Sideルシエラ 師匠というには自由人すぎる
「お前らがセビの字が言ってた子か?まったく近頃は際限なく仕事を寄越しやがって、ロクに執筆が進みやしない」
「すみません、こんな用事で訪ねてしまって…………」
ジャック様に協力を仰ぐべくその師匠に取り次いでいただいた私とテオドール。そうして研究所の戸を叩いた私たちを迎え入れたのが、目の前にいる長身の女性。
「先に名乗っとくか。なんとも名誉なことに第二王子ジャックの師匠をやっているアンジュという者だ。言動が不敬だと思っても聞かなかったことにしてくれ」
「アンジュ様ですね!よろしくお願いいたします!」
「よろしくー」
学者と思われる方々が大勢いらっしゃるなか、資料で散らかった部屋にたった一人君臨されている姿からは大物らしさを感じます。ツリ目の通り棘のある口調とは裏腹に、ちょっとした用事で訪ねた私たちに紅茶を出してもてなしてくださっているあたり、優しい方なのでしょう。
……しかし、テオドールの分まで用意していただくとは。
「ねぇ、僕飲み食いできないんだけど」
「そうなのか?なら後で私が飲む。しかし災難な坊やだな。その年で幽霊の身か」
話自体は先生がしていたのかもしれませんが、幽霊の存在を素直に受け入れて自然と茶を差し出せるとは、ジャック様の師匠というのも納得の順応性です。私ですら未だ信じたくない面がありますのに。
「その年って……もしや、彼の姿が見えているのですか?」
「そういやセビの字にゃ見えなかったのか。やはり魔法の習熟度が視認できるかの鍵なのか?だとすると魂と仮定された物は魔力と強固に結び付いているという推測は正しい……?その人形みたく物体に干渉できるのもそれ故……ああ畜生、あいつから押し付けられた仕事さえなければこのまま研究に戻れるのにな!あの悪人!クソ公僕!」
「お、落ち着いてください!?」
「そうだ、君らはあの放蕩息子に用があるんだろ?呼びつけてやる代わりにそこの坊やを貸して……」
口が物凄く悪い!先生になにか恨みでもあるのでしょうか!?テオドールを交渉材料にするのはもとより計画していたことですが、流石に不安になってきましたよ!?
「……放蕩息子呼ばわりはやめろといつも言っているじゃないですか、師匠」
「「!?」」
「遊び呆けてる王子様なんだから大体あってるだろ」
「そこまでだったら自覚はありますけどね、そもそもあなたの息子じゃないし財産を食い潰すまでは流石の僕もまだしてませんよ」
「まだって言ったよねあの人」
「言ってましたね……というか、この声はもしや、」
最近シャルロット様に絡むようになってからの親交なのでそこまで馴染みはありませんが、それでも覚えがあります。まさにこの度連絡を取ろうとしていた人物、
「やぁルシエラ、なんだか知らない子も連れているようだけど……一体どうしたんだい?」
「やはりジャック様……でしたか!」
まさか訪ねた初日に遭遇できるとは、学園内での神出鬼没ぶりが嘘のようです。アンジュ様からの悪口を察知して来たのかもしれません。
「この声のでかい娘はお前に用があるんだとよ」
「声のでかい娘!?」
「ルシエラが僕に?」
「それで理解できるのですか!?」
初対面でいきなり声のでかい娘呼ばわりされるとは思いませんでしたが、それがジャック様に通じるとは余計に思いませんでした。共通認識なんですか……?私の声の大きさは…………。
「ねぇ声の大きい人」
「嬉々としてその呼び名を使わないでください!テオドール!」
「揃ったんだから本題に入ったらどうなのさ。せっかくだしアンジュにも聞いてもらって」
……………そうですね。人を集めるのはスタートラインにすぎませんし、シャルロット様の謎に辿り着くための時間を惜しみたくはありません。
「……実は、ジャック様の知見をお借りしたいことがありまして…………」




