心当たりは山のように
「蜂須賀さんも、もうシャルさんのご実家に帰られた頃合いでしょう。彼女はお土産に小豆を持ち帰ったということで、蜂須賀さんが大判焼きならこちらはたい焼きを用意してみました!」
「あら?ナギサは二重焼きを食べたのだと言っておりませんでしたか?」
「…………それには、日本における話すと長ーい事情がありまして」
女神様が心底面倒くさそうな顔をしていらっしゃる……この国は菓子の名称に関して、なにかいわくでもあるのでしょうか?
「以前の饅頭はこしあんでしたから、今回はつぶあんを持ってきました。焼きたてでないのが残念ですが、電子レンジで温めるので我慢してくださいね」
「またなにか家財道具を増やしましたわね……そのうちこの教室から物が溢れてしまいそうですわ」
「う、生者に認識できないとはいえそれは避けたいですねぇ…………そろそろ備品整理をしなくては。ささ、とりあえずどうぞ召し上がってください」
急須の緑茶を淹れ終えたわたくしに女神様が促す。最近はコーヒー以外の扱いにも慣れてきました。
「名前の通り粒の形が残っているのですね。表面の生地もザクザクとしていますし、味の他は系統の違う美味しさですわ」
「近頃は尻尾まであんこが詰まったものが多くて嬉しいんですが、そうでないのが恋しくもなるんですよねぇ。うぐぅ」
濃厚なあんこに支配された舌を緑茶で洗い流す。
ナギサがフランベルジュ家にあんこを持ち込んだということは、この生活が終わった後もわたくしはこの味を楽しめるのでしょうか。そうなるよう、こちら側から料理人たちを応援しておきましょう。
「確かナギサたちは敵が我が公爵家を狙っていると推測なさっているのでしたわね」
「そうですねぇ。なにか狙われる心当たりとかありません?あまり言いたくはありませんが、恨みを買ったとか」
「そんなもの探せば大量に出てきますわよ。最も逆恨みが大半だと断っておきますが……」
「当てにはならなそうですけど、例えばどんなものが?」
「そうですわね……領内で違法薬物を蔓延させようとして潰された犯罪組織ですとか、信徒を利用して政治に介入しようとした教会ですとか…………わかりやすいものを挙げたので、先祖の代の話も混ざっておりますがね」
「なかなかのスケールですねぇ」
恨みとは恐ろしいもので、理不尽な上に人から人へ受け継がれていきます。生まれるよりも前の出来事で憎しみを持たれることもあるものです。先祖の話とはいえ、今でも根に持たれている可能性は十分ありますわね。
「復讐という線では絞るのは難しそうですねぇ。損得という面でもよくわかりませんし……あでも、知り合いに聞いてみたところ世界を繋げる魔法は今でもちょくちょく使用の痕跡が見られるそうですよ。成功は事件の日以外していないそうですが、犯人連中はまだなにかするつもりで間違いなさそうですねぇ」
「なっ、なぜ帰郷中に電話してくださった時にそれを伝えなかったんですの!?」
「その時点ではまだ調査中の段階だったんですよぉ…………めそめそ」
…………責められて悲しそうな顔をしているのは本心からのようですが、誇張しようとするせいで台無しですわね。そういえばナギサに教えていただきました。女神様はいちいちシリアスを壊さないと気が済まないのだと。
「ところでたい焼きの最後の一つをどちらが食べるか、デュエルで決めません?」
「なぜそこで奇数個買ってきてしまうのですかね……」




