を受けてこの地に降り立った自分、プラシドは、重い荷物を支え続けて凝り固まった肩を回しながら呟いた。


 あの人の実力も信念も信じてはいるが、あの無茶振りにはほとほと困ったものだ。そもそもなぜ、今は憲兵ではなく教職に就いている人間に給与をどうこうする権利があるのだろうか。


 せめて昼行灯くらいの立場がいいと教師に転職したというわりには、悪党っぷりが抜けていない気がする。

 

「さて、まず宿を確保してこの荷物をなんとかしないとな……こっちの知り合いと会う算段もつけなきゃいけないし」


 しかしこうして眺めていてやはり美しい街並みだと感心する。王都も栄えているし見た目のよい観光名所も多いが、長い年月の中変化を重ねて、どちらかといえば混沌とした場所だ。それと比べ、古き良き景色を守ろうとする意識の強いこの地は違った趣がある。


 それは保守的ともまた違った話で、変化を受け入れられる人種でありつつ伝統に拠り所を求めるような……芸術家でもこの地の住人でもなんでもない自分の表現が正しいのかはわからないが、そんな精神が根付いているのだろう。王都の人間の方はどちらかといえば移り気だ。薄情とも言う。


 まぁ、そんなような土地は当然人気の観光地でもあるわけで…………頭の痛くなるような相場の宿泊費が自分を襲ってくる。


 最終的には経費で落ちるらしいが、別に自分のそこまで手持ちは多くない。自分の給料は生活には当然困らないレベルではあるものの、高給取りかと言われれば多少疑問符が付くぐらいの水準。給料日前の若い憲兵には痛手ではある。それを思うと、結局安宿を探さざるを得ない。


「とりあえず路地の方の宿をあたって、部屋取れたら試しにこっちの有名な建物でも見てこよう……一応仕事だし、今日のうちに観光は済ませないとな」


 金のかからない観光といったら建造物の見学ぐらい。事件が一段落したらもう少し余裕のある旅行がしたいところだ。


 そういえば、シャルロット嬢も久々の……というか、記憶喪失のことを思えばこの街でゆっくりできる機会は初めてと言っても過言ではないはず。


 目を覚まして以降の生活はわからないことだらけで大変だったと聞くし、案外彼女もこの街を巡ったりするのかもしれないな。


 

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